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甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)

また視察……ですか。

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「サフィニア、先に行ってしまうなんて酷いよ」

 ラッドレン殿下、タジェロン様、ネイブル、そしてサフィニア様と私の五人で話しているところへ聞こえてきた少し拗ねた様な声。

「あちこち寄り道してばかりで、マーコットを待っていたらいつまでたっても皆と話せないもの」

 ふふ、とサフィニア様が笑った。
 なんて可憐な笑顔。花の妖精がいたら、こんな風に笑うのかもしれない。

 今いらしたマーコット様は、王室御用達の品も扱う商会の長フォトウェル伯爵のご子息でありサフィニア様の幼馴染でもある。

 仔犬のようにフワフワしたはちみつ色の髪の毛で、私や殿下と同い年だけれど年齢の割に童顔な方。
 笑顔は太陽みたいに明るくて、外見はもちろん自由奔放で悪戯好きなところも無邪気で可愛らしい。

 貴族でも商業活動が認められているこの国で、フォトウェル商会は多方面の商売で成功し貴族で最も財を築いていた。
 マーコット様自身も、若いのに経営の才知にたけ経済にも詳しくていらっしゃる。
 見た目も性格も可愛らしいから、豊富な知識と優れた経営の才能が意外で、そのギャップがたまらないと悶えているご令嬢が学園時代にはたくさんいた。
 
 いいえ、いた……というよりも、今もいる。
 
 マーコット様は……そういえば、タジェロン様も、ネイブルも不思議な事に未だに独身で婚約者さえいないから、我こそはと考えている女性はかなり多いはず。

「でも殿下たちは、また明日からアールガード領へ視察に行くんだろう? しかも半月も。嫌というほど会えるじゃないか」

 少し不満そうに口を尖らせているマーコット様。

「だけど、ミーネ様はいらっしゃらないもの」
「ミーネ嬢は今回も行かないの?」
「マーコット、王太子妃殿下に対していつまでもそんな呼び方をしては失礼ですよ」

 タジェロン様が人差し指で眼鏡の鼻の位置を直しながら、マーコット様を窘めた。

「いいのよ、呼び方なんて。変えられたら悲しいわ。タジェロン様も、どうぞ前と同じように呼んでください」

 公式な場ではないのだから、学園の頃からの友人たちと距離をとられるのは寂しい。

「視察だからアールガード領に行っても我々は職務で動き回ってばかりだからね、一緒に行ったらミーネが退屈してしまうだろう」

 先ほどのマーコット様の問いに、ラッドレン殿下が答える。

「向こうで別行動になると護衛も少なくなってしまうし、城に残ってもらった方が安全だからミーネは連れて行かない」
「そっかー、ま、今度ゆっくり遊びに行くといいよ。温泉もあっていい所だから」
「ぜひいらしてくださいね、ミーネ様」

 少しだけ心にひっかかる所があって、曖昧に微笑んでしまった。

 明日から視察で半月も殿下と会えない……。
 ……しかも今回もまた、アールガード領への視察。

 他の地に比べて、アールガード領への殿下の視察は回数が多いし期間も長い。
 もしかしてそれは、サフィニア様がいらっしゃるからかしら……なんて考えてしまう。

 それとも……護衛が少なくても自分で自分の身を守れるようになれば、一緒に連れて行ってくださるのかしら。

 ネイブルの上着の袖をツン、と引っぱる。

「ん? どうした?」

 いつも通りの聞き慣れたネイブルの声。

「……ミーネ?」

 少し遅れて、いつもより少し低い殿下の声が聞こえた。





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