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甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)
守られているのは
しおりを挟む「ふふ、でもよかったのかも。婚約した誰かさんがすでに結婚しているおかげで候補にならないから、素敵なサフィニア様がお兄様の婚約者になるんだもの。ふたりが結婚してお義姉様ができるのが楽しみだわ」
「っ、婚約のお話はすでにお断りしているはずですっ」
珍しくサフィニア様が声を荒らげた。
本当に、珍しい。
それにジョハン様と婚約の話が出ているなんて、初めて聞いた。
「私の大切な人の婚約や結婚に関して口を出すのは、感心しないなイニアナ嬢」
一瞬にしてその場の空気が凍りつき、皆が声のした方を振り返る。
いつも穏やかで優しい声を発する人物の声のはずなのに、恐ろしささえ感じさせる冷たい声だったから。
殿下が、にこやかに微笑んでいた。
にこやかに微笑んでいる――けど。
先ほどの抑えた口調からは、激しい怒りが伝わってきたから。
だから皆、次の言葉を発することができなくて――
「まーったく、くっだらねぇこと話してんじゃねぇよ」
無遠慮に聞こえるネイブルの声が、空気を和らげた。
「おい、ウィム。用件が済んでるならとっとと帰れ。それともまだ何か、残る理由があるのか?」
「無いです。さ、みんな行こう」
ウィムが促し、学院の生徒会メンバーが帰っていく。
いつの間にか私の横に立っていたネイブルが、先ほどとはうって変わって小さな声で話しかけてきた。
「ミーネ、お前……体調は大丈夫なのか」
「ぇ、体調っ、て……ど、どうして……?」
見上げると、小さな頃からいつも私に対して強気な態度のネイブルが珍しく心配顔。
突然体調の事を聞かれて、ぶわッと顔が熱くなってしまう。
一昨日の夜から昨日の昼にかけて行われた殿下との閨事を思い出してしまったから。
ど、どうして殿下と睦み合った事、ネイブルが知っているの……!?
おそらく真っ赤な顔をしているんじゃないかしら、私。
ネイブルが内緒話をするように、私の耳元で囁いた。
「妊娠……してるんだろ? 無理するなよ」
ぁ、その事……
ネイブルは、妊娠の噂を聞いて信じているのね。
ゃだ、閨事で疲れてないかって聞かれているのかとっ。
も、もうっ、恥ずかし……ッ。
「ち、違うの。妊娠は、してなくて」
スッと肩を引き寄せられる。
引き寄せられた方へ顔を向けると、殿下と目が合った。
ネイブルがいる方とは反対側の隣に、いつの間にか立っていたらしい。
「行こう」
私の肩を抱き寄せたまま、殿下が応接間へと歩いていく。
応接間へ着くとベルマリーがお茶の用意を始めたから、サフィニア様にも声をかけ一緒にお茶の準備に加わった。
あの頃の生徒会のメンバー全員で会えたらよかったけれど、タジェロン様は午前中の執務が忙しくて抜けられないようなので、今日は6人分。
ラッドレン殿下、マーコット様、ネイブルと、サフィニア様、ベルマリー、私の6人。
カップを並べていると、私の横に立ってお茶菓子をセットしていたサフィニア様がひとりごとのように呟いた。
「ミーネ様が羨ましいです。先ほどもあんな風に守ってもらえて……」
思わずサフィニア様の方を見てしまう。
少し俯いて寂しそうに微笑んでいるサフィニア様。
私の事が羨ましいなんて、サフィニア様はやっぱり、殿下の事を……。
違うの、違うのよ、サフィニア様。
殿下は、大切な人――サフィニア様の婚約に対して口を出されて怒っていた。
守られているのは、サフィニア様だから……。
午後は席を外すように言われていたので、自室へこもりベルマリーに刺繍を習う。
足首が隠れるくらい大きなテーブルクロスに刺繍を施していく。
サフィニア様たちが帰られた後も、殿下は遅くまで執務を行っていたので夕食は別々。
夜になりベッドで横になっていたら、執務を終えたばかりなのか首元にスカーフを巻いてきっちりとシャツを着たままの殿下がやってきた。
殿下はベッドに座ると、私の頭を大きな手で優しく撫で始めて。
撫でながら私に、昼間ネイブルの前で頬を染めていた理由を尋ねた。
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