上 下
12 / 12

ぷぷ、かっわいそー(義姉ジェルシーラ・フテイシ視点)

しおりを挟む



 あー、つまんない。

 夫となったマクリは「領内の視察に行ってくるよ」と言って今日も出かけてしまった。
 前はほとんど出かける事なんて無かったのに。
 メスフィルールがいなくなって、領地の仕事をするようになったからかしら。

 妊娠する前は私もよく出かけていた。
 夜会へ着飾っていくと周りから褒められて楽しいのよね。

 あーあ、せっかく新しいドレスとアクセサリーを買ったのに、妊娠してダンスが踊れないから夜会にも行けないし誰にも自慢できないわ。

 あ、そうだ。
 メスフィルールに見せに行こう。

 それに冷酷無慈悲だと噂の公爵へ嫁いだあの子が、悲嘆にくれている姿を見るのも悪くない。





「フテイシ伯爵令嬢様がいらっしゃるとは聞いておりませんが」

 アヴァンタント公爵家を訪れたら、門の所で執事長とやらにそう告げられた。
 公爵家に嫁いだメスフィルールの実家からわざわざ義姉の私が訪ねてきてやったのに。

「メスフィルール様がスラッジマン侯爵家の養女となった際に、フテイシ伯爵家とのつながりは無くなったと聞いております」

 あー、なんかその話、お母様から聞いたわ。
 なんでもアヴァンタント公爵と結婚するために、スラッジマン侯爵家の養女になる必要があったって。
 この国の法律上、実家との縁が切れるらしいのよね。
 ぷぷ、かっわいそー。
 結婚したら本当の家族に会うのも止められるなんて。
 ま、家の縁はもう切れているらしいけど、そんなの私には関係ないわ。

「いいからメスフィルールに言いなさいよ。お姉様が会いに来たって」

 執事長とやらは屋敷の中へ入ると、しばらくしてから戻ってきた。

「フテイシ伯爵領の状況をメスフィルール様が気にされておりました。旦那様から奥様の願いはすべて叶えるように言われておりますため、その件でお話しいただけるのであればお入りください」

 ふーん、願いは叶えるといっても、執事に任せっきりで当の本人は新婚早々妻を屋敷に放っておいているのね。
 今ごろ外で浮気でもしてたりして。
 ぷぷぷぷ、かっわいそー。

「引き継ぎの時にお願いした騎士団への派遣依頼の更新は済んでいますか? その依頼は魔獣が出てもすぐ対応していただけるものなので、必ずしていただきたいのですが」

「んー、してるんじゃないの。私は知らないわ」

 質の良さそうな調度品が飾られている広い応接間に現れたメスフィルールは、上質なレースと宝石が美しいドレスを纏っていた。

 メスフィルールのくせに生意気だわ……と思ったけれどすぐに気が付いた。

 うっわ、すっごい痣。首にも、胸元にも。
 フテイシ伯爵家にいた頃は無かった赤い痣がたくさんある。

 きっとアヴァンタント公爵に虐待されているんだわ……。

 私より身分の高い公爵夫人になんてなるからよ。
 ふふふ、いい気味。
 夫に打たれるなんて、私なら耐えられない。

 チラ、とメスフィルールが私のドレスへ視線を向けた。

 ぁ、わかっちゃったー?
 このドレスが新しいこと。

「メスフィルールが養女になった時、スラッジマン侯爵家から支度金をもらったでしょう? それでドレスを新調したのよ。あと見て、このアクセサリーも。素敵でしょう?」

「支度金は騎士団の派遣を依頼する費用にあてて欲しいと言ったはずだけど……」

 メスフィルールが眉を寄せている。
 伯爵家にいたころ自分は何も買ってもらえなかったからって、ひがまないで欲しいわ。

「大丈夫よ。お母様がお父様に言って、メイドを全員解雇したの。そのぶん男性の使用人を雇ったけど、人数が少ないから費用は少し浮いたわ」

「メイドを全員解雇? なぜ……」

 なぜって……ああ、メスフィルールは知らなかったのか。おめでたい人。

「お父様ねぇ、メイドたちと浮気してたのよ。サイテーよね、同じ屋敷の中で不貞行為をするなんて」

 メスフィルールが驚いたように目を見開いている。
 ああ、もしかして私とマクリはどうなのよって思っていたりするのかしら。
 私たちの関係はまだメスフィルールとマクリが婚約中の話だもの、結婚前だから問題ないわよ。

