【R18】婚約破棄された転生聖女は魔の森に捨てられる~ヤンデレ黒の魔王が溺愛してくるけどどうしたらいいですかッ!?~

弓はあと

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 窓から差し込んでくる光で自然と目が覚めた。

 爽やかな陽の光に包まれているのに、なんだか身体が重い……。動こうとしても、動けない。

「……んぅ……リ、ィ……」

「え、ヴェルク様!?」

 聞き覚えのある声なのに、初めて聞く寝言のような甘えた声音に驚いて、思わず胸元を見る。
 私の胸に顔をうずめて、ヴェルク様が寝ていた。
 美しさは損なわれていないけれど無防備な寝顔が、なんとも可愛らしい。
 よく見ると、背中に手をまわされてガッチリと抱きしめられている。道理で動けなかったわけだ。

 私の身体にまわされた腕が何も身につけていないことに気づき、抱きしめられている自分も裸であることを認識した途端、かあぁぁあ、と顔が熱くなる。

 私、私、ヴェルク様と、昨日――

 気を抜くと、ぽわぽわしてしまいそうな心を落ち着かせるため、胸元にうずめられた頭を撫でてみた。

 撫でていると、愛おしさが込み上げてくる。

 痛かったけど、幸せだった昨日の出来事も蘇ってきて。

 自然と、涙が出てきた。


「……リリィ?」

 いつの間にか目を開けていたヴェルク様が、心配そうに私の顔を覗き込んでいる。
 慌てて涙を拭おうとした手が目元に届く前に、包み込むように握られた。

「昨夜……つらかったか、リリィ?」

 ブンブンと首を横に振る。
 ヴェルク様はジッと私を見つめてから、目尻をペロリと舐めた。

「苦くは……ない、な」

 少し安心したような眼をすると手を伸ばして私の髪を梳いてくる。
 何度も、何度も。
 時おり一房すくって口づけては、幸せそうに微笑んで。

 その顔を見ていたら、なぜかポロポロポロポロ涙が零れた。

「な……リ、リィ……?」

「泣いて……ごめ、なさ、うれ、し……くて」

 涙で視界が滲んでいたけれど、ヴェルク様が目を大きく見開いたのが分かった。
 ぎゅうッと抱きしめられ、頭をポンポンとされる。

「我もだ、リリィ」

 大好きな、甘くて低いヴェルク様の声を聞いたら、また一つ新しい涙が零れた。


 遠くの方で、子どもの嬉しそうな声が響いている。

『パパー!!』

 ん? パパ??

「今の……アエルの声、ですかね?」

「あぁ、ゾマの気配がする。今回はいつもよりもサティが長く泊まっていたから、痺れを切らして迎えにきたのだろう」

 ゾマ……恐らく、銀の魔王のこと。
 ヴェルク様は優しい魔王だけれど、銀の魔王はどうなのかしら?
 恐ろしい魔王だったり、するのでしょうか?

「サティ様が無理やり連れていかれたり、長く不在にしていたことを怒られたりしませんかね?」

「いや……それは無いだろう。あのふたりでは、断然サティの方が強い」

 え、そうなの? それは意外。
 サティ様、あんなに儚げな感じなのに。

「ま、久しぶりに親子水入らずとなるし。しばらく放っておいても構わないだろう」

 ヴェルク様が再び私の胸元に顔をうずめてきた。
 心臓のドキドキが伝わってしまいそうで、少し恥ずかしい。

 親子水入らず、か。私には前世でも今世でも縁がなかった言葉。
 少し、羨ましい。
 あ、そういえば……。

「ヴェルク様のご両親は、魔界にいらっしゃるのですか?」

「父は、いる。だが母はいない。母は我とサティを産んで、まだ赤子だった頃に亡くなっているから、ほんの微かな記憶しかないな」

「そう……ですか。お母様は……」

 私には前世でも今世でも元々家族がいなかったから、失う悲しみは知らない。けれど少しでも記憶があると、寂しい気持ちも大きくなるのではないだろうか。
 胸元にうずめられたヴェルク様の頭をそっと撫でる。

「母は人間だったからな。寿命が短い。仕方のない事だ」

 ヴェルク様はもう三千年近く生きていると言っていた。
 この大陸の三国の歴史は長い。
 おそらく数万年は続いていると言われている。
 前世では考えられない国の歴史の長さ。
 その中で、人はどれだけ入れ替わってきたのだろう。
 ヴェルク様も三千年の間で、王が何代も替わっていくのを見てきたに違いない。

「リリィ、一緒にいられる間は、できるだけそばにいてほしい」

 ヴェルク様の声が何かに怯える子どものように小さかったので、思わず胸元にうずめられた頭を抱きしめた。

 魔王の寿命はわからないけれど、私が死んだあとヴェルク様はいったいどれだけ長い時間を過ごされるのだろう。







 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 

 【お知らせ】

 ここまでの閲覧ありがとうございます。

 ふとした拍子に『コミュ障』の単語が目に入って、コミュ障でもあなたはあなたのままでいいよ、の想いが溢れショートショートを書いてしまいました。
 長編が亀更新にもかかわらず申し訳ありません。

 タイトルは
『コミュ障の私が女勇者になってしまいました。世界を救えなかったらごめんなさい     m(_ _)m 』
 となっております。 
 ※ショートショートに出てくる魔王は、この話の魔王とは別人です。
 全年齢向け一日一話、三日で完結のあっさりほのぼのとしたお話。
 長編の箸休めに、よかったらご一読ください。
 亀更新ではありますが、長編の方も引き続きお付き合いいただければ幸いです。



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