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46 プルプルうさぎのラパンのお話(続きはありません一話で完結予定)

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「レレレレレオン様お茶をどうぞ」


 ヴェルク様達が帰ってしまわれて、急に静かになりました。
 リリィ様からいただいたクッキーを添えて、玉座のすぐ横に用意したサイドテーブルの上に紅茶を置きます。

 レオン様が大好きな、砂糖たっぷりのミルクティーです。
 クッキーも甘いのですが、レオン様は甘いものが大好きなので差し支えないと思います。
 それに今は、甘いものを欲していると思いますから。


「ラパン」


 声をかけられたので顔を向けると、レオン様は玉座のすぐそばに立つアタシの事をジッと見つめていました。
 ああ、今日は少し寂しそうですね。
 今のレオン様の瞳は、600年ほど前にゾマ様とサティ様がご結婚された頃の瞳とよく似ています。

 あの頃も今のように少し寂し気な眼をされていて。
 レオン様は、ゾマ様とヴェルク様のことが兄弟のように大好きですものね。
 残念なことに愛情表現が苦手なため、レオン様の好意はおふたりに上手く伝わっていない気もしますが。


「ラパン」


 手をきゅっと握られたので、引き寄せられるままレオン様の膝の上に座ります。
 膝の上に座ると、ぎゅうぅぅ、と抱き締められました。

 たぶん今日は、甘えたいのでしょう。
 アタシの肩にモフっと顔をうずめたレオン様の頭を、そっと撫でます。
 アタシはそばにいますよ、と伝わるように。


「……ラパン、今夜は今の姿と本当の姿、どちらがいい? 選ばせてやろう」

「ほほほほ本当の姿がいいです」


 うさぎの姿でライオンに襲われるのも好きですが、今日のレオン様はきっと人肌が恋しいと思うから。

 レオン様によって封じられていたアタシの魔力が、解放されました。
 これで本来の姿に、戻ることができます。

 ただ、うさぎから人の姿に戻ると、全裸なのでいつも恥ずかしいです。
 胸の膨らみを隠すために、身体を捩ってレオン様の胸元にしがみつきます。
 レオン様とふたりきりとはいえ、明るいところで見られるのはやっぱり恥ずかしいですから。

 リリィ様に自分の服を着させたヴェルク様に対して、独占欲の塊だとレオン様はおっしゃっていたけれど、アタシの本来の姿を他の人の目に触れさせないレオン様はどうなのでしょうか?
 独占したいと思ってくれていると、自惚れてもいいのでしょうか。

 レオン様がアタシの顎に指を添え、くぃっと顔を上に向かせました。


「ふぅん……こうして見ると、ラパンはサティとマミィのちょうど間くらいの年かもしれないな」


 今レオン様の頭に浮かんでいるマミィは、おそらくリリィ様のことですね。


 アタシは自分の年齢がわかりません。

 小さな頃、と言っても魔物だから数百年は生きていたと思うけれど、アタシはクルーティス王国とセルヴィル王国の国境山脈でレオン様とそのご両親に拾われました。
 だいぶ弱っていたようで、少女の姿からうさぎの姿に変わり、しばらくするとまた少女の姿に戻る、を繰り返していたらしいです。

 レオン様のご両親は最初、アタシがどこか異世界から転生してきたヴェルク様の運命の相手ではないかと考えたと聞いています。
 でもセルヴィル王国の長老亀トルタル様によると、運命の女性が転生してくるにはまだ全然時が満ちていないと言われたとか。

 その後も、人型の魔族は稀少だから魔界の方なら誰か知り合いがいるかもしれないと色々と調べてくれたようですが、結局身寄りは見つからなかったそうです。

 レオン様がアタシに名を与え、いつも一緒にいてくれました。
 アタシはヴェルク様の運命の相手ではありませんでしたが、それでよかったと思います。
 もしかしたらレオン様の運命の相手になれるかもしれないと、希望を持つことができますから。
 
 レオン様とは寝る時も一緒だったので、大人になると少しずつ少しずつ、気付いたらいつの間にかそういう関係になっていました。

 初めての時は人の姿で、直接触れあう肌がとても温かかったのを覚えています。
 うさぎの毛で覆われている時よりも、ずっと。

 先日レオン様のお母様にそっくりなリリィ様が現れて、好きだと貴方がおっしゃった時にはもうこれでアタシはお役御免かなと思いました。
 だって、母親にはかなわないですもの。

 だけどすぐにヴェルク様がいらして。アタシはちょっとホッとしてしまいました。
 でもレオン様は寂しかったですよね、ゾマ様とサティ様が結婚した時のように。

 リリィ様の胸元に吸いつくような、そんな意地悪をヴェルク様にしてしまうなんて。
 まぁ、そんなかまってちゃんなレオン様も可愛らしい、と思ってしまうアタシもアタシですが。

 今日だって順調にレオン様のかまってちゃんパワーが発動。
 まさかヴェルク様が本当に靴へ口づけするなんて、思っていなかったでしょう?
 それだけリリィ様に対する愛情が深いと知って、寂しいような嬉しいような複雑な想いだったでしょうね。

 でもヴェルク様が無理矢理クルーティス城へ行くことがなくて、あの場にいたのがレオン様で本当によかったです 。
 ヴェルク様が大切にしているリリィ様があんな目にあっていたら、ヴェルク様は世界を滅亡させてしまうから。
 それにあのようなお仕置きはレオン様にしかできないですもの。ヴェルク様にもリリィ様にも絶対できない。 


 ……アタシにも、したかったりします??


 レオン様のシャツをキュッと握り 、愛しい人の顔を見つめた。


「あああああの男性にしたように、アアアアアタシにもうしろの穴に、びびびび瓶を入れたいですか?」

「阿呆、俺様は女にそんな事をする趣味はない」

「レレレレレオン様は、いいいい意地悪ですから」


 レオン様はフフン、と鼻で笑った。

 ああ、今夜も焦らしに焦らして、アタシに恥ずかしいおねだりをさせるのでしょう。
 いつもベッドで、とっても意地悪なことばかり言うレオン様。

 それなのにアタシに触れる手つきは、いつだってとんでもなく優しくて。

 本当は貴方が優しい人だと知っていますよ、と伝わるようにレオン様の頬にそっと触れる。

 ふ、とレオン様が小さく笑った。

 表に優しさを出すことのできない、不器用で可愛い人。
 他の人にはわからなくても、アタシだけが知っていればいい。

 アタシの髪を飽きることなくゆっくりと梳き続けるレオン様の手が心地よくて、目を瞑って願う。

 これからもずっと、貴方のそばにいさせてください。




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