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晩餐会の夜 ※

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薬をもられた身体は触られる度に熱い快楽を体の中心に伝えてくる。



 容赦なく攻められつづけた男根と後ろの穴が己と相手の精と薬でグチョグチョに濡れているのを辺境伯ゲオハルトは半ば意識をとばしながら感じていた。



(なぜこんな目に……)



 二十は年下の若造に組み敷かれ喘がされつづけて喉が痛い。



「イクときはちゃんと許しを請えと言ったのに。何回同じ間違いを繰り返す気だ」



 口調は冷たくゲオハルトの尊厳を踏みにじる言葉だが、それを告げつつも第三王子の瞳はなぜか愛しさをたたえているようにも見える。



(そんなわけない。俺を好ましく思うと言うならこの行為はわけがわからない)



 先程から卑猥な言葉を言わされ、薬を使って理性が飛ぶほどに溶かされ続けているゲオハルトは再び深く差し込まれたリヒトの男根から与えられる快楽に背を反らし跳ねた。



 ---







(もしが私が前世のことを覚えていると言ったらお前はどういう顔をするんだろうか?)



 ベッドの上に組み敷かれたというのにまったくもって危機感がない髭面の男、辺境伯ゲオハルトの腰のあたりにまたがり彼を見下ろして王国の第三王子リヒトは口の端を少し歪めた。



『確認したいことがある。非常に個人的なことだから二人きりで』



 国王在位20年の記念式典に参加するために数年ぶりに王宮へと来ていたゲオハルトは晩餐会後に侍従を通じてリヒトに呼び出された。



 今までも王都へ来る度にリヒトはゲオハルトに剣の指南など依頼してきた。王族相手に親しみというのもなんだが第三王子リヒトは現在の王族の中で一番ゲオハルトにとって気やすい相手ではあった。



 そもそも二十以上年下の青年に恐れを覚えなければならないようでは辺境伯などやっていられるものでもない。



 近頃の中央の貴族の様子に気がかりな点はあったが数日滞在後に辺境へ戻るゲオハルトは貴族たちの権力争いに興味はない。リヒトの誘いを口実に晩餐会後の誘いもことわり指定された部屋へと案内された。



 晩餐会場からはさほど遠くはないが人払いされた休憩室へ連れ込まれても内密な話をするためだと言われればゲオハルトは納得したし、寝台に腰掛けるよう促されても椅子代わりかと思っていた。



 そしてリヒトに組み敷かれていても第三王子が男である自分を襲うとは今の今でも思っても見ないのだろう。生真面目な顔をしてリヒトを見上げてくるゲオハルトの表情が前世で第一王女であった彼女に騎士の誓いを捧げてくれた若いゲオハルトの面影と重なった。



 この国でも同性愛はよくある話だがゲオハルトは昔から色恋沙汰に疎かった。ましてやドノーマルな彼が年下の王子である自分から性的に見られる可能性などを考えたことはなかっただろうなとリヒトはかすかに同情する。



 リヒトの夜空色の長い髪に金の瞳の端正な顔立ちはこの国の王族に現れるもので、ともすれば女性のような優しげな雰囲気だが、普段から騎士たちとともに鍛錬を欠かさない彼は服の上からでも分かるほど筋肉のついた男らしい体をしていた。



 つまり地位も容姿も女性を引きつけるのに十分で、王子として義務付けられた社交はこなしてきた彼が女性に全く興味がないと知るものは一人もいなかったのだ。朴念仁かつ脳みそまで筋肉といわれた騎士のゲオハルトが他人の恋模様に興味があるわけもない。リヒトが自分同様独身であるくらいは知っていても何故婚約者を持たないのかは知らなかったのだろう。



 人の噂をさえずることで忙しい宮廷の小鳥たちにきいたなら「第三王子殿下には心に決めた年上の方がいらっしゃる」という噂くらいは聞くことが出来たのだろうが生憎人付き合いを避けていたゲオハルトの耳にはそんな噂は入ってこなかった。



 リヒトは以前と違う力強く節くれだった指で、未だ状況がつかめずにいる男の頬に触れる。



(少し傷が増えすぎではないのか?)



 一つ一つの傷を愛おしさを込めてなぞっていく。右の額から頬への大きな傷が痛々しい。他の小さな傷は新しい組織が他の肌とは感じが違うことで区別がつく程度のものだが、これでは婦女子には怖がられてしまうのも当然だ。



 まあそれが彼の独身を守ってくれたのは、リヒトにとっては願ったり叶ったりではあったが。



 泣く子も黙る辺境伯にふさわしいいかつい強面のくせに、笑うととたんに柔らかになるその眼差しが前回の生でも今生でも愛おしくて、再会して以来気持ちを抑えることができなかった。



 前回では立場がその思いを叶える邪魔をしたが、残念ながら今生では立場に加わり性別までもリヒトの思いの前に立ちはだかった。リヒトの初恋を叶えるために超えなくてはならない壁は高さも厚さもましたのだ。



 だが第三王子という立場も男同士だということも今生ではリヒトを抑えることはできない。前回無念の死を迎えたからこその一生懸命。悔いなく生き通す!それが彼の信条であった。



