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甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)
廊下にて
しおりを挟む間もなく始まる宰相会議を傍聴するため、議場へと向かう。
「ミーネ様」
議場の扉の前で歌姫のように美しい声に呼ばれて振り返ると、サフィニア様の姿があった。
廊下なので、周囲に響かぬようサフィニア様の方へ寄り小声で話す。
「サフィニア様、どうしてここへ?」
宰相会議は通常、王族の者しか傍聴しない。
「先日のジョハン様の言葉が気になって……今回の宰相会議で私との婚約について話が出るとおっしゃっていたでしょう? 殿下にご相談したところ、傍聴させていただけることになりました……」
目を少し伏せ、愁いを帯びた表情のサフィニア様。
そんな表情でさえ麗しくて、まるで美の女神様のよう。
「殿下に、相談を……?」
優しいから、殿下はきっと私の相談にだって親身になってくださるにちがいない。
だけどどうしても、サフィニア様だから特別なのだと感じてしまう。
友人のサフィニア様に、嫉妬なんてしたくないのに。
「はい、殿下は私に、想いを寄せる相手と結ばれるべきだとおっしゃってくださって」
「想いを寄せる相手と……。サフィニア様には、そのような方がいらっしゃるのですか」
私の質問に頬を赤く染め、恥じらいながらコクンと頷くサフィニア様。
女性の私でさえ、守ってあげたいと思ってしまう可愛らしさ。
サフィニア様の好きな男性は、やはり殿下なのでしょうか。
そして殿下ご自身も、望んでいらっしゃるのかしら。
自分も正しい相手と――サフィニア様と結ばれるべきだ、と。
「殿下はサフィニア様の想いを、ご存知なのでしょうか……」
「ハッキリと聞かれた事はありませんが、おそらく殿下は、私の気持ちに気づいていらっしゃるかと」
「そうですか……。私は気づいてさしあげられなくて、申し訳ありません……」
殿下と結婚する前にお二人の気持ちに気づいていれば邪魔者にならずに済んだのかもしれない、と思うと小声で話していた声がさらに小さくなってしまった。
サフィニア様が、私の方を見て困ったように微笑んでいる。
「殿下は、ご自分のこと以外には聡いお方ですから」
ん……?
珍しく……いいえ、初めて、サフィニア様の言葉にほんの少し毒を感じた。
もしかして、殿下が私と結婚したまま本当の気持ちをずっと偽り続けている事を不快に思っていらっしゃるの?
二人が、想いあっているのなら……。
大好きな夫と大切な友人が幸せになるために、私が身を引いて二人の仲を取り持つべきなのかもしれない。
「サフィニア様の想い人がどなたか……お伺いしてもよろしいでしょうか」
ほんのり頬を染め、愛らしい微笑みを浮かべたサフィニア様。
「大丈夫ですよ。ただ、驚かれるかもしれません。その方は、ミーネ様も良く知っている方なので」
ツキン、と胸が痛んだ。
聞いて驚くお名前で。
よく見知った人……。
……それってやっぱり、殿下ですよね。
続きを聞くのが怖い。
でも、聞かないと。
――サフィニア様との話に夢中になっていて気付かなかった。
おそらくサフィニア様も気づいていなかったと思う。
私たちのよく知る人物が、こちらへ向かって歩いてきていることに――
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