 それにしても、お母様怒っていたわぁ。

 メイドたちから聴取した浮気の話をお父様につきつけて。
 お父様も素直に認めればいいのに、書斎での件は知らない、と最後まで言っていた。

 バレた回数が減ったって不貞しまくりだった事実は変わらないんだから、悪あがきしても仕方ないと思うけど。

 でもよく書斎なんかでスる気になるわね。
 本に囲まれているだけで頭が痛くなりそうで、私は嫌だわ。

 しかもメイドの事を『メス豚』って呼んでいたとか。親の性癖なんて知りたくなかった。

 私はお姫様扱いされないと無理だから、『メス豚』なんて呼ばれたら相手を殴っちゃうかも。
 そのへんの相性はマクリとはバッチリで良かったわ。

 お互いの性癖が合わないと、夫婦生活って大変よねー。






しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

柚木ゆず
2024.07.15 柚木ゆず

少し遅れてしまいましたが、投稿おめでとうございます。本日、最新話まで拝読しました。

ゴーシュさんとメスフィさん。どちらも独特で可愛らしくて、あっという間にお気に入りのおふたりとなりました。
おふたりの相性、すごくいいですよね。
ご実家に居た頃はあんなことがあって、あんな思いをする羽目になってしまいましたが。今は違っていて。
ゴーシュさんと共に、幸せになって欲しいです……!

弓はあと
2024.07.20 弓はあと

柚木ゆず様

こちらのお話も読んでくださり、しかも感想までくださり本当にありがとうございます!
お気に入りと言っていただけて嬉しい♪
ふたりが幸せになれるかどうか、このあとの展開を見守ってくださいませ♪♪

解除
🌷︎
2024.07.13 🌷︎

子種はよく飛ぶのだな、、、
うん
飛びましたね‎( ꒪⌓꒪)

なんか、微笑ましいです。
童貞おじさま。

弓はあと
2024.07.15 弓はあと

🌷︎様

感想ありがとうございます!
そうなんです、よく飛びました~☆彡
童貞おじさまの微笑ましいお話に、引き続きお付き合いいただけますと幸いです♪

解除

あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

俺の妖精すぎるおっとり妻から離縁を求められ、戦場でも止まらなかった心臓が止まるかと思った。何を言われても別れたくはないんだが?

イセヤ レキ
恋愛
「離縁致しましょう」 私の幸せな世界は、妻の言い放ったたった一言で、凍りついたのを感じた──。 最愛の妻から離縁を突きつけられ、最終的に無事に回避することが出来た、英雄の独白。 全6話、完結済。 リクエストにお応えした作品です。 単体でも読めると思いますが、 ①【私の愛しい娘が、自分は悪役令嬢だと言っております。私の呪詛を恋敵に使って断罪されるらしいのですが、同じ失敗を犯すつもりはございませんよ?】 母主人公 ※ノベルアンソロジー掲載の為、アルファポリス様からは引き下げております。 ②【私は、お母様の能力を使って人の恋路を邪魔する悪役令嬢のようです。けれども断罪回避を目指すので、ヒーローに近付くつもりは微塵もございませんよ?】 娘主人公 を先にお読み頂くと世界観に理解が深まるかと思います。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

側近女性は迷わない

中田カナ
恋愛
第二王子殿下の側近の中でただ1人の女性である私は、思いがけず自分の陰口を耳にしてしまった。 ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。