君が僕を貫いた ー 現代異能バトルBL参加作品

音無野ウサギ

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9 消えた初恋 (シオン視点)

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試合終了のゴングがアリーナに鳴り響く。

「勝者 シーオーンー!!」

審判が俺の勝利を叫び観衆が興奮にわく。叫び声とともに観客席から俺達のいるリングへたくさんの花束が投げ込まれた。そのうちの一つを拾って会場に手を振る。『シオン!結婚して!!』手作りのパネルを捧げこちらを見つめる女性たちが黄色い声を上げる。その気はないが客商売だ、いくつか投げキッスを飛ばしてリングを降りた。

煌々と照らされていたアリーナとのギャップでさらに暗く見える長い廊下を歩く。会場内の熱気が届かなくなればなるほど俺の興奮も冷めていく。

「バカバカしい」

異能バトルの競技者として何度かリーグで優勝したこともある俺は名実ともに異能バトルの顔と言われる選手になった。けれどどんなにド派手な成績を飾っても俺の心が満たされることはない。

俺の活躍を見て欲しいのはただ一人。昔から俺だけを見つめてくれたあの瞳が今どこかで誰かを見つめてるのかと思うとじわりと焦りが胸に広がった。

初めて会った時俺たちはまだ幼稚園。子供の頃から自分の容姿が優れていると知っていた俺はケイに引き合わされた時もその目が俺を捉えた瞬間大きく見開かれたのを特段不思議には思わなかった。そういったことはよくあったし、その後は皆俺と友達になりたがったから。

でもケイは何も言わずにただ俺を見つめ続けた。その時どくん、と俺の心臓が跳ねた。その光る黒曜石のようなケイの瞳が俺を捉ええぐり楔を打たれた。ただそう感じた。

なぜとかどうしてなんてわからない。ただ俺の心にあったのは……

(……この目に僕だけを見て欲しい)

それが胸の奥にちろりと小さな執着の炎がおきた始まりの時だった。

それからはケイが俺の一緒にいたくて触れたい一番になった。周囲に愛想を振りまくことは忘れなかったがただただケイを求めた。それがドロリとした執着へと育っていき幼年期に持つには早熟で危ういものになり、ある日二人で居たときに野犬に襲われ、異能の発現として暴発した。

(僕のケイに触るな!!)

初めて俺の身体から飛び出た異能は嵐のように周りのものを貫きなぎ倒しケイですら傷つけた。その後早熟だった俺の性衝動と異能の暴走がリンクしていたとわかったせいでケイには会えないよう隔離され、それから特別な施設に入れられて色々とコントロールするよう矯正された。

施設をでて異能学園中等部に入った俺はどうしてもケイに会いたくて夢渡りの異能を持つクラスメイトに橋渡しをしてもらって夢の中で一度だけ会うことができた。

久しぶりに見たケイは相変わらずそのスピアみたいな視線で僕の心臓を貫いて何年たっても俺の心臓を止めようとして、俺の初恋は終わってなんかないってことを思い知らせてきた。我慢できずにキスしたけどそれ以上はまた異能の暴走をするんじゃないかって必死で抑えて夢から退場した。

それから異能学園にケイが入学して来てからは今度は逆に俺を見るたびに彼のかくれんぼ異能を暴走させるケイのせいでまともに顔を合わせることも出来なかった。

すぐ側にいるのに会えない俺はストレスを貯めもう一度夢渡に頼ることにした。結果夢渡は驚くほどスムーズにいった。元クラスメイトによると一度わたった相手だし今はすぐそばにいることケイが常に俺のことを考えているかららしかった。スムーズに行き過ぎて俺とケイが同時に寝ている時はほぼ毎回のように夢を渡ることが出来てしまった。

だから昼間顔を見せてもらえない分夢の中で逢瀬を重ねた。夢の中で俺の欲求をぶつけても夢の中だからって色々許してくれるケイにちょっとやりすぎたかもしれないけど、触るたびに細い腰を震わせるケイが可愛すぎたのが原因だから俺は悪くないと思う。

卒業試験で怪我をしたケイが目覚めた治療室でやっと現実で触れあえて結ばれて全部手に入れたと思った。

思ったのに……

ケイは俺と愛を交わした後眠りこけ、1週間後目を覚まし学園内の治療室から出た後その消息をたった。

すぐに見つかるはずが探索系の能力者に頼んでも見つからない。何故か急にケイの異能はスキルアップしたらしく彼の最後の足取りが追えないまま五年。今でもドロリとした思いを抱えながら眠る日々だ。

俺の腕の中で可愛く啼いていたあの日のケイを思い出すだけで戦いで発散したはずの熱が身体のうちに起こる。

「ちっ」

高ぶりだした己の息子を収めるためにも先にシャワー室に行こうと立ち止まったその時どしんと後ろから何かが足にぶつかりそのまま足に張り付いてきた。

「何だお前?」

見下ろせばそこにはクリクリとした栗色の巻き毛の子供が大きな目を真っ赤にして今にも零れそうな涙で潤ませて俺を見上げていた。幼稚園くらい?だろうか。どこかで見たような不思議な既視感におそわれる。が思い出せない。

(迷子か?)

「ぼっわ、しお!よ、さ、です!!」

(うーん、わからん)

その時俺は見知った気配を感じて廊下の先を見つめた。

(面倒だなここに居て見つかるよりは……)

俺の足にへばりついた子供にたずねた。

「菓子くうか?」

コクリと頷いた子供を連れて控室へと逃げ込んだ。
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