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甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)

タジェロン様

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 タジェロン様は第二応接室のドアの前に立ち、本を読みながら待っていた。

 入室を許可されているし、おそらく鍵も預かっているのだから中で待っていても差し支えないのに、真面目な方だと思う。
 それとも、用心深い方と言う方が正解かしら。

 きっとタジェロン様は、変に疑われる要因を作らないために常に考えて行動していらっしゃる。
 部屋の中にひとりでいて、第三者から疑われるような問題が生じたら大変だから。

 タジェロン様とベルマリーと共に第二応接室へ入る。

 第二応接室は殿下の信用を得ているごく限られた人しか呼ばれる事が無い。
 だから小さな部屋かといえばそうではなくて、少人数での会議もできるように少し広めの部屋。

 入ると手前に応接用のソファとローテーブル、その奥には会議用にダイニングテーブルのような八人掛けの机と椅子が配置されている。
 これだけの家具があっても狭く感じない広さ。

「タジェロン様、どうぞソファへおかけになってください」
「いえ、私は……そうですね、ラッドレン殿下がいらっしゃるまでミーネ妃殿下とベルマリー嬢も座って話し相手になっていただけるのなら」
「そうですか……では、私も学院の頃と同じ呼び方をしていただけませんか。それであればご一緒させていただきます」

 ベルマリーが紅茶を、私はクッキーを用意する。
 紅茶とクッキーをローテーブルへ並べ、タジェロン様の向かいのソファにベルマリーと腰をおろした。

「お茶をありがとうございます。おや、クッキーはもしかしてミーネ嬢の手作りでしょうか?」
「ええ、また孤児院に持っていくので。タジェロン様には試食係になってもらうような感じで申し訳ないですけど」
「構いませんよ、いただきます」

 タジェロン様がクッキーをひとつ手に取り、口へ運ぶ。
 それを食べ終えると、今度は紅茶を口にした。

「美味しいです。甘酸っぱいチェリーとクッキーの相性がとてもいいですね」
「よかった」
「ベルマリー嬢の淹れてくれた紅茶も、ちょうどいい濃さでクッキーとよく合っています。美味しいです」

 ベルマリーは少しだけ目を見開いたあと顔をほころばせた。

「あらまぁ、タジェロン様が褒めてくれたという事は本当に美味しいんですね。嬉しいです」
「私も嬉しいですよ、安心してお茶を飲むことができて。お茶や手作りクッキーなんて、信頼できる人が用意してくれた物しか口にできませんから」
 
 ふ、とタジェロン様の視線が窓の方へ移った。
 窓の手前には、八人掛けのダイニングテーブルのような会議用の机がある。

「あちらはベルマリー嬢が施した刺繍ですかね。可憐な花の様子が丁寧に表現されていて、とても見事です」

 会議用テーブルには、私の部屋で使っているテーブルクロスと同じように、足元までしっかり隠れる長めのクロスがかかっている。 
 その縁は今タジェロン様が褒めたとおり、ベルマリーが描いた刺繍の花で鮮やかに彩られていた。

「あらあら、ありがとうございます。あ、今お礼を言って思い出しました。先日は噂を広めるご協力をしてくださってありがとうございました」
「噂……、ああ、例の。あのくらい別に構いませんよ」
「ベルマリー、噂って……タジェロン様に協力してもらったって、何の事?」

 タジェロン様に何か頼み事をしていたなんて、知らない。





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