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甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)

嫌よ嫌よも

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 振り返ると、こちらに近づいてくる見目麗しい男女の姿が見えた。
 キラエイ公爵家の、ジョハン様とイニアナ様。
 天気がいいので、ふたりのローズゴールドの髪は日の光を受けとても美しく輝いている。
 
 ジョハン様はサフィニア様に向かって満面の笑みを見せた。

「サフィニア嬢、喜んでください。今度の宰相会議で私と貴女の婚約について父が陛下に願い出ます」
「ぇ……っ、婚約のお話は何度も何度もお断りしていますよねっ」
「ハハハ、恥ずかしがって婚約を嫌がるフリをする貴女のために、父へお願いしたのですよ。王命という形をとれば、貴女も素直に婚約を受け入れる事ができるでしょう?」
「……っ!」

 唇を噛み瞳を潤ませてキッとジョハン様を睨みつけたサフィニア様。
 こんな表情、初めて見た。

「わぁ、嬉しい! 父は宰相ですもの、陛下はすぐに婚約を認めてくださるわ。サフィニア様がようやくお義姉様になってくださるのですね」

 サフィニア様とは対照的に、明るい笑顔のイニアナ様。

「勝手にそんな事しない方がいいんじゃねぇの? サフィニア嬢には想い人がいるって俺は聞いてるぜ」
「「ぇ」」

 ネイブルの発言に対して、私と同時に驚きの声をあげたのはサフィニア様。
 驚きの声をあげたという事は、想い人についてネイブルに伝えたのはサフィニア様ご本人ではないのだろう。

 ネイブルは、サフィニア様の想い人がラッドレン殿下だという事も知っているのかしら。

「お相手が誰かまでネイブルは聞いているの?」
「あ? いや、聞いてねーよ。普通に考えて幼馴染のマーコットあたりじゃねぇかなぁとは思っているけど」
「その想い人とやらは私の事だよ。ねぇ、サフィニア嬢?」

 ジョハン様がニタリと笑った。

「留学中もしょっちゅうアールガード領を訪ねて交際を申し込み、そのたびに断られているんだろう? いいかげん諦めたらどうだ、ジョハン」
「嫌よ嫌よも好きのうち、と昔から言うでしょう? 恋愛に疎いネイブルには分からないかもしれませんが」

 ジョハン様の言葉を聞いて、ハァ、とネイブルがため息をつく。

「サフィニア嬢……この際、想い人が誰なのかはっきり言ってやればジョハンも諦めがつくんじゃね?」
「ぇ、ぃぇ、さすがにここでは……」

 困ったように言い淀んでいるサフィニア様。
 そして何か言いたそうに、私の方をチラリと見た。

 ぁ……

 その様子を見て、ピンときてしまった。
 想い人がラッドレン殿下だなんて、さすがに私の前で言う事はできないからサフィニア様は困っているのだと。





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