上 下
76 / 98
甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)

廊下にて

しおりを挟む


 間もなく始まる宰相会議を傍聴するため、議場へと向かう。

「ミーネ様」

 議場の扉の前で歌姫のように美しい声に呼ばれて振り返ると、サフィニア様の姿があった。
 廊下なので、周囲に響かぬようサフィニア様の方へ寄り小声で話す。

「サフィニア様、どうしてここへ?」

 宰相会議は通常、王族の者しか傍聴しない。

「先日のジョハン様の言葉が気になって……今回の宰相会議で私との婚約について話が出るとおっしゃっていたでしょう? 殿下にご相談したところ、傍聴させていただけることになりました……」

 目を少し伏せ、愁いを帯びた表情のサフィニア様。
 そんな表情でさえ麗しくて、まるで美の女神様のよう。

「殿下に、相談を……?」

 優しいから、殿下はきっと私の相談にだって親身になってくださるにちがいない。
 だけどどうしても、サフィニア様だから特別なのだと感じてしまう。
 友人のサフィニア様に、嫉妬なんてしたくないのに。

「はい、殿下は私に、想いを寄せる相手と結ばれるべきだとおっしゃってくださって」
「想いを寄せる相手と……。サフィニア様には、そのような方がいらっしゃるのですか」
 
 私の質問に頬を赤く染め、恥じらいながらコクンと頷くサフィニア様。
 女性の私でさえ、守ってあげたいと思ってしまう可愛らしさ。

 サフィニア様の好きな男性は、やはり殿下なのでしょうか。

 そして殿下ご自身も、望んでいらっしゃるのかしら。
 自分も正しい相手と――サフィニア様と結ばれるべきだ、と。

「殿下はサフィニア様の想いを、ご存知なのでしょうか……」
「ハッキリと聞かれた事はありませんが、おそらく殿下は、私の気持ちに気づいていらっしゃるかと」
「そうですか……。私は気づいてさしあげられなくて、申し訳ありません……」
 
 殿下と結婚する前にお二人の気持ちに気づいていれば邪魔者にならずに済んだのかもしれない、と思うと小声で話していた声がさらに小さくなってしまった。

 サフィニア様が、私の方を見て困ったように微笑んでいる。

「殿下は、ご自分のこと以外には聡いお方ですから」

 ん……?
 珍しく……いいえ、初めて、サフィニア様の言葉にほんの少し毒を感じた。
 もしかして、殿下が私と結婚したまま本当の気持ちをずっと偽り続けている事を不快に思っていらっしゃるの?

 二人が、想いあっているのなら……。
 大好きな夫と大切な友人が幸せになるために、私が身を引いて二人の仲を取り持つべきなのかもしれない。

「サフィニア様の想い人がどなたか……お伺いしてもよろしいでしょうか」

 ほんのり頬を染め、愛らしい微笑みを浮かべたサフィニア様。

「大丈夫ですよ。ただ、驚かれるかもしれません。その方は、ミーネ様も良く知っている方なので」

 ツキン、と胸が痛んだ。

 聞いて驚くお名前で。
 よく見知った人……。
 ……それってやっぱり、殿下ですよね。

 続きを聞くのが怖い。
 でも、聞かないと。

 ――サフィニア様との話に夢中になっていて気付かなかった。
 おそらくサフィニア様も気づいていなかったと思う。
 私たちのよく知る人物が、こちらへ向かって歩いてきていることに――





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった

山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』 色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

【R18】利害一致のお飾り婚だったので初夜をすっぽかしたら大変なことになった

春瀬湖子
恋愛
絵に描いたような美形一家の三女として生まれたリネアだったが、残念ながらちょっと地味。 本人としては何も気にしていないものの、美しすぎる姉弟が目立ちすぎていたせいで地味なリネアにも結婚の申込みが殺到……したと思いきや会えばお断りの嵐。 「もう誰でもいいから貰ってよぉ~!!」 なんてやさぐれていたある日、彼女のもとへ届いたのは幼い頃少しだけ遊んだことのあるロベルトからの結婚申込み!? 本当の私を知っているのに申込むならお飾りの政略結婚だわ! なんて思い込み初夜をすっぽかしたヒロインと、初恋をやっと実らせたつもりでいたのにすっぽかされたヒーローの溺愛がはじまって欲しいラブコメです。 【2023.11.28追記】 その後の二人のちょっとしたSSを番外編として追加しました! ※他サイトにも投稿しております。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

【R18】寡黙で大人しいと思っていた夫の本性は獣

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
 侯爵令嬢セイラの家が借金でいよいよ没落しかけた時、支援してくれたのは学生時代に好きだった寡黙で理知的な青年エドガーだった。いまや国の経済界をゆるがすほどの大富豪になっていたエドガーの見返りは、セイラとの結婚。  だけど、周囲からは爵位目当てだと言われ、それを裏付けるかのように夜の営みも淡白なものだった。しかも、彼の秘書のサラからは、エドガーと身体の関係があると告げられる。  二度目の結婚記念日、ついに業を煮やしたセイラはエドガーに離縁したいと言い放ち――?   ※ムーンライト様で、日間総合1位、週間総合1位、月間短編1位をいただいた作品になります。

【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?

夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」 「え、じゃあ結婚します!」 メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。 というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。 そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。 彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。 しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。 そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。 そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。 男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。 二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。 ◆hotランキング 10位ありがとうございます……! ―― ◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ

処理中です...