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甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)

禁じられた媚薬

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 どういう事ですか、と問う前にマーコット様の身体が動く。

 私は床にペタンと座った状態で両手を背中へとまわされて。
 マーコット様は私と背中合わせになるようにして、床に座った。
 そして私の手を、ギュッと握っている。

 周りから見たら、ふたりの両手が一緒に束ねられ背中のところで縛られているように思えそう。

「手は僕とつないだままでいようね~」

 この状況にそぐわない明るく力の抜けた感じの声でマーコット様が囁いてくる。

 その後は何も喋らなかったので、私たちから少し離れた所に座るサフィニア様の熱を帯びたように苦し気な呼吸音だけが微かに聞こえてきた。

 ……ん、でも気のせい?
 足音が……、聞こえる……?

 誰かが来た!?

 そう気付いた直後、ギィ……と音を立てて扉が開く。

「あら、目が覚めたのね」
「イニアナ、よかったですね……。ミーネ妃殿下の意識が戻らなかったら大変な事になってしまうところだった」
「別に大丈夫よココットル。その時はまた別の方法を考えるから」

 現れたのはキラエイ公爵令嬢のイニアナ様とサーゼツ伯爵令息のココットル様。
 名前を呼び合うふたりの声を聞いて、確信した。

 キラエイ公爵が、留学先から戻ってきたご子息ジョハン様のために夜会を開催した日。
 公爵邸の庭で聞いた若い男女の声は、イニアナ様とココットル様のおふたりによるものだと。

 あの時はもっと興奮しているような声だったけれど、間違いない。

「それにしてもサーゼツ伯爵には困ったものね。馬車のうしろに人がくっついていたのに気づかないなんて」

 イニアナ様が、呆れたようにため息をつく。

「父もこんな事をするのは初めてなので……言われた通りにできず申し訳ありません」
「ま、いいわ。眠らせて捕まえられただけ褒めてあげる」
「この方、フォトウェル伯爵家嫡男のマーコット様ですよね。どうしましょう。やっぱり眠っている間に外へ放り出しておいた方が良かったんじゃ……」

 ふたりの様子から推測すると、サーゼツ伯爵はイニアナ様に命じられて私をここへ連れてきたのかしら。
 それならウィムたちが怪我をしたというのは嘘?
 それとも怪我は、本当……?

「イニアナ様、何故こんな事を……。そもそもウィムやサフィニア様の弟君が怪我をしたという話はどこまで本当なの?」

 言葉を発した途端、私の手を握るマーコット様の手にギュッと力が込められた。
 まるで、余計な事はしないでおとなしくしていなさい、と伝えるように。

 私を見下ろすイニアナ様が、フフンと鼻で笑う。

「安心なさい、怪我なんてしてないわよ。私はラッドレン殿下をあなたの魔の手から救って差し上げたいだけ」
「殿下を……?」
「今日ラッドレン殿下から手紙が届いたのよ。お兄様の留学先での成績とギフティラ学院特例無試験における不正の件、それに私のカンニングについては証拠があるから自ら罪を認めて学院を自主退学しなさい、と。自白であれば刑もその分考慮される、ですって」

 イニアナ様の手には手紙らしきものが握られている。

「私はあなたと違って父親の力を使った不正なんてしてないわ。私がギフティラ学院に合格できたら恋人になってあげることを条件に、ココットルに協力してもらっただけ。私が褒美を与えたのだから、自分の力で得た結果よね。ちょっとココットルのを見ただけで課題もテストも自分でやってるのに、どうして退学しなきゃいけないのよ」

 イニアナ様の言葉を聞いて目を見開いてしまった。
 もしかしたらポカンと口も開けてしまっていたかもしれない。
 なんて自分勝手な言い分。

 キッとイニアナ様を睨みつける。とても行儀の悪い事だと分かってはいるけれど。

「イニアナ様、父は私の学業に関して道理に反する行いをした事は無いわ。それに今の話が本当なら、イニアナ様は学院を退学なさるべきよ。まだ若いもの、罪を償えばやり直しはできるから」
「まだ若いからやり直しがきく、殿下の手紙にもそう書いてあったわ。ぁぁやっぱり、あなたがラッドレン殿下をそそのかしたのね、私に手紙を送るようにと。私はココットルに協力してもらっただけで何もしていないのに、酷いわ」

 何もしていない?
 本気でそう思っているなら、とても危険な考え。
 いいえ、考えだけでなく実際にこうして行動を起こしている。

 このままここにいてはサフィニア様とマーコット様が危ない。
 何としてでもふたりを守らないと。
 まずはサフィニア様を、安全な場所へ。

「今の話だとサフィニア様とマーコット様は無関係でしょう。イニアナ様、サフィニア様はここで見聞きしたことを人に言いふらすような方ではないわ。それに顔が赤くて息苦しそうで体調が悪そうなの。サフィニア様を王都にあるアールガード辺境伯の別邸へ連れていってさしあげて、」
「顔が赤いのは媚薬の効果が出てきたからですよ、ご心配なく」

 イニアナ様とココットル様とは違う声が聞こえてきて、思わずヒュッと息を飲む。
 声がした方へ視線を向けると、扉の所にジョハン様のお姿が。

「媚薬の効果ですって……?」
「妃殿下は馬車の中で飲まなかったようですね。これから飲んでいただきます、無理やりにでも」

 サーゼツ伯爵が馬車の中で持っていたのと同じ水筒を、ジョハン様が手にしていた。

「この国では禁じられている貴重な媚薬です。留学中に苦労して手に入れたんですよ。妃殿下にはこの世のものとは思えないくらいの快楽を覚えていただいて、このジョハンのお願いを悦んで聞く身体になっていただきます」

 仄暗い笑みが、ジョハン様の顔に浮かぶ。






 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 

 【読者様へ】

 いつも小説の閲覧&しおりやお気に入り登録、感想の投稿等してくださりありがとうございます。

 新作のお知らせで大変恐縮ですが……
 先日以下の小説を投稿させていただきました。

 また、こちらの小説はひっそりと『第10回BL小説大賞』にエントリーしております。
 もし差し支えなければ、弓はあとの小説に読者様の一票を投じていただけると嬉しいです。

(アンダルシュ作品)
『【BL-R18】転生しても平凡な僕~前世で別れたスパダリが、双子に生まれ変わって溺愛過剰~』

 珍しくBL小説、さらに主人公がふたりの恋人と体の関係を持つお話です。
 苦手だったら申し訳ありません。その場合はそっと画面を閉じていただければと思います。

 なお、相手はふたり(双子)ですが、前世ではひとりの人格だったためかなり一途な恋愛になる予定。
 もし少しでも気になったら、試しにちょ~っとだけ読んでみてください。

 複数プレイの話、一度挑戦してみたかったんです。
 かといって連載中の『お兄ちゃんと~』や『白い結婚~』で複数プレイを書いたら驚きの展開になってしまうため新作公開とさせていただきました。

 亀更新な作者なのに、新たに書き始めてしまって本当にごめんなさい。
 『白い結婚~』、『お兄ちゃんと~』、そして他の番外編の更新も引き続きがんばっていくので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。





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