8 / 17
8
しおりを挟む夕食の献立は昼とほぼ同じ。
町内会の集まりの時に貰った野菜で作るサラダが加わるくらい。
奏哉くんは嬉しそうな表情で、サラダに使う野菜を洗ったり盛り付けたり手伝ってくれた。
男の人が隣に並んで料理をするなんて初めての経験。
8歳も下の男の子相手なのに、なんだかドキドキしてしまう。
手伝ってくれたのでパパパッとちゃぶ台へ並んでいく料理の盛られたお皿たち。
野菜メインで毎日あまり変わらない献立。
でもなぜか、いつもよりも美味しそうに見える。
奏哉くんは正座で手を合わせ「いただきます」と言ってから食べ始めた。
会話に困りそうだったから、行儀が悪いかもしれないけどテレビをつけながらの食事。
テレビでは夕方のニュースが流れている。
三年くらい前に日本へ進出してきた通販会社の特集。
大手通信販売会社に勤めていたから、特集で話題のこの企業はもちろん知っている。
買い物をする時は私もここのサイトを利用しているし。
使いやすいのよね、他の会社の通販サイトに比べて。
正直なところ自分が勤めていた会社のよりも、格段にいい。
元は海外の企業だけど、日本でも利用者数を急激に増やし飛ぶ鳥を落とす勢いで。
この会社に売上、人気ともあっという間に抜かれた時は、お義母さんも統哉さんもかなり機嫌が悪かったのを憶えている。
ご飯を食べ終えると、ちょうどニュース番組も終わった。
ふと思い出して、奏哉くんに聞いてみる。
「そういえば、昼間貸した漫画読んだ? 少女漫画だから、男の子にはやっぱりつまらなかったかな?」
「もう男の子って年でもないですよ。俺だっていつまでも子どもじゃありません」
少し拗ねたような奏哉くんの声。
「……そっか、奏哉くんももう22歳だもんね。それなら尚更、少女漫画なんてつまんなかったよね、ごめん」
「いえ……漫画は面白かったです。義姉さんがああいうのを読んでいるのは意外でしたが」
意外……か。
確かに、30歳の大人が少女漫画なんて読んでいるのは少しイタイかもしれない。
「そうよね、私が恋愛もの読んでるなんて意外でしょう? 私は恋なんて教えてあげられないけど漫画読んでどうだった? 少しは恋が分かったかな?」
「恋が分かったかどうかは分かりませんが、告白シーンとか、読んでいてドキドキしました」
あら奏哉くん、耳が少し赤い?
照れてるのかな……可愛い。
昔からしっかりしている子だったから、こんな風に動揺しているような表情、初めて見た。
もう少しこの表情を見ていたい。
からかったりしたら、怒られちゃうかな。
「ねぇ奏哉くん、告白シーンふたりで再現してみようよ。何事も練習が大切だし」
「ぇ、義姉さんを相手に、ですか?」
「うん、奏哉くんが一番ドキドキした漫画の再現、してみよう」
どの本だろう、奏哉くんがドキドキした告白シーン。
あの作者さんは、男の子からの告白がお決まりのパターン。
高校の卒業式数日前、誰もいない教室での告白?
それとも駅で別れ際に、ヒロインを引きとめて告白する場面?
ぁ、花火を見上げながらのシーンもあったなぁ。
一度目は声が小さすぎて花火の音で聞こえず、勇気を出してもう一度大声で告白するの。
どの漫画でも、告白のあと両想いになってもファーストキスまでが長いのよね。
じれじれ甘々で、読んでいてキュンとしてしまう。
「……本当に、再現しますよ?」
「いいよ、お互い笑っちゃうかもしれないけどねー」
あれ……?
私の身体が、奏哉くんに体重をかけられてゆっくりとうしろへ倒れていく。
片手を畳につき私の身体を閉じ込めた奏哉くんに、もう一方の手で顎をクイッと固定された。
「……好きです、義姉さん。俺はずっとあなたの事が、好きでした」
壁ドンは漫画でよく見たけれど、いま私は床ドン顎クイされている状態。
こんな告白シーン、あったっけ??
頭に疑問符が浮かんでいると、奏哉くんの唇が私の口に触れた。
一拍遅れてキスされているのだと気付く。
――告白からキスまでこんなに早いの、あの作者さんの漫画で読んだこと無いよ??
1
お気に入りに追加
509
あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる
奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。
両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。
それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。
夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる