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甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)
矢も楯もたまらず
しおりを挟む扉を出て建物から離れた所で、そっとおろされた。
マーコット様とサフィニア様もすぐそばにいる。
よかった、ご無事で……。
でも、安心している暇は無かった。
遅れて小屋から出てきたジョハン様が、ピーッと笛を吹く。
すると集まってきたのは、剣を持ち武具を身につけた人たち。
十数名……、もしかしたらそれ以上いるかもしれない。
その者たちは少し距離を置いて、私たち四人と向かい合う。
「ぇ、王太子殿下……?」
「ラッドレン殿下では……?」
集まった人々の方から、戸惑った声が聞こえてくる。
その人たちの視線は、私のすぐ隣に立つ人物へ向けられていた。
ジョハン様の笛で彼らが集まってきたという事は、ここはキラエイ公爵の別邸なのかもしれない。
公爵家の衛兵ならば、ラッドレン殿下の顔を知っている人も多いはず。
剣を手にした者たちの後方から、ジョハン様が声を上げた。
「王太子殿下ではない。他人の空似でただの侵入者だ。奴らを捕まえろ!」
ジョハン様の声に反応して、私たちに向かい合う人々が一斉に剣を構える。
剣を手にしたラッドレン殿下が私たち三人を庇うようにして、スッと一歩前に出た。
「マーコット、ふたりを頼む。もうすぐネイブルが騎士団を連れて来るはずだ」
「わかった……って、ぇ、殿下、ひとりで先に来ちゃったの!?」
「そうだ」
殿下の方を向き、マーコット様が目を大きく見開いている。
いつも飄々としていて物事に動じる事の無いマーコット様が、このような表情をするのは珍しい。
「それじゃ突入の合図、早すぎでしょ。なんでそんな危険な事を……」
「ふたりを頼む」
「ぅゎ、殿下っ、そっち行っちゃダメだってば。僕のうしろで守られていてよ!」
マーコット様の言葉を背にして、ラッドレン殿下は歩を進めていく。
そして武器を持つ者たちの前で、静かに剣を構えた。
殿下は自分から攻撃を仕掛ける事は無いけれど、向かってきた者に対しては剣を振り腕を斬りつけ相手の持つ武器を弾き飛ばしている。
その様子を見て、ジョハン様たちの方から怯えたような声が次々にあがった。
「ぁ、あの剣の腕前……やはり王太子殿下ですよね……?」
「ジョハン様、我々はどうすれば……」
「違う、違う違う違う。奴を切り捨てよ。これは命令だ」
ジョハン様の声に、何人もの人が殿下に向かって剣を振り上げては逆に打ち負かされている。
ラッドレン殿下は王立騎士団に所属する騎士に負けないくらいの剣の腕前。
とはいえ数の上では圧倒的に不利。
今は優勢でも、時間が経つにつれ体力が奪われていったら形勢が逆転してしまうのでは……。
ラッドレン殿下に負かされた相手の落とした剣が視界に入った。
簡単な剣術なら私も学んでいる。
剣を手にしてラッドレン殿下に加勢すべき?
そんな事をしたら足手まといになるだけ?
どうしよう、どうしたらいいの……。
だけどラッドレン殿下にもしもの事があったら、私は――。
落ちている剣の方へ引き寄せられるように、私は一歩踏み出した。
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