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34 ニコのお宿

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それは女性が好むような可愛らしい家具と淡い色合いで整えられた部屋だった。寝具の柄も花柄で貴族の使うものほど華美ではなく愛らしいという雰囲気で、そう、まさかこの部屋に足を踏み入れたときにはエロポンコツボディがその名にふさわしい大活躍をするなんて、私は思いもよらなかったんだよね・・・



 ユリアン殿下と別れた私は街に買い物に来ていた。国境沿いは気候も王都より厳しいと聞いていたので分厚い外套と手袋を念の為に古着屋で手に入れて、さて寮へ戻って荷造りをするかというタイミングで後ろから声をかけられた。

「エミー!!来て!」

 そう言うと私の腰に手を回して路地に引きずり込まれた。

 一瞬目がくらんで誰が私のことを引きずり込んだのか分からなかった。

「大声を出さないでよ。エミーとちゃんと話をしたいんだ」

 そう言って私を腕の中に閉じ込めるのは今でも天使画のモチーフになってもおかしくない、私の幼馴染の美少年ニコだった。

「どうしたの?びっくりした!」

「どうしたのじゃないよ!エミーがうちから急にいなくなった後、良くわからないお貴族様から心配ないからって連絡が来たけど、エミーからの連絡はないし、僕たち心配したんだよ!」

 うぅ、ごめんなさい。ちょっとエロに次ぐエロで色々とんでた。連絡すべきだったよね・・・

「怪我とか、無いよね?」

 心配そうに見つめられると罪悪感が増してくる。その長いまつげで伏し目がちにされると青空のもとで着衣のまま事に及んだ人と別人のような無垢さでこの前の時間が夢だった気がしてくるからイケメンってすごい。エロエロ魔神だったのに、なんだこの可愛さは。

「ごめん、無い。全然元気だよ、連絡入れなくてごめんなさい」

 素直に謝ると深ーくため息をつかれた。がっくりと肩を落としついでに私の肩に頭を擦り付けてくる。

「知ってるけどさ。エミーが一つ以上のことに構えないって。でも本当に心配したんだから。僕だけじゃないよ。うちの両親ももちろんエミーのとこの母さんとハンス兄もね」

 ぐりぐりぐり。ニコは責めるように頭を振る。

「ほんとに、ごめんね」

 ぐりぐりぐり。

 振られる頭にそっと手を乗せる。

「悪いと思ってる?」

 ぐりぐりぐり。

 頭をなでながら懐柔しようとニコのやわらかい髪に指を通す。

「思ってる。埋め合わせするから、ね?ちょっと今から母さんたちに謝ってくる」


 やっと頭を私の肩から離したニコは納得がいかないと言いたげに下唇を少し突き出していた。まだご機嫌が治っていないらしく

「だめ、ちょっとついてきて」

 ぐいっと手を引かれ路地裏から大通りへと連れ出される。

「すぐこに新しい宿屋を開くんだけど、僕に任されることになったんだよ。今から内装の確認に行くからついてきて。エミーの意見も知りたいし」

 私と腕を組むとにっこりと笑ってニコは歩みをすすめる。一階は食堂で二階に客室をいくつか備えた宿屋らしくニコの父さんがちょっと上等な客層向けに用意したらしい。本当に角二つ分先にニコの言う新しい宿屋らしき建物があり、閉じられた正面入口を過ぎて裏口へ回る。

「看板はまだ出してないんだけどね」

 そう言って中に入ると厨房から食堂部分を過ぎて二階へと階段をのぼる前にニコは急に足を止めた。
 私を見ると楽しそうに笑う。

「うん。そうだな、ちょっとエミー目をつむってて」

 何故かいいこと考えた!と言い出した子供の頃のニコと表情がかぶった。大抵こういうことを言い出したときは後ろ手にカエルやトカゲ、小さな蛇なんかを隠して驚かせようとするいたずらっ子だったんだよね。

「なんで?知らない場所だから危ないよ」

 少し警戒した私ににこにこと更に近づいてくる。

「大丈夫抱えるから。僕がいいよって言うまで目を開けないで」

 抵抗するまもなく私の膝裏をすくい上げてお姫様抱っこというやつをされてしまう。抱き寄せられると細身に見えるけどしっかりとした身体つきで確かに私一人を抱えるくらいはたしかに問題なさげだとは思った。

 階段を危なげなく登りだしたニコにあわててしがみつく。

 いやいや、でもこの体勢ニコの顔が近いしちょっとこの前の森のことを思い出してしまうからポンコツボディがむずむずするようなしないような。

「ちゃんと目閉じて」

 ニコに言われるまま目を閉じた私の耳に「だから男の言う事を聞くなと言いましたよ」とエルフ先生の声が聞こえた気がした。

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