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33 第二王子の憂鬱

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 ヴィンセントが去った後フラフラと構内を歩いていると第二王子ユリウス殿下に捕まった。

 3年間見ていたって言われて、じゃあ私にしてきた嫌がらせとしか思えないあれこれは何だったのか?気になる子ほどいじめるってやつだったのか?ちょっとヴィンセントの告げた言葉を反芻していて目の前に現れた殿下に気づかずぶつかる寸前で止まる。


「ちょうど君を探していたんだ。エミー」

 珍しく一人の殿下はにこやかにそういうと、私の顎を取り顔を近づけた。

 えええ?なんで?

「目を閉じるな」

 命令口調に思わず両目を最大に開いて固まる。これが王族の一声ってやつ?王族にだけ伝わる一種の威圧で命じられた人は従ってしまうというスキルを第二王子は持っていたはずだ。実際に使われるとかけられた側は苦しいというのは知らなかった。全身がかるく圧迫されているような感じで、身動きが出来ない。

 すぐにあいてる方の手で前髪を上げられ私の視界を遮るものがなくなった。

 金色のまつげに縁取られた瞳は深い青でこの距離で見つめ合うというのは傍から見れば甘い雰囲気に見えるに違いない。けれどその瞳は冷静に何かを見極めようとするもので彼が私に好意のかけらも持たないのがはっきりと伝わってくる。

 でも、緊張する。だって攻略対象だから顔がいい!しかもなんかこの距離だといい匂いがする。正統派王子様なだけあって爽やかな夏の草原のかぜのような、かすかに香るオーデコロンも嫌味のない彼の外見にあっている。

 ちょっとこの距離を他の誰かに見られたら色々まずいんですが。略奪愛とか変な噂が立つのはまずい。いやいやいや、友達の婚約者だし、ないけど。無いけども!心臓に悪いのは確か、ほんとに離してほしいけど、ここで無理やり手を払えば不敬罪は確実・・・

 一族郎党、地下牢でむち打ち刑・・・嫌な汗が背中を落ちていく。

「ふーん。やはり精霊の加護をうけているのか」

 そう言うとやっと私から離れてくれる。全身が圧から開放され思わず深く息が出た。

「君が光の女神役をやってくれるのならそれでいいんだ、わたしはな」

 殿下は少し疲れたように笑った。さすがの攻略対象、その笑みも思わずそのお疲れを取るためならお茶入れますか?肩おもみしましょうか?と献身したくなる求心力!キュン♡と私の乙女心がうずいた。

「アストリアが変な妄執にとらわれて光の女神役をしなければならないと騒いでいるのは知っているな?」

「はい」

「君が光の女神役になると世界が滅びるらしいぞ。迷惑な話だな。アストリアに譲れ、いいな」

「でも、神託に従わないとアストリア様が危険な目に遭うかもしれないです」

「あの言い伝えか?老婆になり死ぬ?雷に打たれる?ただの古びた伝承に過ぎん。神殿が他からの介入をさけるための理由をでっち上げたに違いないさ」

 まあ、そういう見方もできますけど。

「今日のアストリアときたら世界を救うためと言っては私をおいて遠征にまで出かけようとするんだ。魔物がでている国境近くにどうしても行くというから私まで一緒に行くことになった。まだ第一陣が旅立って間もないからな、戦況がまずいわけでもないのに聖女が助力に出るということで皆も混乱していた」

 そこで第二王子は何か気づいたように私を見つめ直した。

「よし。君も私達と一緒に来い」

 ええぇ、嫌です・・・国境沿いの魔物って大型ですよね?平民に魔道具無しでどう戦えと?

「心配するな、危険はない。アストリアの世話をする侍女をどうするか考えていたんだ。君も魔力量が少ないとは言え学園で学んだんだ、防御くらいは出来るだろう。魔物退治をしろというのではない。アストリアに変な虫が寄らないようにそばに居てくれればいいのさ」

 そう言われて思い出す。多分そこにはちょろすぎシャルルくんが居るってことに。ひょっとして殿下はシャルルくんのことを気にしてるんだろうか?

「アストリアは皆に優しいからな。私だけの聖女でいてほしいと思うが私達の立場ではそういうわけにもいかないからな」

 周りの男の気持ちを心配する殿下は年相応に見えて、ちょっと気の毒だけれども乙女ゲームのヒロインとはそういうものだしなぁ・・・でも逆ハーレムなんてことになってないんだからアストリアが殿下を裏切ることは無いはずだし。

「出発は明後日の卒園式後になる。用意しておくように」

 その言葉を残して殿下は私に背を向けた。

 いいけどさ、仕事も決まってないから。でも明後日ってちょっと急すぎませんかね?殿下方はおつきの人が用意してくれるんだろうけど、頭の中で旅装に必要なものを考えてカイル様に会う前に街に行くべきだなと私もその場を離れた。

 エルフ先生に会いたかったけど、しょうがないね。



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