49 / 98
甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)
サフィニア様の婚約について
しおりを挟む「サフィニア様の婚約について……殿下が陛下と話を……?」
「はい、以前からサフィニア嬢にはある貴族令息との婚約の話が出ているのですが、殿下はその婚約を認めないで欲しいと陛下に進言し続けています」
この国では上位貴族の婚約にあたっては陛下の許可が必要。
でも余程の事が無い限り、両家の当主が希望すれば婚約は陛下に認められている。
それなのに、何故……?
サフィニア様の婚約に殿下が反対する理由は、何ですか。
やはりサフィニア様の事が、好きだから……?
サフィニア様が結婚してしまったら、側室に迎える事ができなくなってしまうから……?
頭に疑問符がついてばかりで言葉の出ない私に代わって、ベルマリーが話を続けてくれた。
「タジェロン様、先日イニアナ様が言ってました。サフィニア様との婚約話が出ている貴族令息って、ジョハン様の事ですよね」
「ああ、相手が誰かご存知でしたか。そうです、ジョハン・キラエイ公爵令息です」
ベルマリーは少し視線を落としながら顎に指を添え何かを考えている。
「ジョハン様がサフィニア様にベタ惚れだったのは知っていたけど、婚約ね……でも家柄を考えれば、妥当な話かしら……」
「ぇ、ベタ惚れって、ベルマリーはなぜ知っているの?」
ベルマリーの呟きに思わず声を上げてしまったら、困ったような微笑みをふたりから向けられた。
「ミーネ様……見ていれば分かりますよ。ミーネ様ってば他はなんでもできるのに色恋についてだけは残念なくらい疎いですからね……まぁそこが可愛らしくてミーネ様の魅力でもあるのですが」
けなされたのか褒められたのか分からず複雑な思いでいる私をよそに、ベルマリーは再びタジェロン様と話し始める。
「だけどなぜラッドレン殿下がサフィニア様の婚約に口を出す必要があるのですか? キラエイ公爵とアールガード辺境伯の関係が強固なものになっても王家を脅かすほどではないはずです、反対する理由がわかりません」
タジェロン様が、チラと私の方を見た。
その気遣うような視線が、なぜか私を不安にさせる。
「ラッドレン殿下が婚約を反対する理由は、ふたつあります」
ふたつ……?
「ひとつ目の理由は、キラエイ公爵がアールガード領を足掛かりに隣接するグロウドリック王国と手を組むのを阻止するためです」
グロウドリック王国は、私たちと同じ学年だったけど学院へ進学しなかったジョハン様が留学なさった国。
ジョハン様は留学後ギフティラ学院へ特例無試験で入学できるほどの研究成果をグロウドリック王国で収めているし、今のままでもキラエイ公爵家とグロウドリック王国の関係は良好。
そこへ国同士をつなぐアールガード領を拠点として得る事ができたら、確かに王家にとってもキラエイ公爵の力は脅威となるかもしれない。
殿下が反対するのも、分かる気がする。
「もうひとつの理由は……こういった事に私情を挟むなんて私には到底理解できないのですが、個人的な理由ですね」
「「個人的な理由……?」」
ベルマリーと同時に言葉を発してしまった。
「私の方から詳しく申し上げるわけにはいきませんが、殿下はサフィニア嬢の気持ちを汲んで婚約に反対しています」
サフィニア様の気持ちを汲んで……
先日、珍しく声を荒らげてジョハン様との婚約を否定したサフィニア様の姿を思い出した。
そしてその後、殿下に守られている私の事を羨ましいと言ったサフィニア様。
他の人と婚約なんてしたくない、というサフィニア様のお気持ちを殿下は汲んで……
「タジェロン様がここまでペラペラ種明かししてくれるように話してくれるなんて珍しいですね、なんか裏でもあります?」
ベルマリーが、じとーッとした目をタジェロン様へ向けた。
その視線を受けて、タジェロン様は小さく苦笑している。
「私は基本的に、必要な情報は共有すべきだと考えているだけです。おそらく殿下は、ミーネ嬢につらい思いをさせないよう何も話されていないかと思いますから」
突然、バンッ、と勢いよく応接室の扉が開いた。
あまりの勢いに心臓が飛び出るかと思うほど。
すぐにドアの方を見る。
息を切らした殿下が、扉の所に立っていた。
廊下を走っていらしたのかしら。
こんなに酷く慌てた様子の殿下なんて、初めて見た。
2
お気に入りに追加
7,491
あなたにおすすめの小説

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる