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甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)

私は代わり

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「この時期にサフィニア様とマーコット様がいらっしゃるなんて、どうしてかしら……」

 つい呟いてしまった。
 私の独り言に、ベルマリーが反応する。

「視察で話し足りなかったらしいです。ほら、殿下は予定より少し早く帰っていらしたでしょう?」

 私が妊娠のフリなんてしたから。
 きっと噂が耳に届いて、殿下は何事かと心配して帰ってきたのだと思う……。

 本当は視察の日程が終わるギリギリまで、サフィニア様と一緒にいたかったのかも。
 一緒にいたくて、王都に呼び寄せてしまうくらい……。

「明日お城へいらした時にお茶をお出しするので、私はその時に少し話せると思います。ミーネ様もお二人と話せる時間があるといいですね」
「そうね……」

 友人としては、サフィニア様に会いたい。
 でも殿下と一緒にいる所は……できれば見たくないかも。

 食事の用意を終え、ベルマリーが私の方を向いた。

「さ、ミーネ様、こちらへどうぞ」
「……ね、ベルマリー、この食事って昼食? それとも夕食?」

 私いったい、どれだけ寝ていたのかしら。

 ふふ、とベルマリーが笑う。

「夕食ですよ。ミーネ様が疲れているだろうからって、殿下から寝室へ食事を用意するようにと言われました」
「ベルマリー、食事の用意ありがとう。それにごめんね、寝ている間に身体まで綺麗に拭いてもらっちゃって」

 殿下との行為でかなり汗をかいたはずだけど、身体はサッパリとしている。
 脚の、間も……。

「いえ、私は拭いてませんよ……。殿下が部屋を出るまで私以外この部屋に入っていませんし、拭いてあるとしたら殿下じゃないですかね」
「ぇ、殿下が!?」

 私の身体を!?
 拭いてくれたの!?!?

「おそらく。あとシーツを替えたのもラッドレン殿下だと思いますよ。私は替えずに洗い物だけ受け取りましたから」

 王太子殿下自らシーツ交換まで!?
 その間図々しくぐっすり眠っていた私の事、殿下はどう思われたかしら。

「よかったですね。とうとう本当の意味での初夜を迎える事ができて」

 ほくほく顔のベルマリーにそう言われて、顔が沸騰しそうなくらい熱くなってしまう。

「妊娠のフリ、殿下にやきもちを焼かせる目的もあったのでしょうか。だとしたらヤキモチ作戦、バッチリ大成功です」

 いいえ、違うの……。
 殿下は私にヤキモチなんて焼いたりしないわ。
 
 元々は、妊娠したフリをして、殿下に側室を迎えてもらう作戦で。
 殿下には逆に、国母になりたい私が側室を迎えさせないようにしていると誤解され。
 世継ぎを私に産ませるために自分の気持ちを押し殺した殿下が、子をなす行為をしようとしてくれているだけ。

「だけどミーネ様、お身体大丈夫ですか? 殿下から受け取った洗い物の感じからすると、そうとう無理させられたんじゃ」
「ぇ、ぇ、ぇ、と……」

 洗い物で、そこまで分かっちゃうの!?
 恥ずかしい……ッ

「洗い物を受け取った時思わず殿下に、今夜はもうミーネ様に無理させないでゆっくり寝かせてあげてくださいねって言っちゃいました」

 ベルマリーは殿下に対してけっこうハッキリ物を言う。
 18歳で王立学園を卒業した後に進学した王立ギフティラ学院で、授業中に討論する機会が多かったからかしら。
 生徒会のメンバーの中でサフィニア様と私は討論が少し苦手だったけど。
 ラッドレン殿下とタジェロン様、マーコット様にネイブルとベルマリーの討論はよく白熱していたわ。

「あ、ありがとう……?」
「ミーネ様も嫌な時は嫌って、殿下に言っていいんですよ」

 嫌……?
 痛かったし、無理やりだったけど、嫌……では、なかった。
 好きな人にされた事だから。

 殿下は、どうなの……?
 私の事をほんの少しでも好きだから、あんな事ができたのかしら……


「殿下は真面目だから、ミーネ様に手を出さなかったのだって自分の中で変に何か考えて拗らせちゃったんでしょうねぇ……。拗らせた想いを溜めに溜めて、それを一気に爆発させてそうで心配ですよ」
「一気に爆発……」

 ストン、と腑に落ちた。

 他に想う女性……サフィニア様の事が好きで、拗らせた想いを溜めていらっしゃった殿下。
 一途で真面目なところがあるから、政略結婚相手の私に今まで手を出さずにいたけれど。
 殿下も男性だもの。
 性欲だってきっとあるはず。
 その性欲が、体だけの関係を望んだ私に向けられただけ。
 私は、サフィニア様の代わり……。



 夕食を終え、寝室の隣にある浴室で湯浴みをしてからベッドに入り目を瞑る。
 今夜はもういらっしゃらないのかな、と考えていたら寝室のドアが開く音がした。

「殿下……?」
「すまない、起こしてしまったか?」
「いえ、起きてましたから、大丈夫です」

 ギシ……とベッドが僅かに揺れて、殿下が私の隣で横になった。

 もしかして今夜も……するのかしら。

 ドキドキしていたら、きゅ、と手を握られた。
 途端に心臓の音が、一段と激しくなる。

「今日は庭園の散歩ができなかったから」
「そう……です、ね」

 もともと起きたのが遅かったうえに、私が二度寝してしまったから。

「ミーネは、花が好きだろう?」
「はい、好きです」
「こうして手をつないでいれば庭園の花を眺めながら散歩する夢が見られるかもしれない。今夜は手をつないで寝よう」

 朝食後に王宮内の庭園を手をつないで散歩するのが、結婚してから私たち夫婦の日課。

 その夢……見られるといいな……。

 うるさかった心臓が、だんだん落ち着きを取り戻してくる。
 つないでいる手が、温かい。
 幸せに包まれて眠りの世界へとおちていった。

 翌朝は食堂で殿下と朝食をとり、手をつないで庭園の散歩。
 いつも通りの朝を過ごせる事にホッとする。

「今日この後、マーコットとサフィニア嬢が城へ来る。午前中は同席してもらっても構わないのだが、午後は席を外してほしい」

 散歩を終えたところで殿下に言われ、ツキンと胸が痛んだ。





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