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35 幼馴染は再び豹変する

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「まだ、目をあけないでね」

 そういうとニコは私を腕の中に抱えて進んでいく。体の揺れ方からもう階段は過ぎて2階の廊下になったらしいと判断する。

「たしか、この部屋だったんだ」

 そういうとドアを開ける気配がした。

「いいよ、あけてみて」

 目をあけると至近距離にニコの顔があった、にこりとわらって軽いキスを唇に落とされる。ほんわりと触れてすぐに離れるその唇が柔らかくて優しい。美少年、いや美青年になりつつあるイケメンはどこもかしこもイケてるんだから神様は本当に不公平だ。

「へへ、なんだか新婚さんみたいじゃない?」

 へにゃっと笑う顔に心のなかで悲鳴を上げる。それ糖度500%だから!!あまったるい笑顔を向けないで!普通の娘さんはそんな顔されると恋しちゃうから!!

「だ、だから、私結婚とかまだまだ考えてないんだってば」

 必死に目をそらしながら、反論するけどつっかえて、平静を装うのに失敗した。

「そんなこと言って、花の命は短いって言うでしょう?」

 ぬぬぬ。まだ私18だぞ。いやまぁ皆結婚するのは20前後だけどさ。

「僕の顔スキスキ言ってよってくる人と違ってエミーは僕といても顔のこと気にしないから、僕がぽっこりお腹のおじさんになっても僕のこと嫌いにならないでしょう?」

 え?花の命ってニコが花の方?たしかにニコのお父さんは年々たぬきさんみたいにぽっこりお腹になっていってるけど、あれはあれで貫禄がついていっているという言い方も出来る。それにニコは細身のお母さん似だと思うんだけど。

「そりゃまぁニコはニコだし私にとっては」

 たしかに他の子達ほどニコの外見にキャーキャー言わないけど、そういう糖度の高い顔されると普通に胸キュンするんだけど。でもまあ見慣れてるといえば見慣れてるかな。学園では攻略対象たちを見かけることも多かったし、イケメン慣れしてるとは思う。

「何より僕がエミーと一緒に居たい。エミーといると楽しいし、なんか嬉しい。ってごめんね、もっと月だとか花だとかいろいろ例えられたらいいんだけどさ。エミーの周りのお貴族様みたいに」

 最後にちょっと残念そうに言うと、そうっと私を床におろしてくれる。

「ね?可愛いでしょう?この部屋」

 確かに。ニコの言う通りなんだかかわいさ満載の部屋だった。壁紙は薄いグリーンに小花柄でお花畑にいるようなそんな主張しすぎない上品さで、家具もリスと木の葉の組み合わせた図柄を側面に彫り込んだ結構手のこんだものが置かれている。

 二人はゆっくり眠れそうな寝台にかけられた寝具も女の子が好きそうな花がらで、うん、この部屋は確かにかわいい!水差しとか部屋に備え付けの小物までどれもこれも女の子が喜んじゃう可愛さがあふれてる。

「すっごいかわいいんだけど!なにこれ?ニコ、この部屋かわいすぎでしょ?」

 思わずはしゃいだ声を出して窓際に駆け寄る。通りが見えるかと思っていたら裏庭を見下ろす位置だったらしく下には今が盛りの末広がりの管楽器みたいな紫の花が夕日の中たくさん咲いていた。

「お庭もあるんだね、いい眺め」

「うん。この部屋は新婚旅行のお客さんを泊めてあげたくてさ。エミーが喜んでくれるならきっとお客さんも喜ぶね」

「うん。きっと喜ばれるね。評判になって繁盛するといいね」

「まぁ、大丈夫だと思うよ。食堂の方もカロリンの旦那さんのトビーが入ってくれるって」

「え?カロリン結婚したの?トビーってあの大きいクマみたいな?」

 不意に出された幼なじみたちの名前に少し驚く。確かカロリンはニコみたいな可愛い系の顔が好きで、一時期ニコとなかよしの私に意地悪しちゃうくらいだったのに。トビーは確か私達の10歳くらい上だったはず、料理人になりに修行に行ってた、無口だからあんまり絡んだことは無いけど。

 好みのタイプと現実に付き合うのは違うってやつか・・・

「クマって、まあトビーは大きいけどさ。腕は確かだよ。どっかのお貴族様のお抱えやってた人の弟子だったから色んな料理が作れるって。この前スパイスの効いた肉料理作ってもらったけど、美味しかったよ」

「へーじゃあ食堂が開いたら食べに来るね。楽しみ。」

 元日本人としてこっちの世界の一般的な人達よりも食いしん坊気味の私は思わずまだ見ぬご飯を思い頬をゆるめる。

「本当にエミーは食べるの好きだよね。毎日おいしいもの食べたいよね?僕と一緒に宿屋を経営すればその希望は叶うんだけどな」

「だから、結婚はまだしたくないの。仕事も学園で習ったことを活かしたいし」

「でも平民のエミーを雇う貴族家なんてあるの?貴族に嫌な思いさせられるくらいなら僕と一緒にここで頑張ろ」

「だから、その話はこの前断ったでしょ。ニコのこと嫌いじゃないけど。同じ話するなら帰る」

 また堂々巡りになりそうな気配に話を切り上げて部屋を出ようとすると腕を捕まれ引き寄せられた。その強い力に驚いてニコを見ると噛み付くようなキスで口を塞がれた。

 遠慮なく侵入してくる舌が口内を犯し尽くす。後頭部に回された手が私の頭を固定して逃げることを許してくれない。

 身を捩って逃げようとしても背に回された腕が私の腰をニコに縫い止める。ニコの硬さをもちだしたあつい熱をお腹にあてられて私の奥がぼんやりとしたしびれを湛えだす。ついもぞりと足をすり合わせるとやっと口を開放してくれた。

「ね?嫌いじゃない男とキスして濡れるってどんな気持ち?」

 覗き込んでくるニコのさっきまで優しかった水色の瞳がオスの情欲でそめられていて、意地悪な質問と相まって私の奥がまたズキュンと震えた。

「やーらしい顔してるって、分かってるの?」

 挑発するような言葉を吐いた唇が二人分の唾液で濡れて光っていて強烈な色気を醸し出す。私がふるふると頭を振るとニコの舌がチロリと覗いて唇をなめた。

「絶対好きっていわせる」

 そう言って私の服に手をかけたニコは私から目をそらさずに1つ目のボタンを外した。

「逃さないよ」

 夕暮れ時の光が部屋を赤く染めて、ニコと私を照らし出した。
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