転生したら親指王子?小さな僕を助けてくれたのは可愛いものが好きな強面騎士様だった。

音無野ウサギ

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14 恋の矢印

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数日後、相変わらずふわふわというかどうにも挙動不審なレオさんが仕事に出かけいつものようにキッチンに立つ僕にかすかな声が届いた。

「おら!小僧!!早くここを開けろ!!」

聞き耳をたててみればどうやら玄関のほうからしている声に僕は急いだ。

(この偉そうな話し方は!)

「フロー?」

そっと扉を開けると足元に黒い影。

「わっ!」

開けた隙間からびゅん!と残影を残しながら家の中へ消えたフローを追って行くと彼はキッチンにいた。作業台の上で緑の目をキラキラさせる姿に懐かしさを覚える。

「小僧!これは?これはなんだにゃ?」

「きのこのスープとチキンのピカタだよ。よかったら食……?」

「せっかくだから食べてやるにゃ!」

僕の『食べる?』を聞き終わる前にフローはチキンにまっしぐらした。
チャッチャッチャッチャッと舌がなる音をお供にあっという間に僕のチキンピカタがフローに吸い込まれていく。

(いい食べっぷりだぁ)

チキンピカタを平らげ皿をきれいに舐め終わったフローが視線を移したのを見て僕は慌てて手を伸ばした。

「これはだめ!」

フローが食いつく前になんとか確保したレオさんのお皿を頭上に高く持ち上げる。

「お世話になってる人の分だから」

しばらく視線を合わせているとすごぉく不満げに鼻に皺を寄せたフローが了承の意を示した。

「……まぁ勘弁してやるにゃ」

「まだ食べたいならスープもあるし、オムレツとか作ろうか?」

僕の分のチキンピカタがなくなってしまった今、時間切れになる前に僕のご飯を作らないといけないし。時短ものといえば卵料理かなと提案すると途端にごろごろと喉を鳴らし始めたフロー。まるっきり猫ちゃんな姿にによによしてしまう。

(現金だねぇ。そんなに僕のご飯が美味しいんだ)

卵をお椀に割り入れてちゃちゃちゃと混ぜながら僕は僕の手元から視線を離さないフローに尋ねた。バターを落としたフライパンの中に卵を流し入れると、じゅっと音をたてながら黄色の波がたった。

(おいしくなーれ)

「ねぇフローどうしてここに?どうやって僕がここにいるってわかったの?」

「あ、そうだったにゃ!お前あの騎士に余計なことをしているにゃ!」

「余計なこと?」

フライパンの中の卵の形を整えながら僕がそう首をかしげたときだった。

「あれ、開いてる?誰かいますか?」

「レオさん仕事に行ってるはずだけど?」

「なんかいい匂いしない?」

「ごめんください。テレザの娘です。入りますよ」

玄関から人の声がしてこちらに向かってくる物音に僕とフローは顔を見合わせた。

「テレザの娘さん?どうしよう!僕のことレオさん知らないのに!!」

「?!とりあえず隠れろ!」

そう言われてもキッチンには食器棚とオーブンに作業台に小さなテーブルと椅子しか無い。

(どうしよう!)

「小僧、来い!」

キッチンの扉の後ろからフローが呼んだ。僕が慌てて壁とドアの間に身を隠したときその人達はキッチンに入ってきた。

「え?誰かご飯作ってる?」

「あぶな!フライパンこのままだと焦げちゃう!」

フライパンを扱ってる音がして声から若い女性二人だとわかった。

「あんたのお母さんじゃないの?」

「さっき母さん家にいたんだけど」

「別の家政婦を雇ってるんじゃないの?」

「だったら私にご飯作ってるかなんて聞かないでしょ?レオさんが母さんが作ってないものにお礼を言うから、母さん私が作ってるんだと思うって言っちゃったんだよ。そしたらなんかおかしなことになってて、だから今日ここに来たんでしょ」

「あんたがレオさんに惚れてるって噂、騎士団皆に広まってるよね」

「ありえないでしょ。挨拶しかしたこと無いし。顔怖いし。年上だし!私が好きなのはカールさん!それなのにカールさんにまでそれが伝わってたんだよ。『好きな人にご飯を差し入れるなんて意外に健気なんだねぇ。レオのやつすっかり君に夢中だよ』って好きな人に言われた私の気持ち!わかる?」

「カールさんに勘違いされたのは辛いよね」

「しかも誤解を解く前に行っちゃったから!絶対早く誤解をとかないと他の子にとられちゃう」

「カールさん人気だからねぇ。あんたも諦めるとかないの?」

「ない!未婚の騎士さんの中で一番好み!顔が大好き!優しいし!レオさんみたいな傷のある怖い顔って絶対やだし!!最近やっとお話しできるようになったのに。レオさんのせいでふられたら恨む」

「まぁ顔はいいけどさ。人気ありすぎて私は結婚相手にはどうかと思うなぁ。向こうが私に夢中になってくれないと不安になっちゃうし」

「うーまぁそうだけど」

「ねぇ、他の部屋の確認したほうが良くない?こんだけ騒いでるのにここに来ないっておかしくない?もし私達が怖がらせてるんならかわいそうだし」

「かわいそうって」

「だってこれ作ってる子レオさんのことを好きだから料理してるんでしょ?私は女の子だと思うよ。もしかしたらもう居なくなっちゃったかもだけど探してみよ。どんな子か興味ある!」

「そう、だね」

「で、誰もいなかったらちょっと味見しちゃおうよ。ご飯すごく美味しそうだし」

「ゆるさんー!!」

「「きゃー!!」」

怒鳴り声とともにフローが扉の影から弾丸のように飛び出して女性たちの叫び声とガシャンバリンと連続して物が壊れる音がした。突然真っ暗になったキッチンからきゃーきゃー叫びながら二人が出ていく。玄関に向かう廊下を覗くと外からの明かりで家の外へ逃げていく二人の背中が見えた。どうやら先ほどの破壊音は家中の明かりが壊れたものらしい。

「小僧の飯は俺のものにゃ!」

ふんす!と暗闇の中緑の目と荒い鼻息だけで存在を主張するフローを見て僕は面倒なことになったと思った。

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