85 / 98
甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)
禁じられた媚薬
しおりを挟むどういう事ですか、と問う前にマーコット様の身体が動く。
私は床にペタンと座った状態で両手を背中へとまわされて。
マーコット様は私と背中合わせになるようにして、床に座った。
そして私の手を、ギュッと握っている。
周りから見たら、ふたりの両手が一緒に束ねられ背中のところで縛られているように思えそう。
「手は僕とつないだままでいようね~」
この状況にそぐわない明るく力の抜けた感じの声でマーコット様が囁いてくる。
その後は何も喋らなかったので、私たちから少し離れた所に座るサフィニア様の熱を帯びたように苦し気な呼吸音だけが微かに聞こえてきた。
……ん、でも気のせい?
足音が……、聞こえる……?
誰かが来た!?
そう気付いた直後、ギィ……と音を立てて扉が開く。
「あら、目が覚めたのね」
「イニアナ、よかったですね……。ミーネ妃殿下の意識が戻らなかったら大変な事になってしまうところだった」
「別に大丈夫よココットル。その時はまた別の方法を考えるから」
現れたのはキラエイ公爵令嬢のイニアナ様とサーゼツ伯爵令息のココットル様。
名前を呼び合うふたりの声を聞いて、確信した。
キラエイ公爵が、留学先から戻ってきたご子息ジョハン様のために夜会を開催した日。
公爵邸の庭で聞いた若い男女の声は、イニアナ様とココットル様のおふたりによるものだと。
あの時はもっと興奮しているような声だったけれど、間違いない。
「それにしてもサーゼツ伯爵には困ったものね。馬車のうしろに人がくっついていたのに気づかないなんて」
イニアナ様が、呆れたようにため息をつく。
「父もこんな事をするのは初めてなので……言われた通りにできず申し訳ありません」
「ま、いいわ。眠らせて捕まえられただけ褒めてあげる」
「この方、フォトウェル伯爵家嫡男のマーコット様ですよね。どうしましょう。やっぱり眠っている間に外へ放り出しておいた方が良かったんじゃ……」
ふたりの様子から推測すると、サーゼツ伯爵はイニアナ様に命じられて私をここへ連れてきたのかしら。
それならウィムたちが怪我をしたというのは嘘?
それとも怪我は、本当……?
「イニアナ様、何故こんな事を……。そもそもウィムやサフィニア様の弟君が怪我をしたという話はどこまで本当なの?」
言葉を発した途端、私の手を握るマーコット様の手にギュッと力が込められた。
まるで、余計な事はしないでおとなしくしていなさい、と伝えるように。
私を見下ろすイニアナ様が、フフンと鼻で笑う。
「安心なさい、怪我なんてしてないわよ。私はラッドレン殿下をあなたの魔の手から救って差し上げたいだけ」
「殿下を……?」
「今日ラッドレン殿下から手紙が届いたのよ。お兄様の留学先での成績とギフティラ学院特例無試験における不正の件、それに私のカンニングについては証拠があるから自ら罪を認めて学院を自主退学しなさい、と。自白であれば刑もその分考慮される、ですって」
イニアナ様の手には手紙らしきものが握られている。
「私はあなたと違って父親の力を使った不正なんてしてないわ。私がギフティラ学院に合格できたら恋人になってあげることを条件に、ココットルに協力してもらっただけ。私が褒美を与えたのだから、自分の力で得た結果よね。ちょっとココットルのを見ただけで課題もテストも自分でやってるのに、どうして退学しなきゃいけないのよ」
イニアナ様の言葉を聞いて目を見開いてしまった。
もしかしたらポカンと口も開けてしまっていたかもしれない。
なんて自分勝手な言い分。
キッとイニアナ様を睨みつける。とても行儀の悪い事だと分かってはいるけれど。
「イニアナ様、父は私の学業に関して道理に反する行いをした事は無いわ。それに今の話が本当なら、イニアナ様は学院を退学なさるべきよ。まだ若いもの、罪を償えばやり直しはできるから」
「まだ若いからやり直しがきく、殿下の手紙にもそう書いてあったわ。ぁぁやっぱり、あなたがラッドレン殿下をそそのかしたのね、私に手紙を送るようにと。私はココットルに協力してもらっただけで何もしていないのに、酷いわ」
何もしていない?
