転生したら親指王子?小さな僕を助けてくれたのは可愛いものが好きな強面騎士様だった。

音無野ウサギ

文字の大きさ
上 下
4 / 19

4 親指サイズのシンデレラは料理を楽しむ

しおりを挟む
それから数日が経ち温かいオーブン脇ですやすやして夜になってお掃除して、ちょっとずつ分かってきたことはフロー以外の使い魔は基本僕に絡んでこないってこと。

この家にはカエルの他にコウモリとかいろんな使い魔がいるんだけどたいてい小さな生き物が使い魔になってるみたい。踊るスプーンやティーポットが現れたり喋る鏡とか無いかなーっておもったんだけどね。

ちょっとだけあの有名なアニメスタジオの世界に転生したのかと思ったけど違うみたい。だーれもいきなり踊りだしたり歌いだしたりしないんだな。残念。魔法が使えなくても天賦のミュージカルの才能が僕に与えられてるかと思ったのにね。

初日にゲコゲコとうるさかったヒキガエルたちも普段はひんやりしめった地下にある穴で寝てるらしく僕の私室がわりのキッチンは静かなものだ。頑張ってきれいに掃除してわかったことはなんとこのキッチン食材が無限に湧いてくる食料庫がついてるの。最初は気づかなかった壁の裏になんと実はこんな秘密が!!

すごくない?すごいよねーだから魔法使いさんはきっと本当にすごい人なんだと思う。
だってここにいる限り食いっぱぐれること無いってことだよ!ウキウキしちゃった僕は大きなサイズになってる間に簡単なご飯を作ったりもしてる。
え?出来るのかって?
とーうぜーん!お料理だってお菓子だって家庭料理ならお任せあれ!
むふふーすごくない?僕それなりに料理男子なんだよね。

大学生で一人暮らしをし始めるまえに修行しろって妹から言われて酔いどれ料理人さんの料理配信や子育てママさんのお菓子づくりをネットで見まくっていたかいがあった。これもまた妹のお蔭さまなんだね。うんうん。

(今頃どうしてるのかな……)

きっともう二度と会えない家族のことを思ってしゅんとしていた僕を黒猫フローが呼びつける声がした。

「こぞう!こーぞーぉー!!これ!これなんだ?!」

使い魔のくせにやたらと物理で押してくる僕の上司フローはキッチンの作業台から僕を呼んでいるらしい。そっから呼ばれても顔を出してくれないと床の上からフローの様子は見えないというのに困ったもんだ。

「どれのこと?」

「このまるっこいやつだにゃ!」

この数日でわかったことだけどフローが可愛い語尾になる時は大抵あのきれいなお目々をキラキラさせてるんだよね。さては昨日の夜僕がちゃちゃっと仕込んでおいたご飯を見つけたな?

「なーんのことぉ?」

「お前、わかってるだろう小僧!このふわふわの丸いやつはなんだ?」

「えー?」

「お前、ちゃんと答えろ!答えないと恐ろしい目に合わすぞ!!」

作業台から身を乗り出してきたフローの顔が頭突きに入る3秒前になってたので僕は大人しく白旗をあげることにした。

「なんちゃってエビしんじょだよ」

「なん?ちゃってぇびじょ?」

「たたいたエビをお団子にしたのを揚げ焼きしたやつ。はんぺんとかあったらもっと美味しいんだけどさ。昨日は貯蔵庫にエビがあったんだよねぇ。意外に美味しく出来たからフローも食べてみたいかと思ってさ」

「お前がどうしてもっていうなら食べてやってもいいにゃ!!」

「はいはい、どーぞ召し上がれ」

僕がそういうとフローの頭はぴゃっと見えなくなった。作業台の上から咀嚼音とぴちゃぴちゃと皿を舐める音までしてきてどうやらお気に召したみたい。

しかし今のって僕が飼い主っぽくなかった?ご飯に待てをだしてちょっと辛抱させるの。フローってそういうとこある。召し上がれって言われないと僕の作った料理に手をつけない。
猫のくせにやたらとお行儀がいいなぁ?魔法使いのしつけかな?

おぉ、どうやら時間みたい。
僕の背丈がぐぐいっと伸びる。今日もお仕事の時間だねぇ。
どうやらこの家の部屋の配置は魔法使いの気分で変わるらしく昨日キッチンの隣にあった部屋が上の階に移っていたりとかある。

掃除した部屋がどこなのかわからなくなりがちなので最優先は魔法使いの寝室、次が僕のいるキッチン。
あとはフローが今日はこの部屋もしろとか言ってくるからそこをしていく感じ。

「フロー、今日はどこの掃除?」

「様をつけるにゃ!小僧!寝室のほかは今日は玄関ホール、逃げようなんてするんじゃないぞ!」

僕の前を歩いていくフローの尻尾がごきげんに揺れる。おいしかったんだね。かわいい。

なんとフローの尻尾は先が割れて二股なんだよね。猫又さんなのだ。年を聞いたら覚えてないって言われたけどね。どうやらご長寿。

あ、そうそう、ご長寿といえばこの館の主である魔法使いさん。

フローがいうことには「主様は魔法使いの中の魔法使い。大魔法使い!今まで誰にも負けたことがない。西の魔女と戦ってこのあたりで一番になったのが200年くらい前。それからずっと一番!さすがは俺の主様!!」らしい。

魔法使いの顔を見たことは無いけどきっとヨボヨボのおじいさんなんだと思う。
日本のご長寿さんも100歳超えたらしわくちゃのおじいちゃんおばあちゃんだもん。
いくら魔法使いでも、ねぇ?

その大魔法使いが今何をしてるのかと聞けばフローは言葉を濁した。
夜になるとお出かけしてるみたいで僕がお掃除している間に姿を見ることもないしほんとにここに住んでるの?

まあ下っぱも下っぱな僕に顔を見せる義理なんてないのかもだけど本物の魔法使いって会ってみたいよねー

やっぱり箒で空を飛んだりするんだろうか?

そんなことを考えながら僕は棚の上のほこりをはたきで落とす。落ちたほこりを箒で集めながら掃除機があればいいのになあと回りを見た。

まあ、こんなもんかな?

さっさとキッチンに戻ってフライドポテトと唐揚げを作ってしまいたい。小さくなってる間はほとんどなにも食べれないから大きくなってる今が爆食いチャンスなんだよね。

ご飯のことを考えた僕は急ぎ足でキッチンをめざす。

玄関ホールの扉についた外を覗くガラスを通して僕を覗くだれかの視線なんか気づかずに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。

柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。 そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。 すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。 「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」 そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。 魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。 甘々ハピエン。

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする

拍羅
BL
SS級治療師、ルカ。それが今世の俺だ。 前世では、野犬に噛まれたことで狂犬病に感染し、死んでしまった。次に目が覚めると、異世界に転生していた。しかも、森に住んでるのは獣人で人間は俺1人?!しかも、俺は動物アレルギー持ち… でも、彼らの怪我を治療出来る力を持つのは治癒魔法が使える自分だけ… 優しい彼が、唯一触れられる竜神に溺愛されて生活するお話。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

独占欲強い系の同居人

狼蝶
BL
ある美醜逆転の世界。 その世界での底辺男子=リョウは学校の帰り、道に倒れていた美形な男=翔人を家に運び介抱する。 同居生活を始めることになった二人には、お互い恋心を抱きながらも相手を独占したい気持ちがあった。彼らはそんな気持ちに駆られながら、それぞれの生活を送っていく。

処理中です...