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57 霧の中
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熱を出した日はいつも悪夢を見た。暗い暗い闇の中にいるナニかに見つからないように私は息を潜めて小さくなる。のどがかわいて苦しくて目を覚ましては枕元の水に手をのばすけれど、その手が水に届く前にまた暗闇に引きずられるのだ。
だからのどが渇いて伸ばした手を優しく包まれたとき、夢の中なのか目を覚ましているのか分からなかった。
「エミー?」
声がした方へと視線を向ける。何故か視界が暗くぼやけていてよく見えない。この声はエルフ先生だと思うのだけれど。
「気が付きましたか?」
返事をしようとして声がでないことに気づく。
クェへヒューと喉の奥から空気が音を立てる。
「随分と眠っていましたからね、まずは水をすこし飲みましょうね」
そっと吸い飲みが口元へもってこられ、本当にすこしだけ水を注がれる。カラカラに乾いていた口の中を潤す水がとても甘くてもっとほしいとよく見えない目で訴える。
「ゆっくりですよ」
こくりこくりと飲み干す。一口ごとに細胞一つ一つに水がしみていくのがわかる。ゆっくりだけどなんどもおかわりをねだり一息つくとまた重たい頭をベッドに沈め目を閉じる。
パチリ。パチリ。パチリ。パチリ。
やっと暗かった視界が少し明るくなる。でもまだ白いぼんやりとした膜のが張っているようで先生の姿がよく見えない。
「センセ?」
「ここですよ」
きゅっと右手を握ってくれた先生の手が温かくてほっとする。
「わたし、寝てました?」
「そうですね。けっこう長く。何があったか覚えていますか?」
「エントに襲われてお腹が、痛くて。寒くて」
「そう、大変な目に会いましたね。心配しましたよ」
「ごめんなさい」
「怪我は回復魔法で傷跡も残らないくらいキレイにしてもらえました。あとは寝たきりだったので体が弱ってしまってると思いますから。しばらくは安静に」
「はい、ありがとうございます」
いつもの優しい声よりももっと優しく気遣う声がうれしくてなんだか目が熱くなってくる。目を閉じるとするりとこぼれた涙が耳を濡らした。
「うるさいですね。静かにしなさい」
すると先生の声が突然冷たく変わった。この声の感じは授業中に騒いでいた生徒に向けられたものと同じである意味なつかしい。
「静かに待てができない犬は捨てられますよ」
へ?この言葉はわたしに向けられたものじゃないよね。どこかでガタリと椅子が動く音がした。
「だからエミーが目覚めたばかりだというのにあなた方は騒がしい。彼女が落ち着いたら呼びますのでさがりなさい」
だ、誰?誰に向かって話してるの?あなた方って複数。でも私には何も聞こえないんだけど。先生の声だけしか聞こえないんですが。
「せんせい?」
とても嫌な予感がします。
「なんですか、エミー?」
でも確認しなくては。
「誰に向かって怒ってるんですか?」
先生が一瞬息を呑んだのは分かった。
「静かにしなさい。今すぐここを出ていってくれないのならエミーを今すぐエルフ族の国へ連れていきます」
そして先ほどよりも厳しく冷たい声で誰かを部屋から追い出したようだった。ドアの開閉の音がしたから。
後遺症ってやつ・・・・かな?お腹に穴が空いたんだもの何かが元通りにならなかったんじゃないかな?しょ、しょうがないよね。でも声だけ?聞こえないのは声だけ?
