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甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)
フリ……?
しおりを挟むベッドから降りようと身を翻して殿下に背を向けたら、うしろから抱きしめられて。
背中に感じる、殿下の体温。
「随分とその男に惚れているんだな、ミーネは」
耳元で囁かれた殿下の声は、やはりいつもより低い。
私をうしろから抱きしめたまま、殿下がベッドに腰をおろす。
殿下の腕に身体を拘束されている私は、胡坐で座る殿下の脚の上に座る感じになってしまった。
背中が、熱い。
心臓がバクバク大きな音を立て始める。
「で、殿下、放してくださいっ」
「付き合っている男がいるなんて、知らなかった」
これ以上くっついていたらドキドキしているのが殿下にバレてしまう。
好き好き大好きと告白しているみたいで、そんなの、恥ずかしい。
「っ、いない、です……」
「いない……?」
「はい……いませ、ん……」
私を抱きしめていた殿下の腕から、力が抜けていった。
その隙に膝からおりて、殿下のすぐ隣に座りなおす。
「そう、か……、今はもう、いない……」
え? 今は?
殿下の言葉に感じた小さな疑問。
でも大きな手で優しく頭を撫でられたら消えてしまった。
殿下に頭を撫でられるといつも、幸せな気持ちで満たされてしまう。
語学にマナーにダンスに勉強、と厳しい王太子妃教育がつらくて落ち込んでいた時、いつも何も言わずに頭を撫でてくれた殿下。
今みたいに、慈しむような眼差しで私をみつめて慰めてくれた。
「ミーネは子どもを産みたいと思っているのか?」
殿下との子ども……もし授かることができるのならば、もちろん産みたい。
「……産みたい、です」
眉間にしわを寄せ、殿下が長く低いため息をついた。
「別れてもその男の子どもが産みたいと思えるほど、ミーネは心を奪われて……」
え?
「わかった……。ミーネと子どもは俺が全力で守るから……お腹の子は俺たちの子として育てさせてくれ」
私のお腹にそっと手のひらを当て、殿下は私の目をまっすぐ見つめた。
殿下……
そこに子どもは、まだいないです……。
「ミーネと子どもが好奇の目で見られないように、生まれてくる子が相手ではなくミーネに似ていてくれるといいのだが……」
「……生まれてくる子は……お腹に子どもは……いません……」
「え、いない?」
殿下が私のお腹に視線を落とす。
「そうか……ミーネ、大丈夫か? 妊娠が残念なことになったのだから、身体だけでなく心もつらかっただろう。つらい時に一緒にいてあげられなくて、すまなかった」
ふわりと殿下に抱きしめられた。
あぁ、胸が、ズキズキ痛い。
「ち、違います、殿下。最初からお腹に子どもは、いません」
「最初、から……?」
私の肩に手を置いてゆっくりと身体を離した殿下が、怪訝そうに私の顔を覗き込む。
うしろめたくて、殿下の視線から逃れるように顔を背けてしまう。
「はい……私は……妊娠するための行為をしたことがありませんので……」
「したことが……無い……」
ゴクリ、と殿下の喉が鳴ったような気がした。
そっと顎に手を添えられ、スッと上を向かされる。
殿下の瞳にじっと見つめられた。
どういうことだと、問い詰めるような視線で。
「では、ミーネが妊娠したという話は、どこから……?」
「妊娠したフリを……しました……」
「フリ……? ミーネ……なぜ……そんな事を……?」
殿下はグッと眉を寄せ、訝しむような表情をしている。
「皆に私が妊娠していると思って欲しかったからです」
そうすれば、殿下は愛する方を側室に迎えることができるから。
「そんなフリをしてまで、周りの者に妊娠していると思わせたかったのか」
「ひゃ!?」
身体が倒れ視界が揺れて咄嗟に目を瞑る。
再び目を開けると、殿下の鋭い眼差しが私に向けられていた。
その眼光から逃れるように思わず視線が泳いでしまう。
ん……?
天井……??
殿下の奥に壁ではなく、天井が……見えた。
背中に感じるベッドの柔らかさ。
首をほんの少しだけ動かして左右をチラリと確認する。
両手首がベッドに縫い付けられるように、殿下の手で押さえられていた。
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