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甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)
庭園(ラッドレン7歳視点)
しおりを挟む「珍しい花が、たくさん咲いてる……」
ミーネ嬢は嬉しそうに目を輝かせて花を見ている。
他の令嬢たちは皆、お茶会の間ずっと俺の事を見つめてチヤホヤしていたというのに。
……花ばかり、見ている。
そんな事を考えながら庭園の小道を横に並んで歩いていたら、コツン、と手と手がぶつかった。
あまりにもミーネ嬢がこっちを見ないから。
俺の存在を気づかせるように、きゅッとその手を握ってみる。
そうしたら、キョトンとした目で見つめられて。
その瞬間、自分の顔が沸騰したように熱くなった。
「……王宮の庭は広いから、よそ見ばかりしていると、はぐれるぞ。迷子になりたくないだろ、手をつないでいた方がいい」
我ながら苦しい言い訳だと思ったけれど、ミーネ嬢は納得したようだ。
「はい、ありがとうございます」と笑顔を向けてくる。
そしてその後は相変わらず庭の花に夢中。
俺の方を見ることは無い。
別に、いいけど、さ。
ん?……ミーネ嬢の手、少し冷たい?
女の子は体を冷やすと良くないと聞くし。
そろそろ戻るか。
でも、もう少し花を見せてあげたい気もする。
俺が着ている上着を貸す?
だけどそれには、手を離さないと上着を脱げない。
一度離したら、再び手をつなげるだろうか?
……いや、別につながなくてもいいけど。
…………いいのか?
こんな風に、考える必要のない事を頭の中でグルグルと考えたのは初めてだった。
全くもって、合理的では無いと自分でも分かっている。
こんな事を考えていても時間の無駄、なのに。
あれこれ思い悩んでしまうのを止められない。
ん?……どうした?
俺と手をつないだまま、不意にミーネ嬢がしゃがみ込んだ。
地面に落ちている木の枝を手にしている。
小さな薄紅色の花をいくつかつけた枝を。
おそらく何かの拍子に折れてしまった枝だろう。
ミーネ嬢が顔だけこちらに向けて、俺を見上げるから。
そのあどけない表情に、なぜか胸がドキンと鳴った。
「……ろ、好き……」
え――?
好き、と言われてようやく気がついた。
自分の、気持ちに。
「お、俺も……」
「殿下も好きですか? この花の色。可愛いですよね」
「ェ……」
「……いただいても、大丈夫でしょうか?」
花……
ミーネ嬢が好きだと言ったのは、花の事……
「あ、ごめんなさい王宮の花なのにわがまま言って」
ハッとした。
落ちていた場所へ枝をそっと戻そうとしているミーネ嬢に慌てて声をかける。
「いや、大丈夫だ。花でよければ、いくらでもやろう。すぐに人を呼んで持ち帰り用に何本か切らせるから」
俺がそう言ったらミーネ嬢は、静かに首を振った。
「この花だけで大丈夫です。他の花は、まだ切ったらかわいそうだから」
落ちた花だけで、いいのか?
「その花だけでいいのなら、そのまま持って行って構わない」
「嬉しい、ありがとうございます」
ぱぁぁあ、と花が咲くような笑顔を見せてミーネ嬢が俺にお礼を言った。
高級な花のブローチは受け取ろうともしなかったのに。
手にもった花を愛おしそうに見つめている。
そんな様子が、なんだか無性に可愛く思えて。
「好きだ……」
自分でも気づかぬうちに、小さな声で呟いていた。
「何かおっしゃいましたか、殿下?」
「……そんなに花が好きだったら、城へ来た時にこの庭園へ入ることを許可してやってもいい」
「本当ですか!?」
キラキラした瞳で見つめられた。
他の令嬢は俺の事をこの視線で見つめるけれど、ミーネ嬢は庭園に対してこの反応。
俺、庭に負けてる。
「……でも庭園で迷子になられたら大変だから、俺が一緒にいる時だけにしてくれ。城に来る時は事前に知らせてくれれば、予定を空けておく」
「ありがとうございます」
優雅な動作でお辞儀をするミーネ嬢。
思わず目を奪われてしまう。
だけど――
目を奪われた、その先に
見たことがない、でもその存在はよく知っている
強力な毒を持つ、巨大な蜂が浮かんでいて。
サーッと顔から血の気が引いたのが自分でも分かった。
俺の顔を見たミーネ嬢が、うしろを振り返る。
再び俺の方を見たミーネ嬢と目が合ったと思ったら
ドンッと突き飛ばされて尻をつき
バフッと何かを被せられた。
何が起きたのか一瞬わからなかったけれど
可愛らしいレースの下着が見えて理解した。
ここはドレスのスカートの中だ、と。
「っ……!」
耐えるように呻くミーネ嬢の声が微かに聞こえた。
こちらの方へ駆け寄ってくる複数の足音も。
スカートから出ようとしたら、ギュッとおさえられて。
外の様子は聞こえてくるのに、見る事も動く事もできない。
ミーネ嬢が刺された、二度も……ッ!?
しばらくして無傷の俺が目にしたのは……。
ぐったりと意識を失ったミーネ嬢が運ばれていく姿だった。
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