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 ヴェルク様は私に覆い被さったまま、片手で私の頭を撫でながら耳元で囁いた。


「他の者がつけた傷がないか確認を終えた場所に、我が痛みを与えていく。頭からつま先まで全身に。それでよいか、リリィ?」


 全身に、痛みを――
 それはさすがに少し怖い。
 怖いけれど悪いことをしたのは私、痛みを受け入れなければ。

 ベッドに寝そべったまま、ギュっと目を瞑ってコクリと頷く。

 ふ、とヴェルク様が小さく笑ったような気がした。


 ――耳を、見られてる?


 優しく摘まんだり、揉んだリ、裏側を撫でたり、私の耳でヴェルク様の指が自由に動き回っているのが目を瞑っていてもわかる。
 この後なにをされるのかビクビクしながら、時間が過ぎるのを待つ。
 少しすると、ヴェルク様の指の動きが止まった。

 何をされるのだろう――?
 まさかヴェルク様、いきなり私の耳をブチッと引きちぎったりなんてしませんよね。

 目を瞑ったまま、祈るような気持ちで身体の脇のシーツをギュッと掴む。

 耳にヴェルク様の息が僅かにかかった。
 身体がビクッとして咄嗟に息を止めてしまう。

 次の瞬間――


 ?
 ??
 ???
 噛んだ?

 いえ、噛む、というよりも甘噛みの方が正しいかも。

 そのくらい、痛くなくて。
 むしろ、ムズムズするくらい。

 何でしょう、今の?
 

 頭に疑問符が浮かんでいる間に、反対の耳でも同じことが繰り返された。
 でも、今度はさっきよりも怖くない。
 はむはむ、と耳を優しく噛まれる感触が、くすぐったい。
 
 噛まれているのに痛くない。
 その代わりに身体の奥の方が先ほどよりもムズムズしてくる。

「んッ……」

 耳が解放されたら、首をスーっと撫でられた。
 そしてすぐに、カプッと首筋に歯を立てられる。
 そのままチュッと吸われ、まるで吸血鬼に血を吸われているような錯覚に陥った。

「リリィ、口を開けておくれ」

 口を……?
 言われたとおりに口を開けると、ヴェルク様の長い指を二本差し込まれる。

「んんっ」

 ヴェルク様の指が、私の頬の内側や歯茎を撫でていく。
 口内を這う指の動きを意識すると、ヴェルク様と深いキスをしているような気分になってしまう。

「口の中に傷はないようだな。ではリリィ、舌をだして」

 舌、を……?

 おずおずと舌を出す。

「もっとだよ、リリィ。自分から見えるくらいに」

 ググッと舌を口の外へ出す。
 もうこれ以上できないくらいに。
 自分でも、舌の先が見えた。

「いい子だ。よし、傷はないな」

 ヴェルク様が優し気な笑みを浮かべる。それだけでホワンと心が温かくなるから不思議。

 そのまま麗しい顔が瞳を閉じながら近づいてきて――。
 私が差し出した舌に、はむッ、と噛みついた。

 そのまま、はむはむ、と優しく私の舌を甘噛みする。
 自然と唇同士も触れ、舌同士もヌルヌルと擦れた。
 ヴェルク様は私の後頭部と背中に手をまわし、より深いところで舌を捕らえようとするかのようにグッと自分の方へ引き寄せる。

「んッ……ムぅ……っ」

 舌の奥の方に、ヴェルク様の歯が当たった。それなのに舌先はチロチロと舐められて。
 ヴェルク様の舌が、蕩けるように甘い。不思議な感覚に、身体の奥のムズムズが強くなる。

 突然ジュッと舌を吸われ、ビクッと身体に電気が走った。

 そしてすぐに舌の拘束が解かれ、ヴェルク様の感触が離れていく。
 離れてしまって、悲しくて寂しい気持ちが残る。
 
 ヴェルク様……?

 見上げたヴェルク様はちょっと困ったような表情をしていた。

「リリィが……甘すぎる」

 ふぁっ、体液が甘くなってしまうなんて。
 ヴェルク様は私を罰しているのに。
 これではまるで、喜んでいるみたいになってしまうではないの。

 上体を起こしたヴェルク様は寝そべったままの私の手をとり、指を一本一本順番に眺めてからパクリと口に含むと、はむはむ、と優しく噛んだ。

「ひぁ……」

 噛むとき指先にヴェルク様の舌がヌル……と当たるから、そのたびにゾクリとお尻が浮くような感覚になる。

 指をすべて噛まれると、手首、肘、肩、鎖骨、腕を上げられ脇の下、とヴェルク様に歯を立てられていく。

 脇の下を噛まれるなんて恥ずかしい、でもそこに顔をうずめて口をモグモグしているヴェルク様はなんだか可愛らしくて。
 頭を撫でたい衝動に駆られ手を伸ばそうとしたけれど、ヴェルク様が顔を上げたので慌ててひっこめた。

 ヴェルク様はジッと私の胸を見つめている。

「綺麗だ……」

 傷が無くて、という意味だろうけれど、じっくり見られてそう言われるのはやはり恥ずかしい。

 胸を隠したくて伸ばした手は、ヴェルク様にすぐに捕らえられシーツに縫い留められてしまった。
 私の手首を掴んだまま、ヴェルク様は乳房を、はむッ、と咥える。
 そしてそのまま頂きへ向かって、はむはむ、と甘噛みしていく。
 噛まれながら舌もヌルリと乳房に触れているから、どうしても身体の芯がゾクゾクして。

 ぁ、なんか、気持ち、ぃ……

「……ぁ……ァ……んンッ」

 ヴェルク様のお口はてっぺんまで辿り着くと躊躇わずに乳首へ軽く歯を立てた。
 その瞬間ビクンッと身体に強い電流が流れたような衝撃が走る。
 パッとヴェルク様の口が胸から離れた。

「すまない、痛すぎたか、リリィ?」

「痛くは、ない、です、ヴェルク様」

 今のだって、今までのだって、まったく痛くない。
 ただ、なんだか身体の奥の方がムズムズするし、むしろもっと強くしてほしいくらい焦れったい感じがして。

「ヴェルク様……これではあまり、罰になっていない気がいたします」

「だが、あまり酷いことをして、リリィに嫌われても困るしな」

 シュンとしたように少し眉を下げしょんぼりした表情のヴェルク様。

 ふわぁあ、黒狼の魔王様なのに小さなワンコみたいで可愛らしい。

 力が緩められ拘束を解かれた腕を伸ばし、ヴェルク様の頭を引き寄せ胸元にギュっと抱く。

「ヴェルク様になら少しくらい嫌なことをされたって、私は何も変わりませんよ」

「罰を与えるためにリリィが嫌がることをしても、我を嫌いにならないか?」

 人を罰するためにこんな事を聞いてくる魔王様がいるなんて。
 可愛すぎて胸元に抱えたヴェルク様の頭をナデナデする。

「ヴェルク様のお好きなようになさってください」

「リリィが少しくらい嫌がっても、やめてやらんぞ」

 たとえ噛み痕がつくほど強く噛まれったって、ヴェルク様にされるのなら耐えられるから。

「大丈夫です。安心して罰を与えてください、ヴェルク様」

 自分の言ったことを後悔することになるなんて、この時の私はまだ知らない――



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