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甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)
サフィニア様の婚約について
しおりを挟む「サフィニア様の婚約について……殿下が陛下と話を……?」
「はい、以前からサフィニア嬢にはある貴族令息との婚約の話が出ているのですが、殿下はその婚約を認めないで欲しいと陛下に進言し続けています」
この国では上位貴族の婚約にあたっては陛下の許可が必要。
でも余程の事が無い限り、両家の当主が希望すれば婚約は陛下に認められている。
それなのに、何故……?
サフィニア様の婚約に殿下が反対する理由は、何ですか。
やはりサフィニア様の事が、好きだから……?
サフィニア様が結婚してしまったら、側室に迎える事ができなくなってしまうから……?
頭に疑問符がついてばかりで言葉の出ない私に代わって、ベルマリーが話を続けてくれた。
「タジェロン様、先日イニアナ様が言ってました。サフィニア様との婚約話が出ている貴族令息って、ジョハン様の事ですよね」
「ああ、相手が誰かご存知でしたか。そうです、ジョハン・キラエイ公爵令息です」
ベルマリーは少し視線を落としながら顎に指を添え何かを考えている。
「ジョハン様がサフィニア様にベタ惚れだったのは知っていたけど、婚約ね……でも家柄を考えれば、妥当な話かしら……」
「ぇ、ベタ惚れって、ベルマリーはなぜ知っているの?」
ベルマリーの呟きに思わず声を上げてしまったら、困ったような微笑みをふたりから向けられた。
「ミーネ様……見ていれば分かりますよ。ミーネ様ってば他はなんでもできるのに色恋についてだけは残念なくらい疎いですからね……まぁそこが可愛らしくてミーネ様の魅力でもあるのですが」
けなされたのか褒められたのか分からず複雑な思いでいる私をよそに、ベルマリーは再びタジェロン様と話し始める。
「だけどなぜラッドレン殿下がサフィニア様の婚約に口を出す必要があるのですか? キラエイ公爵とアールガード辺境伯の関係が強固なものになっても王家を脅かすほどではないはずです、反対する理由がわかりません」
タジェロン様が、チラと私の方を見た。
その気遣うような視線が、なぜか私を不安にさせる。
「ラッドレン殿下が婚約を反対する理由は、ふたつあります」
ふたつ……?
「ひとつ目の理由は、キラエイ公爵がアールガード領を足掛かりに隣接するグロウドリック王国と手を組むのを阻止するためです」
グロウドリック王国は、私たちと同じ学年だったけど学院へ進学しなかったジョハン様が留学なさった国。
ジョハン様は留学後ギフティラ学院へ特例無試験で入学できるほどの研究成果をグロウドリック王国で収めているし、今のままでもキラエイ公爵家とグロウドリック王国の関係は良好。
そこへ国同士をつなぐアールガード領を拠点として得る事ができたら、確かに王家にとってもキラエイ公爵の力は脅威となるかもしれない。
殿下が反対するのも、分かる気がする。
「もうひとつの理由は……こういった事に私情を挟むなんて私には到底理解できないのですが、個人的な理由ですね」
「「個人的な理由……?」」
ベルマリーと同時に言葉を発してしまった。
「私の方から詳しく申し上げるわけにはいきませんが、殿下はサフィニア嬢の気持ちを汲んで婚約に反対しています」
サフィニア様の気持ちを汲んで……
先日、珍しく声を荒らげてジョハン様との婚約を否定したサフィニア様の姿を思い出した。
そしてその後、殿下に守られている私の事を羨ましいと言ったサフィニア様。
他の人と婚約なんてしたくない、というサフィニア様のお気持ちを殿下は汲んで……
「タジェロン様がここまでペラペラ種明かししてくれるように話してくれるなんて珍しいですね、なんか裏でもあります?」
ベルマリーが、じとーッとした目をタジェロン様へ向けた。
その視線を受けて、タジェロン様は小さく苦笑している。
「私は基本的に、必要な情報は共有すべきだと考えているだけです。おそらく殿下は、ミーネ嬢につらい思いをさせないよう何も話されていないかと思いますから」
突然、バンッ、と勢いよく応接室の扉が開いた。
あまりの勢いに心臓が飛び出るかと思うほど。
すぐにドアの方を見る。
息を切らした殿下が、扉の所に立っていた。
廊下を走っていらしたのかしら。
こんなに酷く慌てた様子の殿下なんて、初めて見た。
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