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甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)
誰……??
しおりを挟む声が……聞こえる……?
『……コット…………』
『…………ニア…………』
誰……?
聞いた事のある声、なのに……
頭がぼんやりとして、分からない。
この声……どこで聞いたのかしら……
『……まだ目覚めてないようね……』
瞼が重くて、体も動かない。
誰の声か思い出したいのに、また意識が遠のいていく。
「っ!?」
目を開けた瞬間、息を飲んでしまった。
私が声をあげる前に、目の前の人物の手が私の口を覆う。
そして私の口を塞いでいるのとは反対の手を、自分の口元へ持っていき人差し指を立てた。
静かに、と伝えるジェスチャー。
コクコクと首を縦に振って頷く。
それにしても……
マーコット様が、何故ここに!?
私の口を塞いだまま、悪戯をしている子どものように黒い笑みを浮かべているマーコット様。
普段は人懐っこい感じで明るい笑顔の方だから、いつもと違うその表情に少し戸惑ってしまう。
体は拘束されていないけど、音を立てないようにジッとしていた方がいいかもしれない。
口を塞がれたまま、目線だけを動かして周囲を窺う。
見知らぬ、場所。
雰囲気からして……木造の物置小屋、かしら。
視界の端に扉や窓も見えるけれど、ここからだと外の様子は分からない。
広さから考えると貴族の屋敷や別邸の庭にある独立した建物といった感じ。
確か私は、サーゼツ伯爵の馬車にサフィニア様と一緒に乗っていて……
サフィニア様!
そう、サフィニア様は今どこに!?
馬車の中でサーゼツ伯爵の差し出したお茶を飲んでいたけれど、大丈夫かしら。
まるで私の心配していることが伝わったかのように、マーコット様がスッと視線で教えてくれた。
マーコット様の視線の先で、サフィニア様は床に座っている。
私たちからそんなに離れていない距離。
拘束されている様子もない、よかった。
でも少し……様子がおかしい。
顔が、赤い?
熱があるかのように、瞳が潤んでいる。
「……ハァ……ん……」
息がなんだか……苦しそう……?
サフィニア様の息遣いで、ふと、思い出した。
朦朧としている間に聞いたのと同じ人物の声を、いつどこで聞いたのか。
あれはキラエイ公爵が、留学先のグロウドリック王国から戻ってきたご子息ジョハン様のために開催した夜会の最中だった。
月明かりだけで暗かったキラエイ公爵邸の庭で聞いた若そうな男女の声。
あの時の、ふたりの言葉は……
『くっ……ニア……気持ちいいか?』
『……ぁ、イイ……コット……』
サフィニア様の赤く火照った顔、次いでマーコット様の仄暗い笑みを順に見つめる。
「ミーネ嬢、何があっても大人しくしているんだよ」
私の耳元でマーコット様が囁いた。
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