【R18】白い結婚が申し訳なくて~私との子を授かれば側室を持てる殿下のために妊娠したフリをしたら、溺愛されていたことを知りました~

弓はあと

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甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)

理由

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 息を切らしながら、殿下が後ろ手に扉を閉めた。

「ベルマリーも……いたのか……よかった……」
「そりゃいますよ、相手がタジェロン様とはいえミーネ様を男性と二人きりにさせる訳にはいかないですもの」

 テキパキとテーブルの上のカップとお皿を片付けつつ、サクッと答えるベルマリー。

「殿下もいらっしゃったことですし、私は仕事に戻りますね~」

 失礼します、と頭を下げてベルマリーは部屋を出ていった。

「タジェロン、すまないがもう少し待っていてくれ、鞄を置いてくる」

 殿下はなぜかソファに座る私の手を取り立ち上がらせ、手をつないだまま窓の方へ歩いていく。
 そして窓の手前にある会議用机の椅子へ私を座らせた。
 ソファに座ったままのタジェロン様から、一番遠い席。

「隣の部屋に行くけど、ここにいて。俺から見えるように」

 会議用テーブルのすぐ横には、隣の第二執務室と直接つながるドアがある。
 殿下はそのドアを開け放したまま隣の部屋に行き鞄をしまうと、すぐに私の方へ戻ってきた。

 呼吸はだいぶ落ち着いているけれど、額に汗が滲んでいる。

「殿下、失礼しますね」

 ハンカチを取り出し殿下の額へ、そっとあてた。

「まったく、全力疾走でもしてきたんですか。ベルマリー嬢を追いかけて冷たい水でも貰ってきますよ」

 やれやれといった様子でソファから立ち上がると、部屋を出ていったタジェロン様。
 殿下と二人きりになってしまった。
 私は走ったりしていないのに、胸がドキドキするのは何故。

「で、殿下、どうぞお座りになってください」
「ああ、ミーネも、座って」

 会議用机の椅子を殿下がひいてくれたので再びそこへ座る。
 殿下は私の隣の椅子に腰をおろした。
 窓を背にして私と並んで座る感じに。
 机を挟んで向こう側に、応接用ソファとローテーブルが見える。

 ふと視線を感じた……この部屋には二人しかいない。
 殿下が座っている方をチラリと横目で見る。

 ……殿下の顔は、応接用ソファの方を向いていなかった。
 机に片手でほおづえをついて、私の顔を見つめている。

 そんな風にまっすぐ視線を向けられたら、恥ずかしくて顔が赤くなってしまいそう。

「で、殿下……、なぜ、そんなに急いでいらしたのですか?」
「今朝……ベルマリーからミーネの予定を聞いていたんだ。クッキーを作ると」
「そう、ですね。作っていました」

 それと殿下が急いでいた理由と、何か関係があるのかしら。

「だから陛下との話が終わって、ミーネに声をかけてから部屋へ戻ろうとしたのだが、厨房にいなくて」
 
 殿下が手を伸ばして、私の頭に触れた。
 座っているだけなのに、鼓動が速くなってくる。

「そこにいた者に聞いたら、お茶の用意をして出ていく姿を見たと言われ、タジェロンの所だと気付いたんだ」
「……?」
 
 それがなぜ、急いでいた理由につながるのかしら……。

 私の頭を殿下がゆっくりと撫で始める。
 慈しむような眼差しで、優しく微笑みながら。

「ふたりきりでいるのかと思って心配した。ミーネ、これからも男とふたりだけになってはいけないよ」
「わかり、ました……」

 もしかして……これは殿下の、独占欲だったりするのでしょうか。
 タジェロン様に対して、嫉妬してくれている……?
 私の事を女性として、意識してくれていると思っても、いいのですか……

「なかには噂好きの人もいるから。王太子妃として、そのあたりは気をつけて欲しい」
「……はい、承知いたしました」

 そうよね……殿下にとって私は女性というよりも、王太子妃。
 殿下は私の父の不正の件や、私の妊娠の件もあって、噂に関しては敏感になっているのかもしれない。
 だから、急いで来てくれたのですね、変な噂話が持ち上がらないように。

 私の頭を撫でていた殿下の手が、止まった。

「ミーネ……イヤリングが曲がっているよ」

 ぁ……、クッキーを作る時に外して、そのあと鏡も見ずに自分でつけたから。

「直してあげよう、じっとして」
「ぁ、大丈夫です殿下、自分で」

 殿下を煩わせるなんて申し訳ないと思い耳へ手を伸ばしたら、殿下の手とぶつかって。
 その拍子に、耳からイヤリングが外れ下へと落ちていく。
 床についたのが見えたと思ったら、跳ねてテーブルの下へと転がり見えなくなってしまったイヤリング。

 探そうと椅子から腰を浮かせたけれど、殿下の行動の方が早かった。
 椅子からおり体勢を低くして、足元まで隠れる大きめのテーブルクロスの裾を捲り、机の下を覗き込んでいる。

「ぁ、あったよ。思ったよりも奥の方まで転がってしまっている」
「殿下、自分で拾いますので、どうか場所を代わってください」
「いいよ、すぐに取れるから。ミーネは座っていて」

 机の下へ潜り込んでいく殿下の姿がテーブルクロスですっかり見えなくなったのと同時に、水差しを持ったタジェロン様が応接室に戻ってきた。





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