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しおりを挟む「ッ!?」
――光!?
ヴェルク様の腕に包まれ真っ暗な空を見上げていたら、突然カッと光った。
咄嗟に目を瞑る。
――魔物からの、攻撃!?
目を瞑ったまま、ギュッとヴェルク様のシャツを掴む。
私を包むヴェルク様の腕の力が、強くなった。
……………………
……………………
………………あれ?
……特に何も、起きない?
「久しぶりだね、マミィ!」
ぇ……?
嬉しそうなレオン様の声が聞こえ、恐る恐る目を開く。
安心したかったからか、無意識にレオン様の声のする方ではなく私を抱きしめているヴェルク様の顔を何よりも先に見上げてしまう。
ぇ……?
ヴェルク様の奥に見える夜空に、花火!?
前世の花火とは違うのかもしれない。
でもそれによく似た光が夜空を彩っていた。
「綺麗……」
思わず、ほぅ……と感嘆の息を漏らす。
「どういう事だ、レオン」
ヴェルク様の怒気を帯びた声に、肩をビクリと揺らしてしまった。
それに気付いたのかヴェルク様は私の顔を見て安心させるかのように微笑んでから、再び厳しい視線を魔界へと通じる扉の方に戻す。
ヴェルク様の視線の先には、白い髪の女性に抱きしめられているレオン様の姿が。
そのすぐそばにいるのは、プルプルうさぎのラパンさん。
「おおおおお久しぶりです、シシシシシレーヌ様」
「元気そうでよかったわ、ラパン。いつもレオンと一緒にいてくれてありがとう」
シレーヌ様?
それって、確か……
レオン様のお母様のお名前!?
私とそっくりだという事で、レオン様にマミィと呼ばれるようになったけど。
全然似ていないと思う……。
だって、今チラリとお顔が拝見できたけど、とても美しい方。
似ているのは、髪の色だけでは?
「ふたりの結婚式に呼んでもらえて嬉しいわ。ふふ、おめでとう」
「ああああありがとうございます」
けけけけ結婚!?
ふたりの会話が聞こえ、心の中でラパンさん風に驚いてしまう。
「どういう事だ、レオン」
再びレオン様に向けられた、ヴェルク様の声。
同じ言葉だけど先ほどよりは、怒りを感じない。
「どうって、言葉通りの意味だけど?」
おめでとう、おめでとう、と次々に声をかけられ始めたレオン様とラパンさん。
ふたりに声をかけているのは、ヴェルク様やレオン様のように美しい人型の魔族や、ファロスやラパンさんのような動物型の魔族、それにゴリゴンのような、いかにも魔物といった風貌の者たちなど様々。
「レオン様……魔族がたくさん、人間を滅ぼしにやってくるはずでは?」
この魔物たちからは、そんな雰囲気が感じられないのですが?
「『たくさん魔族が来る』、『人間が一瞬で滅びないといいんだけど』とは言ったけど、別に魔族がわざわざ人間を滅ぼしにやって来るとは言ってないよ」
ぇ……?
そんな……レオン様の言い方だと、誰でも魔族がこの世界を滅ぼしにやってくると思いますよ。
ジトッと恨みがましい目つきで睨みつけたけれど、レオン様はまったく気にする様子がない。
「あ、そうだ。ダディ、こいつらあげる」
レオン様がクィッと人差し指を動かすと、デセーオ殿下とテータ様の体がヒューンと飛んでレオン様のすぐそばにドサリと落ちた。
魔物たちに囲まれている、その中心に。
「ぃ、ぃゃだああぁああッ!」
「助けて、お願い、助けてぇっっ!」
「だぁーいじょうぶだって。ダディが帰る時一緒に魔界へ行ってもらうけど悪いようにはしないから、たぶん」
レオン様、たぶんって……そんな風に言ったら、ふたりとも余計に不安になると思いますよ……。
レオン様たちの方を見ていたら、シレーヌ様と呼ばれていた白い髪の女性と目が合った。
ふわりとした柔らかな笑みを向けられる。
「あなた達も結婚するんでしょう?」
「「ぇ……?」」
シレーヌ様に意外な言葉をかけられて、ヴェルク様と同時に声を発してしまった。
「あら、違うの? レオンにそう聞いたのだけど」
「ああ、そう聞いている」
シレーヌ様に続いて言葉を発したのは、黒い服とマントを纏った黒い髪の男性。
どことなく、ヴェルク様に似ているような……?
「お父様」
声のした方を振り返ると、いつの間にいらしたのかアリアを胸に抱いているサティ様のお姿が。
その隣には、眠るアエルを抱っこするゾマ様のお姿も。
そしてゾマ様のすぐうしろに、トルタル様とセルヴィル王国の聖女様までいらっしゃる。
サティ様は先ほどシレーヌ様に続けて声を発した男性の方へと近づいていく。
黒い格好の男性は、ヴェルク様によく似た顔で微笑んで、サティ様が抱っこしているアリアの頭を撫でた。
お父様、とサティ様が呼んでいるヴェルク様によく似た男性……
サティ様のお父様……ということは、ヴェルク様のお父様!?
「お父様、ヴェルクの結婚についてはレオンが計画したサプライズなの」
計画……?
「レオンとラパンの結婚式と一緒に、ヴェルクと運命の女性のリリィにも結婚式をプレゼントしようって」
結婚式を、プレゼント……?
「ヴェルクは何も知らないのよ。内緒にしておかないと、ヴェルクは魔界の者を呼んでの結婚式なんて反対するだろうしリリィをお父様や皆に会わせることがないと思うから。だからここへは、結婚とは違う理由で来させたの」
ヴェルク様は何も知らない……?
それならこのサプライズ計画って、いったい誰が知っていたの……?
バッとクルーティス国王陛下の顔を見る。
国王陛下は、私は聞いていない、という感じで目を伏せ静かに首を横に振った。
そうよね、陛下がこのような話に進んで協力するとは思えない。
おそらく私と同じように、何も知らされずこの場所へいらしたのだろう。
ただ純粋に、この国が救われる事を願いながら。
続いてトルタル様の方を見たけれど、しわしわのお顔で表情が分からない。
でもトルタル様の隣でセルヴィル王国の聖女様が、ごめんね、という感じの悪戯っぽい表情で手を合わせていた。
私よりも年上だと思うけれど、とても可愛らしい雰囲気の隣国の聖女様。
レオン様は、私と会うまで人間の中では陛下としか連絡をとっていなかった。隣国の聖女様と直接話をするとは思えない。
私のいたクルーティス王国とは違い、セルヴィル王国では聖女様と魔族の……トルタル様の間で以前から交流があったらしいし。
彼女がこの計画を知っていそう、という事は……。
トルタル様ももちろんご存知で、ゾマ様だって知っていたはず。
「勝手に事を進めるな」
地を這うような重く低い声に、思わず心臓がビクリと震えた。
――ヴェルク様、怒っている!?
そうよね、私と結婚だなんて、考えられないにちがいない。
人間の私だと、そんなに長い間一緒にいられるわけでもないし。
そんな事を考えていたらフワッと体が浮いた。
ヴェルク様に、お姫様抱っこされてる!
そう気づくのと同時に、転移魔法と思われる光で包まれていた。
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