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甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)
二度目のキス(一部短編と同じような表現があります)
しおりを挟む浅くベッドに腰かけた殿下が、手を伸ばして優しく頭を撫でてくれたから。
心地よくてベッドで横になったまま、そっと目を閉じた。
幸せ……、このまま、眠ってしまいそう……
「ミーネ、今日の午前中……ネイブルの前で真っ赤になっていたね」
声がしたので眠りそうになっていた目をゆっくりと開け、横になったままぼんやりと殿下の方を見る。
今日の、午前中……?
……ぁ、もしかして……
ネイブルに、体調は大丈夫か聞かれた時のことかしら……
「あんなに頬を染めていたのはどうしてか、俺に教えて?」
ん……?
殿下、今なんて……?
あんなにほおお……
そめていたのわ……どおしてか
……おれに……おしえて……?
っ、どうしてか俺に教えて!?
ぴしゃッとお水をかけられたように目が覚めた。
体は寝たままなのに、頭だけ激しく混乱している。
ぇ、ぇ、無理です、殿下。
ネイブルに体調は大丈夫かと聞かれた、あの時に。
実は殿下との淫らな行為が頭に浮かんで頬を染めてましたなんて、絶対に、言えない。
……恥ずかしぃ……
体にかかっているブランケットを、胸のあたりでギュッと掴む。
「言え、ません……」
「なぜ?」
「殿下は知らなくていい事ですから」
もうこれ以上聞かないでくださいと威圧するように殿下の目を軽く睨む。
すると殿下が、他の人の前では見せない蠱惑的な笑みを浮かべた。
そんな表情されたら、胸がキュンとしちゃうからやめていただきたい。
「ふぅん……、好きな男の事で頭がいっぱいだったから……とか?」
「ッ!」
思わず殿下から目を逸らしてしまった。
殿下は……私の気持ちに気づいていて、からかっているのかしら……。
体だけの関係だなんて言っておきながら、本当は俺の事が好きなんだろうって。
でも……気づかれているのなら……
いっその事……ハッキリと伝えてしまった方がいいのかしら……
殿下の事が好きだから、好きな人の恋を邪魔したくないから、私の事は構わず好きな女性と添い遂げてください、と。
「殿下……私が、好きなのは……」
ジッと殿下に見つめられた。
射貫かれそうなほど、鋭い視線。
出そうとした勇気が、へにゅ、と挫けてしまいそう。
「好きな、のは……」
勇気を出して、私。
殿下の恋を、応援するために。
ラッドレン殿下、貴方です――
そう言って、気持ちを伝えて玉砕しないと。
「ごめん、聞きたくない」
「……ム、ん、」
私の身体に覆い被さるようにしてきた殿下が。
唇で、私の口を塞いだ。
――ごめん、聞きたくない
殿下の事が好きだという私の気持ちは、聞きたくないって。
……謝られてしまった。
そうよね、政略結婚の相手から好きだと言われても……困る、だけ。
咄嗟に唇で私の口を塞いでしまうくらい殿下を動揺させてしまって、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「ん……」
殿下とキスをしたのは、これで二度目。
一度目は私たちの結婚式の時。
それ以来のキス。
結婚式の時は、向かい合わせに立つ殿下がそっと私の肩に触れ、唇同士がチュッと軽く重なるだけのキスだった。
幸せすぎてドキドキしたから長く感じられたけど、実際にはほんの一瞬の出来事だったはず。
「……ん……ふ、ム……」
でも今しているキスは、違う。
お互いの唇が触れてから、もうどのくらい時間が過ぎているのだろう。
唇を離したらまた私が余計な事を言うかもしれない、とでも思っているのかしら。
もう、そんな事、しない。
殿下が好きです、なんて言って困らせたりしません。
私にとっては唇の柔らかい感触を教え込まれるような、長いキス。
殿下とキスをしているのだと意識させられて、顔が熱くなってくる。
「んンぅ……ッ」
口を閉じたままだから、息ができなくて苦しい。
唇を離すために頭を動かそうとしたのに。
髪の根元へ指を差し込まれ、頭を固定されてしまって動けない。
苦しくて、もう、限界……。
そう思った時に、ようやく殿下の唇が離れていった。
ぷはッと息をして、新鮮な空気を取り込む。
髪の根元から移動した殿下の左手が、私の右頬をスルリと撫でた。
「ミーネ……」
切なそうに眉を寄せた殿下の、青い瞳が微かに潤んでいる。
憂いを帯びて、なんとも言えない色気を醸し出していて。
私をドキドキさせるそんな瞳で、こちらを見ないで欲しい。
くるっと背を向け腹ばいになり、殿下の視線から逃れた。
「殿下……」
「ん?」
「口づけは、好きな相手とするものです」
いくら口を塞ぐためとはいえ、唇を使われたら心臓がいくつあってももたない。
「好きな……相手と……?」
「はい、そうです」
殿下の好きな女性――サフィニア様と。
「そうか、わかった……」
「ぇ……?」
一瞬だけ、視界が赤に染まった。
今日、殿下が首に巻いていたスカーフの色。
でも、すぐに真っ暗になって。
まるで小さな子どもが、目隠し鬼をする時のように。
頭のうしろで、布らしきものがキュッと結ばれた。
もしかして、殿下……
スカーフで私の目を、覆った――?
「顔が見えなければ、好きな相手としていると想像できるだろう?」
耳元で囁かれ、鼓膜がゾクリと震えた。
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