本気でそう思っているなら、とても危険な考え。
いいえ、考えだけでなく実際にこうして行動を起こしている。
このままここにいてはサフィニア様とマーコット様が危ない。
何としてでもふたりを守らないと。
まずはサフィニア様を、安全な場所へ。
「今の話だとサフィニア様とマーコット様は無関係でしょう。イニアナ様、サフィニア様はここで見聞きしたことを人に言いふらすような方ではないわ。それに顔が赤くて息苦しそうで体調が悪そうなの。サフィニア様を王都にあるアールガード辺境伯の別邸へ連れていってさしあげて、」
「顔が赤いのは媚薬の効果が出てきたからですよ、ご心配なく」
イニアナ様とココットル様とは違う声が聞こえてきて、思わずヒュッと息を飲む。
声がした方へ視線を向けると、扉の所にジョハン様のお姿が。
「媚薬の効果ですって……?」
「妃殿下は馬車の中で飲まなかったようですね。これから飲んでいただきます、無理やりにでも」
サーゼツ伯爵が馬車の中で持っていたのと同じ水筒を、ジョハン様が手にしていた。
「この国では禁じられている貴重な媚薬です。留学中に苦労して手に入れたんですよ。妃殿下にはこの世のものとは思えないくらいの快楽を覚えていただいて、このジョハンのお願いを悦んで聞く身体になっていただきます」
仄暗い笑みが、ジョハン様の顔に浮かぶ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【読者様へ】
いつも小説の閲覧&しおりやお気に入り登録、感想の投稿等してくださりありがとうございます。
新作のお知らせで大変恐縮ですが……
先日以下の小説を投稿させていただきました。
また、こちらの小説はひっそりと『第10回BL小説大賞』にエントリーしております。
もし差し支えなければ、弓はあとの小説に読者様の一票を投じていただけると嬉しいです。
(アンダルシュ作品)
『【BL-R18】転生しても平凡な僕~前世で別れたスパダリが、双子に生まれ変わって溺愛過剰~』
珍しくBL小説、さらに主人公がふたりの恋人と体の関係を持つお話です。
苦手だったら申し訳ありません。その場合はそっと画面を閉じていただければと思います。
なお、相手はふたり(双子)ですが、前世ではひとりの人格だったためかなり一途な恋愛になる予定。
もし少しでも気になったら、試しにちょ~っとだけ読んでみてください。
複数プレイの話、一度挑戦してみたかったんです。
かといって連載中の『お兄ちゃんと~』や『白い結婚~』で複数プレイを書いたら驚きの展開になってしまうため新作公開とさせていただきました。
亀更新な作者なのに、新たに書き始めてしまって本当にごめんなさい。
『白い結婚~』、『お兄ちゃんと~』、そして他の番外編の更新も引き続きがんばっていくので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。
0
お気に入りに追加
7,430
あなたにおすすめの小説
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった
山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』
色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。
◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
【R18】利害一致のお飾り婚だったので初夜をすっぽかしたら大変なことになった
春瀬湖子
恋愛
絵に描いたような美形一家の三女として生まれたリネアだったが、残念ながらちょっと地味。
本人としては何も気にしていないものの、美しすぎる姉弟が目立ちすぎていたせいで地味なリネアにも結婚の申込みが殺到……したと思いきや会えばお断りの嵐。
「もう誰でもいいから貰ってよぉ~!!」
なんてやさぐれていたある日、彼女のもとへ届いたのは幼い頃少しだけ遊んだことのあるロベルトからの結婚申込み!?
本当の私を知っているのに申込むならお飾りの政略結婚だわ! なんて思い込み初夜をすっぽかしたヒロインと、初恋をやっと実らせたつもりでいたのにすっぽかされたヒーローの溺愛がはじまって欲しいラブコメです。
【2023.11.28追記】
その後の二人のちょっとしたSSを番外編として追加しました!
※他サイトにも投稿しております。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
【R18】寡黙で大人しいと思っていた夫の本性は獣
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
侯爵令嬢セイラの家が借金でいよいよ没落しかけた時、支援してくれたのは学生時代に好きだった寡黙で理知的な青年エドガーだった。いまや国の経済界をゆるがすほどの大富豪になっていたエドガーの見返りは、セイラとの結婚。
だけど、周囲からは爵位目当てだと言われ、それを裏付けるかのように夜の営みも淡白なものだった。しかも、彼の秘書のサラからは、エドガーと身体の関係があると告げられる。
二度目の結婚記念日、ついに業を煮やしたセイラはエドガーに離縁したいと言い放ち――?
※ムーンライト様で、日間総合1位、週間総合1位、月間短編1位をいただいた作品になります。
【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?
夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」
「え、じゃあ結婚します!」
メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。
というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。
そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。
彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。
しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。
そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。
そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。
男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。
二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。
◆hotランキング 10位ありがとうございます……!
――
◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる