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甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)
黒い噂
しおりを挟む殿下はネイブルと騎士団で行われる朝の訓練に参加していて少し遅れるため、私とベルマリーは先にサフィニア様とマーコット様の待つ応接間へと向かう。
ベルマリーがお菓子の載ったお盆を持ち、私はお茶の入ったポットを載せたワゴンを転がしながら。
王太子妃がお茶のワゴンを運ぶなんてっ、と驚き嘆く人もいたりするけれど。
その嘆きが私の身分に対してだけの問題であるならば。
人の仕事を奪わない程度に、自分でできる事は自分でしたい。
赤い絨毯の敷かれた廊下を歩いていたら、目的の応接間のひとつ手前にある部屋の扉が開いた。
部屋の中から最初に出てきたのは、私もベルマリーもよく知っている人物。
そして他にもぞろぞろと、全部で7名の令息令嬢の姿が。
「ウィム、どうしたの城に来るなんて」
「ぁ、姉様……じゃなかったミーネ妃殿下。お久しぶりです」
少し幼い顔立ちで気の弱い所もあるウィムは、いつの間にか私よりも背が大きくなったけれどいくつになっても可愛いふたつ年下の私の弟。
ベルマリーと一緒にそばまで行ってウィムを見上げる。
「いいわよ、姉様で。私はウィムの姉なのだから」
「そういう訳にはいきませんよ……と言うべき所ですが、今は公の場ではありませんのでお言葉に甘えさせていただきます、姉様」
少しはにかむように微笑んだウィム。
あら、そばにいる令嬢が、なんだか熱い視線をウィムに注いでいる気がするわ。
気のせいかしら。
今ウィムを見つめている方は初めてお会いするけれど。
見知った顔も、四人いる。
フォントデネージュ王国から留学でいらしているリオーラ第二王女。
私と同い年で第三宰相キラエイ公爵家の嫡男、ジョハン様。
その妹でウィムと同い年のイニアナ様。
そしてサーゼツ伯爵家嫡男、ココットル様の四名。
みな王立ギフティラ学院へ通い始めて間もない方々。
リオーラ第二王女は、侍女を待たせているのでと言ってすぐにこの場を去って行った。
「ウィムは、なぜここに?」
「学院の生徒会メンバーが決まったので、挨拶のため陛下に朝のお時間をいただいたのです」
そうだったのね、なんだか懐かしい。
二年前は私も生徒会の一員として挨拶に伺い、陛下からお言葉をいただいた。
「陛下からお言葉を賜り、それに基づいて今後の生徒会運営の方向性を話し合っていました」
「そうなの、がんばってね。ところで今回は、誰が生徒会長に選ばれたの?」
前に殿下が、おそらく今回の会長はウィムになるだろうとおっしゃっていたのを思い出す。
責任が重く大変だけれど、もし選ばれたのなら学院の皆のために努力して欲しい。
そう考えていたけれど、ウィムの返事は私の予想とは違うものだった。
「会長には、ジョハン様が選ばれました」
「ウィム様を生徒会長にと推す声も多かったのですが……」
先ほどウィムに熱い視線を送っていた令嬢が、小さな声で口を挟んだ。
その彼女の肩を、イニアナ様がグイッと押す。
「多少ウィム様を推す声が多くても、ウィム様は学院の卒業試験で不正をしたかもしれないなんて黒い噂のある方の弟よ」
イニアナ様の視線が私へ向けられた。
目を細めて私を見つめ、フッと鼻で笑う。
「留学中に優秀な研究成果を収めた私の兄の方が、会長に相応しいに決まってるじゃないですか」
私たちと同時期には学院へ進学せず、アールガード領に接したグロウドリック王国へ留学なさったジョハン様。
留学していた時の研究成果が認められ、本来なら試験が必要な学院に特例無試験で入学されている。
「イニアナ、そんな風に言わないでおくれ。ミーネ妃殿下が困っているじゃないか」
「お兄様は優しすぎるのよ。不正の噂のある人が王太子妃だなんて、この国の宰相の娘として恥ずかしいわ。誰かがきちんと意見しないと」
イニアナ様は、王太子の婚約者候補に名前が上がった幼い頃から、ラッドレン殿下の事を『私の王子様』と言って慕っていた。
だからこそ、学院の卒業試験で首位になり黒い噂が流れた私が、卒業後すぐに殿下と結婚してしまい何か思うところがあるのかもしれない。
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