【R18】婚約破棄された転生聖女は魔の森に捨てられる~ヤンデレ黒の魔王が溺愛してくるけどどうしたらいいですかッ!?~

弓はあと

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 この世で最後となる食事の時間を、大好きな人(大好きな魔物と言うべき?)たちに囲まれて過ごし夜はアエルとアリアと一緒の部屋へ向かう。
 ふたりを寝かしつけ予定通り金の魔王城へ行くと、大人の姿をしたレオン様の転移魔法の光に包まれた。

 魔王城の庭以外で、久しぶりに感じる外の空気。

 ここは……クルーティス王国とセルヴィル王国の国境山脈の奥地、金の魔王城と銀の魔王城の間に位置する場所のはず。
 初めてくる場所。
 ……いえ、もしかしたら20年前にアエルと一緒に通り抜けたことはあるのかしら。

 私とレオン様から少し離れたところに、ふたつの扉が並んでいた。
 その奥に何かがあるわけではない。
 ただ、ドアがあるだけ。

 きっとひとつは時空のはざまへと通じる扉で……もうひとつは魔界へと通じる扉?

 答えを求めるように、横に立つレオン様の方を見る。
 すると少し離れたところに、プルプルうさぎのラパンさんと陛下、それにデセーオ王太子殿下とテータ様のお姿が見えた。

 責任感の強い陛下が、魔界へと通じる扉を封じるのを見届けるためにいらっしゃるのは分かるけれど……

「どうしてここに、デセーオ殿下とテータ様が?」
「あいつらの面倒、俺様がみることになったからね。とりあえず今回は荷物持ち要員」

 その言葉通り、デセーオ王太子殿下はその手に大きなクリスタルを抱えていた。
 普段はクルーティス城の祈りの間で、祭壇に飾られているクリスタルを。

 このクリスタルは、祈りを捧げることで結界を守るための力を溜め、効力を長持ちさせることができる国の宝。
 夜だというのに、満月の光を浴びて眩しいくらいの輝きを放っていた。
 先は鋭いくらいにピンと尖り、直径5センチ長さ30センチ以上はあろうかという細長くて大きいクリスタル。
 
 レオン様が陛下たちの方へ歩いていったので後に続いた。
 陛下に向かってレオン様が片手を上げる。

「や、ご苦労様っ」
「今日はよろしく頼む……。リリィ、国のために、本当にすまない」

 陛下がこちらに向かって頭を下げようとしたので慌てて手を伸ばし肩に触れてとめた。

「いいんです。私でお役に立てるのであれば……」

 本当は、怖い。
 今すぐ逃げだして、ヴェルク様の元へ帰りたい。

 でも魔族がやって来たら、間違いなく人間と争いになる。
 ご自身も魔族であるヴェルク様は、私が人間を守るために戦ったら悲しむだろう。
 いいえ、もし私が戦わなかったとしても、人間を攻撃する魔族を見たら心を痛めるに違いない。

 ヴェルク様は、優しすぎる魔王だから。
 だから、扉は閉じておくべきだと思う。

 前にファロスが、人間の100年はヴェルク様にとっては1年くらいの感覚だと言っていた。
 私がこのあとすぐに死んでも、ヴェルク様にとっては別れの時期が少し早まるだけ。
 それならヴェルク様に人間と魔族の争いを見せなくて済むよう、そのお役目を果たして死にたい。

「リリィの力は、正直なところ我が国にこれからも必要だ。扉を封じる役割は、他の聖女が担うわけにいかないのだろうか」

 レオン様に問いかける陛下の言葉を聞いて、テータ様の肩がビクッと揺れた。
 その様子からすると、陛下から聞いているのかもしれない、魔界への扉を封じる方法について。

「ハハハ、ダメだね。そこの聖女ちゃんもどきじゃ魔力が弱すぎるよ」

 トルタル様の執務室で見つけた書物によると、満月の夜、月の大きさが最も満ちる瞬間に扉が開き始める。
 古の者たちが多くの犠牲を払って試した結果、扉が完全に開く前に魔力の強い者の……この世界でいえば聖女の生きた心臓を刺したクリスタルを扉の前に捧げたところ開きかけていた扉が閉じ、聖女の心臓は数千年の間拍動しクリスタルに力を与え続けその間はずっと扉が開かなかったという。

 本当かどうかさえ分からない、伝説の話。
 でも今は、それを信じるしか方法は無い。
 魔族がこの世界へ来ようとしているのは、変えようのない事実なのだから。

「マミィ……いや、マミィと呼ぶのは止そう。もう俺様のマミィには、なれないから」

 そうね、お母様の代わりは、もうできない。
 もうすぐ私の命は、終わりを迎えるから。

 ――レオン様の、手によって。

「もうすぐ、扉が開き始めるよ」

 レオン様が言い終わるのと同時に、向かって左側にある扉がぼんやりと光りはじめた。

「リリィ、本当に……いいんだね」

 デセーオ殿下からクリスタルを受け取ったレオン様の問いに、コクリと頷く。
 決意はできていたはずだけど。
 下を向いた瞬間ぽろッと涙がこぼれ、顔を上げることができなくなってしまった。

 ザッザッと小さな石を踏んで歩く音が聞こえて。
 レオン様の靴先が、俯く私の視界に入ってきたのでゆっくりと顔を上げる。

 月明かりでレオン様の髪の金色はキラキラと光ってよく見えたけれど。
 レオン様の表情は逆光でよく見えない。



 涙を拭い、心臓を貫きやすいように、だらんと腕をさげた。
 レオン様が私に向かって、クリスタルを持った手を勢いよく振り下ろし――



 ――噴き出した血で私の視界は赤く染まった






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