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11 にこにこニコの嫁取り作戦

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「だから、僕はずっとエミーが好きだったんだよ。
 大きくなったらエミーと結婚するって決めてたし。
 エミーの兄さんたちがエミーに手だしたら容赦しない!って言ってたし、エミーに手を出すときは覚悟を決めたときだって皆の共通認識だったから、まだ僕らの仲間内ではエミーに言い寄るやつがいなかっただけで。
 え?僕?だってこの前ハンス兄が妙なこと言い出したから、ひょっとしてエミーに見合い話でもきたのかと思って。だったらもう先にエミーを僕のものにしたほうがいいな!って。貴族とかって処女じゃないとお嫁さんになれないんでしょ?まあ、平民の男には牽制くらいにしかならないから、早めに子供つくろうね?教会にいって結婚式してお腹に子供もいたら流石に横からかっさらおうとする奴らもいないだろうし。ね?だから赤ちゃん出来たってわかるまで僕のうちで住もうね?さっき教会に結婚式の予約に行ったら今忙しいって受け付けてもらえなかったんだよね。後ですぐに予約してくるから心配しないで」

 にこにことニコが嬉しそうに私の手をにぎにぎしながら私の質問にこたえてくれた。

「なんで私と結婚したいの?」というやつだ。
 嫁を横からかっさらうってどんな絶世の美女の話をしてるかと思えば、その対象私だしね。ちょっとニコの視力が心配だわ・・・

 今朝起きたら苦虫を噛み潰した顔というやつはこれか!というくらい渋い顔したハンス兄と悲しそうな顔をした母さんがリビングで私を出迎えてくれた。そして朝食も早々にニコの家へ連れてこられた。で、ニコの家族ににこにこと歓迎されて、ただ今ニコの家のリビングで結婚についての話が行われているわけだけども、ハンス兄は朝から険しい顔を崩してくれないし母さんもどうしたものかわからない顔で暗い。ニコの家族との明暗の差がこわい。

 なんだかどうするべきかわからなくて「ごめんね」って言ってみたけど「お前のせいじゃない」ってボソリと返されただけでめっちゃ怖い。ハンス兄は上背もあるし鍛冶職人だから筋肉質だし目つきも悪いし家族じゃなかったら避けて歩きたいいかつい風貌だ。いくら長年の知り合いとはいえこのイラつきマックスのハンス兄相手ににこやかに会話を進めるニコの両親の肝の太さにびっくりだ。

「ともかく今回の間違いについてはうちからは責任取れなんて言わないから、無かったことにしてくれ。うちからは以上だ」

「何を言ってるんだいハンス。エミーを傷物にしてほっぽり出したなんてしれてみろ、うちの評判にも関わるし、何よりニコはエミーのことをずっと嫁にしたいって思ってたんだ。何が問題だ」

「ハンス兄、順番が前後したのは悪いと思うけど、僕がエミーのことずっと好きだって知ってただろ。エミーだって僕のこと好きだって言ってくれたんだから、反対する理由なんてないはずだ」

 えー?好きだって言ったかな?分からない、けどそんな覚えはないような。私は結婚は今は出来ないってはっきりくっきり言ってたでしょ?
 きっぱり言い切るニコの横顔が大事な事を決めた男の顔ってやつに見えてちょっとキュンってきたけど、結婚はまだ考えられない。それは譲れない。そしてそれはハンス兄と母さんにも伝えたことだった。

「ダメだ。エミーの結婚については兄貴達の許しもいる。エミーとお前だけの気もちの問題じゃない。兄貴にぶっ飛ばされたくないならこの話は広めるな。いいな!」

「ごめんなさいね。ニコ。今は時期が悪いの。エミーが貴方を選ぶって決めたときには、ね?」

 母さんとハンス兄がなだめてくれてなんとかその場を丸く収めようとしたのに、部屋のドアが弾け飛ぶみたいに大きく開いて皆の気が取られた一瞬でニコが私の視界から消えた。

 へ?

 何が起きたのかわからず目を凝らすと、ニコがいなくなっただけでなくニコの家のリビングが私の視界からなくなっていた。というよりは、私が居るのは知らない場所だった。つまり私が彼らの視界から消えたほうだったのだ。

 で、今私の目の前に広がるのは四方の暗い石壁と明かり採りの鉄格子のはまった天井窓。薄暗いしカビ臭いしなんだか寒い。ブルリと身震いをすると部屋の中で何かが動いた。部屋の隅に何かがうずくまっている。黒い、毛玉?

「動かないほうがいい。そいつは動くものに反応する。目も耳も鼻もきかないが空気の揺れで獲物の場所を測っている。先程食事をしたばかりだからすぐに襲いかかってくることはないと思うが、まあ念の為にな」

 その声は明かり採りの窓から聞こえた。ということは私が上を向けば声の主が見えるわけだけど、まぁ動くなと言われたのだから動かないし、動けない。若い男性の声だと思われる。偉そうだし、こんな事ができるのはお貴族様だ。魔法か何かで私をニコの家からここまで連れてきたに違いない。緊張で変な汗がでてくる。でも動いちゃダメ、声も出しちゃダメ。黒い毛玉の正体はわからないけど、魔物の一種だろう。命大事。息をできるだけ殺して存在を消さないと。

「ほう、なかなか聡いな。質問もないということは声を出すと空気が揺れることが分かっているのか?」

 楽しげなその声は研究対象を観察している研究者のように楽しげくで。こいつ、はめようとしたんだ、とムカつく。

「まぁ襲われても君の場合死ぬことはないから安心してくれ。また後で様子を見に来るからな」

 楽しそうな声が消え明かり採りから入る光が少し増え、部屋の隅にある黒い毛玉ももう少し照らされた。
 全身をつつむ長い毛に見えるのは一本一本がみっしりと毛に覆われた足、足の間から淡い光を反射して黒光りする玉のように見えているものは口の外にある殻だ。食事の際は殻の中から舌に当たる感覚器が出てきてもにゅもにゅと獲物を絡め取る。足に生えている毛には毒が含まれているから触った動物は麻痺して動けなくなる。ピルツエッサーと呼ばれる魔の森の低級小型魔物だ。

 魔物学の授業でレポートを書かされたし、ちょっと変わった利用方法があるからよく知られている。毒のある足に触らなければいいので網で罠をかけて捕まえて薬師に売りに行くといい値段になるから兄さんたちも捕まえてた。で、薬師はしばらくピルツエッサーに薬効がある草とか生き物を食べさせて成分を凝縮させてから体の中の毒袋を取り出す。と、あら不思議、餌に応じて薬効の違うエリクサーになるのです!通常の抽出作業で薬師の体に害がある毒物の抽出にはもってこいのピルツエッサーは薬師の死亡率をぐんと下げた人に有用な魔物の代表だ。

 で、襲われても死なないと、お墨付きを頂いたわけだけども・・・ラブエッチから始まり暗闇、青姦ときたら触手とかそういう系なのかなって思うよねこのシュチュエーション。でもこのピルツエッサーの足、触られて、もうらめぇん。な触手と違ってゴワゴワチクチクしてる系なんだけど。R18の痛い系?

 わっかんないなー、さっきのマッドサイエンティスト系の声の主の考えがわからない。たかだか平民の学生の私を魔法を使ってさらった挙げ句に、ピルツエッサーと閉じ込める?ピルツエッサーの餌にするには私は大きすぎると思うんだけどな。この毒のある足にさえ触らなければ大して危険な魔物ではないし。石壁の狭い部屋、とくになにもないし?

 ん?石壁にあるシミが?動いた?





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