「エミー」
そっと先生の手が頬にふれる。先生の呼吸が近づいたのが分かる。でもこんなに近くにいるのに先生の姿が薄い影のようにしか見えない。
「はい」
「私の顔が見えますか?」
「・・・・よく見えません」
「どのくらい見えますか」
「なんだか明るい薄い影のようなぼんやりとした形でしかわかりません」
これはまるで明るい、濃い霧の中に居るような。
「声ははっきりと聞こえているんですね」
「はい。それはちゃんと・・・・先生の声は聞こえます。でも・・・・」
「他の人間の声は聞こえなかった?」
「はい、すみません」
「貴方があやまることではないんですよ」
そう言うと先生はおでこに軽くキスを落としてくれた。
「私がかならず貴方を守ります」
そう言ってこんどは唇に軽くやわらかなキスが落とされた。先生の長い髪が軽く私の頬をかすめて離れた。
せっかく目が覚めたのに私のこれからはまさに五里霧中、他の人の声が聞こえない分さらに分が悪い。
聖女が私を呪ったと糾弾しても誰が味方になってくれるのだろう。
温かい布団の中でぞくりと寒気が走った。
だからのどが渇いて伸ばした手を優しく包まれたとき、夢の中なのか目を覚ましているのか分からなかった。
「エミー?」
声がした方へと視線を向ける。何故か視界が暗くぼやけていてよく見えない。この声はエルフ先生だと思うのだけれど。
「気が付きましたか?」
返事をしようとして声がでないことに気づく。
クェへヒューと喉の奥から空気が音を立てる。
「随分と眠っていましたからね、まずは水をすこし飲みましょうね」
そっと吸い飲みが口元へもってこられ、本当にすこしだけ水を注がれる。カラカラに乾いていた口の中を潤す水がとても甘くてもっとほしいとよく見えない目で訴える。
「ゆっくりですよ」
こくりこくりと飲み干す。一口ごとに細胞一つ一つに水がしみていくのがわかる。ゆっくりだけどなんどもおかわりをねだり一息つくとまた重たい頭をベッドに沈め目を閉じる。
パチリ。パチリ。パチリ。パチリ。
やっと暗かった視界が少し明るくなる。でもまだ白いぼんやりとした膜のが張っているようで先生の姿がよく見えない。
「センセ?」
「ここですよ」
きゅっと右手を握ってくれた先生の手が温かくてほっとする。
「わたし、寝てました?」
「そうですね。けっこう長く。何があったか覚えていますか?」
「エントに襲われてお腹が、痛くて。寒くて」
「そう、大変な目に会いましたね。心配しましたよ」
「ごめんなさい」
「怪我は回復魔法で傷跡も残らないくらいキレイにしてもらえました。あとは寝たきりだったので体が弱ってしまってると思いますから。しばらくは安静に」
「はい、ありがとうございます」
いつもの優しい声よりももっと優しく気遣う声がうれしくてなんだか目が熱くなってくる。目を閉じるとするりとこぼれた涙が耳を濡らした。
「うるさいですね。静かにしなさい」
すると先生の声が突然冷たく変わった。この声の感じは授業中に騒いでいた生徒に向けられたものと同じである意味なつかしい。
「静かに待てができない犬は捨てられますよ」
へ?この言葉はわたしに向けられたものじゃないよね。どこかでガタリと椅子が動く音がした。
「だからエミーが目覚めたばかりだというのにあなた方は騒がしい。彼女が落ち着いたら呼びますのでさがりなさい」
だ、誰?誰に向かって話してるの?あなた方って複数。でも私には何も聞こえないんだけど。先生の声だけしか聞こえないんですが。
「せんせい?」
とても嫌な予感がします。
「なんですか、エミー?」
でも確認しなくては。
「誰に向かって怒ってるんですか?」
先生が一瞬息を呑んだのは分かった。
「静かにしなさい。今すぐここを出ていってくれないのならエミーを今すぐエルフ族の国へ連れていきます」
そして先ほどよりも厳しく冷たい声で誰かを部屋から追い出したようだった。ドアの開閉の音がしたから。
後遺症ってやつ・・・・かな?お腹に穴が空いたんだもの何かが元通りにならなかったんじゃないかな?しょ、しょうがないよね。でも声だけ?聞こえないのは声だけ?
「エミー」
そっと先生の手が頬にふれる。先生の呼吸が近づいたのが分かる。でもこんなに近くにいるのに先生の姿が薄い影のようにしか見えない。
「はい」
「私の顔が見えますか?」
「・・・・よく見えません」
「どのくらい見えますか」
「なんだか明るい薄い影のようなぼんやりとした形でしかわかりません」
これはまるで明るい、濃い霧の中に居るような。
「声ははっきりと聞こえているんですね」
「はい。それはちゃんと・・・・先生の声は聞こえます。でも・・・・」
「他の人間の声は聞こえなかった?」
「はい、すみません」
「貴方があやまることではないんですよ」
そう言うと先生はおでこに軽くキスを落としてくれた。
「私がかならず貴方を守ります」
そう言ってこんどは唇に軽くやわらかなキスが落とされた。先生の長い髪が軽く私の頬をかすめて離れた。
せっかく目が覚めたのに私のこれからはまさに五里霧中、他の人の声が聞こえない分さらに分が悪い。
聖女が私を呪ったと糾弾しても誰が味方になってくれるのだろう。
温かい布団の中でぞくりと寒気が走った。
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