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ラブコメ短編バージョン(※長編版とは展開が異なります)
誰だ?
しおりを挟む「相手は誰だ、ミーネ?」
「言え、ません……」
相手なんていないもの。
存在しない人の名を、言えるわけがない。
「庇うのか。俺に知られたらそいつがどんな目に遭うか分からないから」
ギシ、と音を立ててベッドに膝をのせた殿下。
え……?
そのまま無言で、私が座っているベッドへ上がってくる。
驚いて手に持っていた読みかけの本を落としてしまった。
足を伸ばして座る私のつま先のすぐそばに、殿下がいる。
夫婦だからひとつのベッドにふたりでいるのは普通の事かもしれない。
だけど私たち夫婦にとっては、初めての出来事。
殿下の指先が、ブランケットの上から私のつま先に触れた。
頭の中で警鐘が鳴り響く。
逃げなきゃ、と思った。
どうしてかは分からない。
本能が、危険だと知らせている。
ベッドから降りようと身を翻して殿下に背を向けたら、うしろから抱きしめられた。
背中に感じる、殿下の体温。
今まで抱きしめられたことなんて、一度もなかったのに。
「随分とその男に惚れているんだな、ミーネは」
耳元で囁かれた殿下の声は、やはりいつもより低い。
私をうしろから抱きしめたまま、殿下がベッドに腰をおろす。
殿下の腕に身体を拘束されている私は、胡坐で座る殿下の脚の上に座る感じになってしまった。
背中が、熱い。
心臓がバクバク大きな音を立て始める。
「で、殿下、放してくださいっ」
これ以上くっついていたらドキドキしているのが殿下にバレてしまう。
好き好き大好きと告白しているみたいで、そんなの、恥ずかしい。
「俺にこうされるのは嫌なのか? 前にネイブルにはさせていたのに。そうか、相手はネイブルか?」
前に、ネイブルにはさせていた……?
もしかして、護身術を習っていた時のことですか、殿下?
いざという時に自分が盾となって殿下をお守りすることができるようになりたくて、騎士団長の息子で学園の同級生でもある幼馴染のネイブルに護身術を習ったことがある。
結婚前に学園に通っていた時、たった一度だけ。
その場を見た殿下に「いざという時は俺がミーネを守るから」と言われてしまい、それ以降は習うことができなかった。
殿下は正義感が強いから、自分より弱い者を守ろうという気持ちが働いてしまうのだろう。
その後は殿下が訓練に励むようになり、学園を卒業する頃には将来の騎士団長候補のネイブルに引けを取らないくらいの武術の腕前になっていた。
同級生の殿下とネイブルは、今も良きライバルで友人でもある。
そんなネイブルが王太子妃に手を出したなんて思われたら、殿下にもネイブルにも申し訳ない。
「違……ム、ん、」
違います、と否定しようとしたのに、クイッと顔の向きを変えられた私は殿下の唇に口を塞がれてしまった。
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