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しおりを挟む「ヴェルク様っ、ごめ、なさっ、も、すこし、ゆっくり」
黒の魔王城へ戻る鏡が見えたところで、耐えきれず声をかけた。
ヴェルク様に肩を抱かれ並んで歩いていたけれど、ヴェルク様の方が足が長いから私はどうしても速く歩くことになってしまって。
「あ……、すまなかった」
頭の上から慌てたような声が降ってきたかと思ったら、ふわりと身体が浮いた。
そのままヴェルク様に横抱きにされ、鏡の中へと入っていく。
「ファロス、リリィは我と一緒だとサティに伝えてくれ。我はリリィと話がある。我がいいというまで誰も部屋に近づけるな」
リリィと話がある、の言葉にビクリとした。きっと怒られる。出て行けと言われるかもしれない。
私の勝手な行動のせいで、金の魔王に頭を下げないといけなくなったんだもの。
でもたとえ出て行くことになっても、その前にちゃんと謝りたい。もうすでにヴェルク様が、私に呆れて嫌になっていたとしても。
サティ様にも、きっとものすごく心配をかけてしまった。
何も言わずに出て行ってしまったのだから。
あとできちんと、お詫びをしよう。
ヴェルク様の部屋に入ると、意外なほど丁寧にベッドへゆっくりと降ろされた。
横になる私の頭を、ベッドに腰かけたヴェルク様がそっと撫でる。
その手つきは優しいけれど、ヴェルク様の表情はとても険しい。
――怒って、いる。
「リリィ」
怒られると分かっていても、ビクッと身体が竦んでしまう。
ヴェルク様は驚いたように目を見開くと、すぐに眉を寄せた。
「怯えているのか? この城を出て、何か怖い思いをしたのか?」
え……?
「それともどこか痛いところでもあるのか? 教えてくれ、リリィ」
ヴェルク様の方こそ、どこかが痛くて、つらそうな表情をしている。
「どこも痛くありません。それに、怖い思いも、特に」
安心したようにヴェルク様がホッと息を吐いた。
そして私の頬にそっと触れる。
「……我のわがままを、聞いてほしい」
「わがまま、ですか?」
コクリ、とヴェルク様が頷いた。
「リリィの身体が本当に大丈夫か、自分の目で確認して安心したい」
身体が大丈夫か、目で確認?
「どういう事ですか、ヴェルク様?」
「リリィは裸になって、ただ横になっているだけでよい」
「……っ!?」
それって、裸の私の身体をヴェルク様がじっくりと観察するという事ですか!?
もうすでに何度も裸を見られているとはいえ、改めて観察されるとなると恥ずかしいのですが……。
「初めて会った日に、リリィの身体の怪我を確認したように。まぁ、あの時のリリィは気を失っていたが」
あ……。
あの時、ヴェルク様は私の怪我を治してくれた。
ヴェルク様は私の裸を見ても異常がないか確認をするだけ、そこに下心なんてない。
「ダメか、リリィ?」
首を横に振る。
「ヴェルク様なら、大丈夫です」
金の魔王がかけてくれたマントを取ろうと伸ばした手を、ヴェルク様に制された。
ヴェルク様の手でマントを外される。
バサリと少し乱暴にマントを投げると、ヴェルク様は私の胸のサラシを解き、続いてズボンを優しく奪っていく。
そして私はヴェルク様の前で、一糸纏わぬ姿となってベッドに横たわった。
これからじっくりと見られるために。
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