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他の女性と?

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「俺は貴女に子を授ける事ができない」

 夜を迎え結婚式の時よりも険しい表情をしたアヴァンタント公爵様が、夫婦の寝室のベッドに座る私へそう告げた。

「理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 それを訊ねる権利くらいは、私にもあると思う。

「理由?」
「そうです、私はアヴァンタント様の妻なのですから」

 同じベッドの上で私と少し距離を空けて隣に座るアヴァンタント公爵様の方へ、ズズイッと顔を近付け問い詰める。
 そうしたら、ばッ、と顔を背けられてしまった。
 嫌そうに避けられて少し悲しかったけれど、アヴァンタント公爵様が呟くように話し始めてくれたので、その声に耳を傾ける。
 公爵様の落ち着いた低い声は耳に心地いい。

「そうだな、妻だ。では俺の事はゴーシュタインと呼んでくれ。貴女もアヴァンタントなのだから」
「わかりましたゴーシュタイン様。では私の事もメスフィルールとお呼びください」

 私がそう言うと、ゴーシュタイン様は少し喉を詰まらせながら「っ、そうだ、な」と答えてくれた。

「ではゴーシュタイン様、私に子を授ける事ができないとおっしゃった理由を教えていただけますか?」
「……兄の葬式が終わり公爵家を継ぐ事になってから今日まで、領地運営について学んだり騎士団の引継ぎもしたりで時間が無かったんだ」

 結婚が決まってからアヴァンタント公爵家の事情については各所から耳にした。
 ゴーシュタイン様にはアヴァンタント公爵家を継いだお兄様がいたけれど、不幸にも馬車の事故でお兄様ご一家は亡くなってしまったのだと。
 それで騎士団長を務めていたゴーシュタイン様が、急きょ騎士団を辞め公爵家を継ぐ事になったらしい。
 
 フテイシ伯爵領のような小さな領地でも、その引き継ぎ作業は大変だった。
 広大なアヴァンタント公爵領について学ぶとなったら、尋常じゃないくらい大変だったはず。
 そのうえ騎士団の引き継ぎもあったのだから、その疲労は相当なものだろう。

「お忙しかったのは存じております。今日はお疲れなのですね」
「いや、そんなに疲れてはいない。騎士団で厳しい生活には慣れているから」
「では何故……」
「どうしても理由を言わねばならないだろうか」

 独身だったゴーシュタイン様は、後継ぎとなる子が必要なため年齢の事もあり急いで結婚相手を探したのだと周りから聞いている。
 私に子を授ける事ができないというのは、どういう事だろう。
 ゴーシュタイン様には近い親族はいらっしゃらないようだけれど、遠い親戚から養子を迎えようと考えているから、とか?
 それとも私はお飾りの妻で、他の女性と子をなす行為をするつもりなのだろうか。

 他の、女性と……。

 そう考えたら無性に悲しくなって、目から涙がポロリと零れてしまった。
 マクリ様の浮気現場を見ても涙なんて出なかったのに。





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