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甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)

閉会、そして

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「逆……?」

 何を言っているのか分からない、といった表情でキラエイ公爵がラッドレン殿下を見上げている。

「キラエイ公爵、貴方がケンバート公爵を陥れるために、偽証すれば刑期を短くし出所後には優遇すると約束した彼は、グロウドリック王国の王弟殿下が統括している組織に所属する内偵捜査官です」
「内偵捜査官……?」
「あぁでも、目的が達成されたため近いうちに組織は公にされたうえで解散されると聞いています。だからもうすぐ、元、捜査官でしょうか。なのでこの会議でその存在を明かしても、問題ないとの事でした」

 証人として呼ばれていたグロウドリック王国の男性が、その通りです、と認めるかのように右手を左胸へ当て頭を下げた。
 いま立っている所よりも宰相達の席へ少し近付いた場所に椅子が用意され、証人の男性がそこへ座る。
 先ほども男性の左右に立っていた騎士が、引き続き護衛するかのように両側に立った。

 その様子を確認したラッドレン殿下が淡々と説明を始める、証拠の書類を皆に分かるよう示しながら。 

 その中には、当時『武科』の担当としてキラエイ公爵が管理していた武術理論の留学試験問題が誰に売られていたかの記録もあった。
 特に証拠として有効だったのが、紙幣番号を利用して把握したお金の流れ。
 フレイツファルジュ王立学園の留学試験で不正に合格した者の家からキラエイ公爵へ、また反対に、キラエイ公爵からグロウドリック王立研究所の関係者へ賄賂として渡されたお金の流れが記録されていた。

 ラッドレン殿下がキラエイ公爵へ笑みを向ける。

「キラエイ公爵、彼と引き合わせてくれたことに感謝します。おかげでグロウドリック王国の協力を得る事ができた。そうでなければ貴方を追求する材料を揃えるのに、もう少し時間がかかったはずです」
「く……ッ」

 唇を噛み締め俯いたキラエイ公爵に対して、ラッドレン殿下は話を続けた。

 アールガード領で王太子妃と会ったという話をされ、グロウドリック王国の男性が嘘をついていると確信した事。
 最初は単に偽証で金を得ようとする犯罪者かと思い、キラエイ公爵の嘘を暴く事だけを考えキラエイ公爵を通さずに彼と接触した事。

 お互いの腹を慎重に探るなかで知った、彼の正体。
 グロウドリック王国側も王立研究所に関する不正の調査をしていて、彼が王弟殿下の命を受けた内偵捜査官だと知り手を組んだ。

「しかし一歩間違えば両国の関係を根底から揺るがす最悪な事態になるところでしたよ。グロウドリック王国側でも、腐った貴族の洗い出しができたと喜んでくれたのが幸いでした」

 ラッドレン殿下がサッと片手を軽くあげると、グロウドリック王国の男性の両脇にいたはずの騎士がいつの間にかキラエイ公爵の背後に立っていてその腕を掴んだ。

「宰相に相応しくないのは、キラエイ公爵、貴方です」

 大声で喚きだしたキラエイ公爵だったけれど、まったく動じない騎士たちに拘束されたまま議場の外へと連れていかれた。

 入れ違いで入ってきた新たな騎士に、第三宰相補佐のふたりが拘束される。
 ふたりには文書偽造等の嫌疑があるという。

 第三宰相の席が空き、傍聴席がざわめいたけれど陛下の咳払いひとつでシンと静まり返った。

「宰相会議はこれにて閉会とする。なお、王太子ラッドレン、第一第二宰相、及びその補佐、そして騎士団関係者にて、五分後から宰相人事の協議を行う。他の者は退出するように」

 騎士団長と副団長、そしてネイブルの三人が、話し合いの席へ進むため傍聴席の階段をおりていく。

「……陛下がおっしゃっていた、私に相応しい相手とはいったいどなたの事だったのでしょう……」

 不安気な小さい声が隣から聞こえた。
 隣に目を向けると、儚げに俯くサフィニア様の姿。
 キラエイ公爵の話がメインになってしまって、その話はうやむやのままだったから。

「ミーネ」

 サフィニア様になんて声をかけたらいいのか悩んでいたら聞こえてきた、私を呼ぶラッドレン殿下の声。
 傍聴席の階段をサフィニア様と一緒におりていくと、殿下もこちらへと近付き会話ができる距離まで来てくれた。

「殿下、サフィニア様にお伝えする事があるのではないですか? その……陛下がおっしゃっていた……サフィニア様に、相応しいお相手の、こと、とか……」

 自分で自分の首を絞めるような言葉が口から零れていく。
 鼻の奥がツンとして、泣いてしまいそう。
 でもふたりが想い合っているのなら、ラッドレン殿下の幸せのために応援したい。

 私のすぐそばにいるサフィニア様に、殿下の優しい視線が向けられる。

「申し訳ない、その件はまた日を改めて話そう。サフィニア嬢にとって良い方向になるよう、力を尽くすから」

 サフィニア様にとって良い方向……
 それは、私にとって――

 胸が、痛い。
 ラッドレン殿下の真剣な眼差しが、私に向けられた。

「ミーネ、夕食後にふたりでゆっくり話さないか? 自分の気持ちを偽ることなくミーネに伝えたい」
「……はい」

 サフィニア様の事が好きだ、と偽りのない殿下の気持ちを伝えられたら私、上手く微笑むことができるかしら。
 少し俯いてしまった。
 ラッドレン殿下の目を見続けたら、涙が零れてしまいそうだったから。
 夕食までには、もっと心を強く持っていないと。

「あと、ミーネの行動を確認していたのは……、信用していなかったわけじゃないんだ、ただ、心配だっただけで。だが、そんな事をして……すまない」

 わかっています。
 王太子として、身内が悪事を働いていないか念には念を入れて把握しておかなければいけなかったのだと。

「大丈夫です。ぁ、そろそろお時間では? 私はサフィニア様を馬車まで送ってきますね」

 ラッドレン殿下は席へと戻り、私とサフィニア様は議場を後にする。
 
 今日は目に見える範囲に護衛の騎士がいない。
 ラッドレン殿下が視察で不在の際に護衛にあたってくれる副団長補佐は、おそらく警備の指揮をとっている。

 宰相の人事を決めるために要人が集まっているので、いつもより議場の警備も手厚くなっていた。
 それにキラエイ公爵が捕らえられた事で、そちらの方にも人手を割いているに違いない。

 少しだけ、不安になった。
 でも……王太子殿下と違って替えのきく王太子妃とはいえ、見えない場所に護衛のひとりくらいいるはず。

 サフィニア様とふたりで建物の外へと出て行く。

「もしや、ミーネ妃殿下では? ああ、こちらでお会いできてよかった」

 王城を訪れる馬車が並ぶ場所で、意外な人物に話しかけられた。





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