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俺に閨の作法を教えてほしい

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 泣いたのなんてお母様のお葬式以来。

 すると意外なくらい動揺した声が、ゴーシュタイン様の方から聞こえてきた。

「す、すまないッ、怒っているように聞こえたか? 泣かせるつもりは無かったんだ。メスフィルールは何も悪くない、俺の方に事情があって……」

 結婚式の控え室で見た時みたいに、少し困っているようなゴーシュタイン様の表情。
 あの時のように、可愛らしいと思ってしまった。
 事情があるなら教えてほしい、夫婦なのだから一緒に悩む事くらいならできる。
 そうする事で、ゴーシュタイン様の事情とやらの心理的負担も減るかもしれない。

「その事情を教えてくださいゴーシュタイン様。どんな事でも受け入れますから」

 何度か口を開けては閉じ、話す事をためらっていたゴーシュタイン様だったけれど辛抱強く待っていたら声を発してくれた。

「……俺には、子作りの知識が無いんだ……」
「子作り……閨の知識、という事でしょうか」

 コクリ、とゴーシュタイン様が頷いた。
 大きい身体なのにそのような仕草をされると、なんだか可愛らしい。

「兄ではなく俺が公爵家を継ぐべきだと父へ進言する者が、小さな頃からたくさんいた。でも俺は兄と後継ぎ問題で争うような事はしたくなかったから、どうすればいいか考えたんだ」

 うんうんと小さく頷きながらゴーシュタイン様の話を聞く。

「十一歳の頃だったと思うが、結婚と子作りは絶対にしないと決めその目的で近づいてくるものを排除すれば後継者にならなくて済むと気が付いた。だからそれ以降、子作りに必要な情報も徹底的に避けて生きてきたんだ。ここへきてそれが裏目に出てしまったが」

 そこまで聞いて、ふと浮気現場でマクリ様が言っていた言葉を思い出した。

「ゴーシュタイン様、男性は性欲を我慢できないと聞いた事がありますが、そういった事は今まで無かったのですか?」
「性欲……か、十代の頃に腹の辺りでムラムラしたような気分の事だと思うが、そういう時は剣の素振りをしていた。千回を超えたくらいから気持ちが落ち着いてくるから朝晩千五百回ずつの素振りを習慣にしていて、今ではムラムラする事はほとんどない」

 この日々の鍛錬が、ゴーシュタイン様の強さにつながっている気がする。

「生涯独身でいるつもりだったが、縁あってメスフィルールと結婚する事になった。だが時間が無くて閨事についてはまだ勉強していないから、しばらくの間待っていて欲しい」

 しばらく……とは、どのくらいだろう。
 ゴーシュタイン様は、この先もしばらく忙しい気がする。
 私に何か、お手伝いできる事があればいいのだけれど。
 そう考えて、閃いた。
 パッと顔を上げて、ゴーシュタイン様を見つめる。

「私、閨事の経験は無いのですが知識は身につけております。もしゴーシュタイン様がお嫌でなければ、私が閨の作法についてお伝えいたします」

 私がそう言い終えたところで、ふ、とゴーシュタイン様が僅かに目を細めて微笑んだ。
 すごく小さな表情の変化だけれど、とても優しい顔に見えるのは普段が非常に雄々しい顔立ちのせいかもしれない。

「そうか、俺の頃とは時代が違うのだな、今は閨事の教育があるのか。知らない事を学ぶ時に年齢の上下や性別は関係ない。メスフィルール、俺に閨の作法を教えてほしい」

 ゴーシュタイン様に頼ってもらえたのが嬉しかった。
 学園などの教育の場ではなく元婚約者の浮気現場で得た知識だけれど、そこは問題ないだろう。
 ゴーシュタイン様には下着だけを身につけた状態でベッドに軽く腰をかけてもらう。

「俺はどうすればいいのだろうか」
「そのまま動かずにいてくだされば大丈夫です」

 浮気現場を見学した時に、確かマクリ様の行為はこういった始まりだった。
 ベッドに軽く腰をかけたゴーシュタイン様の前に跪いて座り、ゴーシュタイン様の下着の腰の紐を緩める。

「メスフィルール? 何を……?」

 上の方から降ってくる低音で心地良い声を聞きながら、スッとゴーシュタイン様の下着を少し下へずらす。
 ボロンと姿を現した陰茎の先端に、ちゅ、と唇で触れた。






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