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私の婚約者は、今日も浮気している
しおりを挟む私の婚約者は、今日も浮気している。
本棚の向こうから漏れてきた女性の喘ぎ声が耳に届き、私は小さく諦めの息を吐く。
ここはフテイシ伯爵邸内にある書庫を備えた広めの書斎。
領地運営に役立つ資料があるから、私はここで仕事をしている事が多い。
父は社交ばかりで仕事をしない人だったため、一年前……私が十八歳になる少し前に母が亡くなってから領地に関する仕事は全て私が担っている。
前は執事もいたし侍女もたくさんいた。
でも母が亡くなり、葬式が終わった直後に再婚した父が屋敷へつれてきた継母と義姉は浪費が凄まじく、執事と侍女たちには泣く泣く暇を言い渡す事になってしまって。
屋敷に残った使用人は、父が気に入っているメイドが数名だけ。
私はひとりでこの部屋に籠り、仕事をする事が多くなっていた。
最初に婚約者のマクリ様を案内した時に、この部屋を使う者は少ないと伝えたせいでこれ幸いと逢引の場にしているのだろう。
古い資料の入った本棚がたくさんあるこの部屋を使う者は確かに少ない。
でも私は、よく使っている。
マクリ様が性行為で使っているところを見てからは、お気に入りだった大きなソファには座れなくなってしまったけれど。
再び小さくため息をついてしまった。
喘ぎ声が響く中では、領内の収穫高予測と税収計算に集中できない。
魔獣による被害を最小限にするため、騎士団の派遣を依頼する費用をどこから捻出するか考えなければならないのに。
私は書庫に並ぶ本棚の奥まった所にある小さな机の上に読みかけの資料を置き、人生勉強だと思って今回も婚約者の性行為を見学する事にした。
行為に夢中のふたりは、本と本の隙間から見つめている私の視線には気付いていない。
視線の先で今まさに他の女性と浮気をしている、マクリ・パラバナ様。
父の友人であるパラバナ伯爵の息子で、次男だ。
母が生きていれば、十八歳の誕生日後すぐマクリ様を婿に迎えて結婚する予定だった私。
でも母が亡くなったため、喪に服す一年の間は結婚式を控えたいと私が希望したから未婚のまま。
結婚は延期になったけれど、マクリ様は領地運営の勉強を兼ねてこのフテイシ家で暮らす事になった。
(マクリ様が領地運営について学んでくれたのは、最初の二日間だけになってしまったのよね……)
人手が足りず忙しくてマクリ様に構っていられなかった自分にも責任があるのだろうか。
マクリ様の浮気について、父に相談したこともある。
でも浮気くらい我慢して見てみぬふりをしろと言われた。
父も自分自身が結婚当初から浮気をしていて、私と同い年で母親は違うけれど父親が同じ娘……私の義姉がいるくらいだからそう言えるのかもしれない。
そもそも貴族の結婚とはそういうものなのかしら。
浮気をしない男性なんていないし、結婚は義務。
私は領民のために尽くし、フテイシ伯爵家を存続させるために子をなせばいい存在。
それならば子をなす義務を果たすために自分が何をどうすれば良いのか学んでおかなければ。
この国では、未婚の女性が閨の知識を得る機会は無い。
旦那様に任せておけば良いのですよ、と教わるだけ。
男性は結婚前でも娼館などへ行って学んでいる人が多いのに。
同居生活が始まり領地運営について議論した最初の二日間で感じたけれど、マクリ様は論理的に物事を伝えるのが苦手そうだった。
もうすぐ約束の一年が経つから結婚式は来月執り行われる。
初夜の日マクリ様に任せっきりにしては、お互いに意思疎通ができなくて戸惑ってしまうかもしれない。
だから閨の作法について、どうすべきか浮気現場をよく見て学んでおかないと。
そう考える事で婚約者の浮気を自分に納得させていたけれど、状況は一変する。
義姉のジェルシーラが、マクリ様の子を身籠ってしまった。
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