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しおりを挟む「ヴェルク様、灯りを消していただけませんか」
私の言葉に、ゆっくりと首を横に振るヴェルク様。
「傷を見落としたくないからそれはできない」
ヴェルク様の視線が、横たわる私に注がれる。
見られていると思うと、恥ずかしくていたたまれない。
顔から胸、腰から足先へゆっくりと目で辿りながら、ヴェルク様は途中で私の腕を持ち上げたり足を片方ずつ軽く持ち上げたりした。
足を持ち上げられた時は、視線から逃れたくて思わず身体を捩ってしまう。
「動いては駄目だ、リリィ。我によく見せて」
ヴェルク様に腰をグッと押さえられ、脚を少し広げられる。
恥ずかしすぎて、顔から火を噴いてしまいそう。
「背中を見せておくれ、リリィ」
股の間を見られたのはほんのわずかな時間だった、よかった。
背中を見せるためにうつ伏せになる。
でも顔が見えなくなったら沈黙が長く重く感じられるし、ヴェルク様の表情が分からなくて不安で、つい聞いてしまった。
「……ヴェルク様、怒ってますよね?」
私が勝手に出て行ったから。
そのせいで金の魔王の靴を舐めるなんて、屈辱的なことをしなければならなかったから。
「よくわかったな、リリィ。その通り、我は怒っているよ」
つ――ッと背骨をなぞられ、思わずビクリと身体が反ってしまう。
びっくりして上体を起こしたら、ガバッとヴェルク様に抱きしめられた。
「レオンが、リリィの事を助けたと言っていた。助けたという事は、リリィが危険な目にあったということだろう? なぜ我はリリィを一緒に連れて行かなかったのか、判断を誤った事が悔しい」
ギュッと私を抱きしめる力が、強くて少し痛いくらい。
私の首に顔をうずめたヴェルク様の声は、ちょっとだけ震えていた。
「他にも怒っていることありますよね、ヴェルク様?」
ヴェルク様は私の首に顔をうずめたまま「……ある」と呟いた。
「教えてください」
私を罵ってください、叱ってください。
なぜリリィのせいで、我が頭を下げなければいけないのかと。
ヴェルク様に、罰してほしいのです。
私がもう二度と、間違えないように。
「……我のシャツを脱いで、レオンのマントを羽織っているなんて」
目をパチパチと瞬かせてしまった。
ヴェルク様の怒っている内容が、予想外だったから。
私を抱きしめたままヴェルク様がググッと体重をかけてきた。
背中からゆっくりとベッドに倒れていく。
「さて、全身はざっと見たから、今度は細かいところまで確認させてもらうぞ、リリィ」
そう言うとヴェルク様は私の髪の毛をかき分け顔を近づけた。
そして少し位置を変えてまた髪をかき分け、と繰り返している。
私の頭に傷があったりしないか診ているのかもしれない。
もう確認は終わったのかと思っていたのに、まだ続きがあったのですね。
「ヴェルク様、私が勝手にお城を出たことも怒っているでしょう?」
「そういえばどうして我の城を出たんだ、リリィ?」
どうして? そうか、まだ理由も伝えてなかった。
「ノワール王国へ届くはずだった聖女のお守りがまだクルーティス城にありそうだったので、無事に届くようにしたくて」
ヴェルク様に、ぎゅうぅぅと抱きしめられる。
「我の事を想って行動してくれたのだろう? ありがとう、リリィ」
怒られるはずが、お礼を言われてしまった。
「勝手な行動をしてごめんなさい、怒ってくださいヴェルク様」
頬に手を添えられ、おでことおでこでコツン、とされた。
「悪い子だな、リリィ。我に心配をさせるなんて」
「もっとちゃんと叱ってください。私のせいでレオン様の靴を舐めることになったのでしょう?」
ヴェルク様がキョトンとした顔をした。私がなぜそんな事を言うのか分からないというように。
「リリィをすぐに連れ戻してくれると言うのだから、靴を舐めるくらい大したことではないだろう? なぜそれでリリィを叱らなければならないんだ?」
「ダメですダメです。甘すぎますヴェルク様。私をしっかりと罰してください」
ヴェルク様は再び私に覆い被さると、耳元で囁いた。
「わかった、リリィがそこまで言うのなら、痛い罰を与えよう」
『痛い罰』という言葉に、ふと金の魔王がデセーオ王太子殿下のお尻の穴にしたことが頭に浮かんでしまった。
ヴェルク様の考える、『痛い罰』っていったい――?
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