 だからゲオハルトがなんと言おうと千載一遇のこの機会を逃すつもりはない。無理に身体を開かせてでも彼の心に自分の存在を刻み込みたかった。前世の分の思いも遂げ、かつ二人で幸せに暮らせる未来も手に入れてみせる。



 王族としての2回の生で培った権謀術数を使えばゲオハルトを手に入れることなど造作ない。既に諸方面に根回しは済んでいる。



 気持ちに関してはしょうがない、まずは身体から落とす。そのための手練手管は王族の力で国一番の専門家から教えを請うた。たとえ性的嗜好がどノーマルでも嗜虐的なものであっても今のリヒトには問題ない。



 ゲオハルト以外に使うつもりはないが習得した技術でとろとろに溶かしてバターにしてリヒトに依存させてみせる。



 そう思ってリヒトは暗い笑みを口の端にたたえた。



 一般人なら諦めねばならなかったかもしれないあれやこれやも王族として生まれ落ちたからこそ叶えられ、その点は神に感謝である。



 一回人生を失敗したがゆえの迷惑な真っ直ぐヤンデレ、それがリヒトだった。



 リヒトがゆっくりと顔を寄せても相変わらず避けようともしないゲオハルト。息をしているのか心配になる程ピクリともうごかない。



「ゲオハルト、お前にはキスをされるときに目を閉じるくらいの気遣いはないのかな?」



 彫刻のように固まっていた彼はリヒトが軽く唇を食むとやっとまばたきをした。



 リヒトはゲオハルトの反応に軽く微笑むとプツリプツリと上着のボタンを外していく。



「へ?は、で、殿下?」



 驚きすぎて声が裏返っている。歳を重ねても昔と変わらずにぶい。今まさに性的に喰われようとしているのに目を白黒させて逃げだす機会をとっくに逃している間抜けぶりがかわいくてリヒトをさらに興奮させる。



「まぁいい、私のことを生涯忘れぬように刻み込ませてもらおう」



 シャツのボタンも全て外しあらわになった胸元へ口を寄せる。意外に柔らかな胸毛がリヒトの形の良い唇にふれる。



「ここに」



 チュゥっと左胸にすいつくとびくりとゲオハルトの屈強な躰が跳ねた。



「で、殿下、おやめください」



 我にかえり押しのけようとした彼の手は簡単にリヒトに捉えられていた。いつの間にか紐を使って頭上に束ねられている。そういえばとゲオハルトは思う。第三王子リヒトは端正な顔に似合わず剣技だけでなくあらゆる武器の使いに長けていると評判で近衛騎士以上に強い、と部下の体たらくに騎士隊長がこぼしていた。この様子では接近戦でも王子にかなうものは少ないだろう。



「できるだけ優しくするよ。でも最初はやはり助けがいると思うから、これかな」



 キュポンと軽い音を立てて小さなガラス瓶の蓋をあけリヒトは口をつけた。



 ゲオハルトの顎がつかまれ少し口を開かされる。重ねられた唇からとろりとしたあまい液体が流し込まれ否応なしに飲み込まされた。



「あぁ、少し口に含んだだけなのに、これは・・・・」



 ぺろりと唇をなめながら嗤うリヒトの目が怪しく光る。



 喉の奥を軽く焼きながら胃へと降りた液体が躰を熱くしていくのをゲオハルトは感じていた。すでにうずうずと肉棒がうずき熱の解放を求めてズボンを押し上げている。



 彼は何を飲まされたのかわからないほど若くも未経験でもない。だが社交界のご婦人方がいくらでも一夜の夢を見たがる美貌の王子がなぜ自分を押し倒しているのかは未だ良くわかっていなかった。



(筆おろしの相手として選ばれた?いやいやリヒト様はとっくに成人している。じゃあ戯れの相手?しかし俺は男だぞ!!)



 媚薬を飲まされたということはこれから閨のいろいろが起こるのは確かだと、さすがのゲオハルトにも分かった。



 リヒトの熱い舌がゲオハルトの左胸の突起を丹念に味わうと舐められていない方の突起までたちあがり、リヒトの指先が触れるか触れないかの位置でかすめる度に甘美な電気信号を腰へとおくってくる。視界に入れなくとも分かるほど己の肉棒が固く立ち上がっている。絶望的な気分できつく目を閉じたゲオハルトに彼を組み敷く美貌の若者がささやいた。 



「お前はほんとに押しに弱いなぁ。昔から」



 つづいて柔らかな舌が耳孔へ侵入してくる。その水音と感触に媚薬に惑わされている身体が再び跳ねる。



「やめ・・・・で、殿下」



 己の肉棒が弾け飛ばないように必死のゲオハルトはいつのことを指して『昔から』と言われたのか気づかない。



「リヒトだ。名前を呼べ」



 いつの間にかくつろげられた下履きの中で王子の手がぬるぬると濡れた鈴口をもてあそぶ。

 そのぬめりとともに指が陰茎を下りつぷりと菊門へ侵入する。



「っぁんんっ」



 その刺激に思わず声を漏らしゲオハルトは目を開く。今しがた漏れた声が己のものだと思いたくないのだろうか羞恥の色に頬が染まる。



「こんなに濡らして、悪い子だ。期待してるのか?」



 ちろりと赤い舌をのぞかせて自分を見下ろすリヒトが悪魔に見えたと後にゲオハルトは語った。



 熱い熱い夜の始まりだった。
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