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翌日、違和感(殿下視点)
しおりを挟む昨日の行為を、エービスは許してくれるだろうか。
執務机の椅子に座ったまま、頭を抱える。
今日はあまり執務が捗らない。
こんな事は初めてだ。
もうすぐお茶の時間。
エービスは俺にお茶を淹れるために来てくれるだろうか。
それとも昨日の行為で、俺の事が嫌いになって――
コンコン、とドアをノックする音が聞こえて思わず背筋が伸びる。
もし他の者だったらどうしよう。
入室を許可すると、顔を見せてくれたのはいつも通り婚約者のエービスだった。
ホッと安堵の息を吐く。
俺のためにお茶を淹れてくれるエービス。
可愛い、本当に可愛い。
美女というのとは少し違う、癒される可愛らしさ。
それはやはり、エービスが癒しの力を持つ聖女だからだろうか。
聖女の力は人徳が極めて高い者だけに宿る。
この事は一般には知られておらず、王族のみが知っている事だ。
だから中には、王族の婚約について話題にして憐れむ者もいる。
王族の男は年の近い聖女と結婚するのが習わしとなっているから恋愛の自由が全く無い、と。
恋なら、している。
聖女は徳のある素晴らしい女性だから、王族の男は代々妻にベタ惚れだ。
俺も、そう。
初めて好きになった女性はエービスで、いま一番好きな女性もエービス。
好き過ぎてふたりきりだと上手く会話ができなくなってしまうくらい、好きだ。
だから、こそ。
聖女であるという理由だけで、エービスに俺との婚約を強要している事を申し訳なく思ってしまう。
そのうえ、昨日はあんな事をさせてしまって。
寸止めはつらかったけれど、俺にとっては夢のような時間だった。
でもエービスはかなり我慢して治療にあたっていたのだろう。
俺の傷が治った途端あんな風に逃げるように、出て行ってしまうなんて。
机の上に、そっとティーカップが差し出された。
顔をあげエービスに「ありがとう」と声をかける。
俺と目が合うとエービスが微笑んでくれた。
ん……?
ほんの少しだけ、違和感を覚える。
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