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しおりを挟むデセーオ王太子殿下は、城に出入りする商人を通じてノワール王国の商人へ聖女の守りを高値で売りつけ、不当な利益を得ていたらしい。
最初は話を逸らそうとしていた殿下だったけれど、金の魔王がベッドの上の瓶を指差して「もう一回、挿す?」というと首を横にぶんぶん振りながら白状してくれた。
外交事業として実際にノワール王国へ安価で提供した聖女のお守りはほんの僅かで、殿下が不当な取引で売ったお守りもまだ少なかったため、私が作った聖女のお守りはまだ大量に隠してあるという。
殿下は残った聖女のお守りを、すべてノワール王国へ譲ると約束してくれた。
でも外交事業としての提供は一区切りついてしまったし、また一からノワール王国と聖女のお守り提供の橋渡しをするとなると、きっと陛下のお力が必要となるだろう。
それに殿下との口約束だけではなく、陛下にも話を通しておいた方が今後を考えると心強い。
「レオン様……。今度陛下と話し合われる時に、デセーオ殿下が持つ聖女のお守りが無事にノワール王国へ届くよう執り成していただけませんか?」
「嫌だよ、面倒くさいもん」
「レレレレレオン様こちらを、リリリリリリィ様からいただいております」
いつからいたのかプルプルうさぎのラパンさんがクッキーの入った袋を金の魔王に渡している。
ラパンさんの姿を見た殿下は「ま、魔物!?」と驚き気絶してベッドに倒れてしまった。
怖かったのかしら? 魔物とはいえ、うさぎの着ぐるみみたいでラパンさんはこんなに可愛いけれど。
さっきから魔王が目の前にいるし、そもそも魔物よりも魔王よりも、本当は人間が一番恐ろしい生き物なのに。
「はぁ、仕方ないね、わかったよ。ちょうど近いうちに王にも会おうと思っていたところだし、いいよ、なんとかするよ」
「陛下とですか?」
「ああ、今クルーティス王国に張ってある結界がとにかく緩すぎる。それを警告しておこうと思って」
金の魔王は袋からクッキーをひとつ取り出してポリポリ食べると「お、美味いな」と呟いた。
「さ、帰ろうマミィ。用も済んだみたいだし、早く帰った方がいい」
「ごめんなさい、もう一つお願いがあります。レオン様ならきっと洗浄魔法を使えますよね? 殿下の身体とベッドを綺麗にしてあげてほしいのです」
私は洗浄魔法を使えない。知識では知っているけれど。
「そんな事しなくていいだろ、マミィ。俺様は早く帰りたい。帰りたいったら帰りたい」
「お願いします。今度はもっとたくさんクッキーを作ってきますから」
はぁ、と大きくため息をつくと、金の魔王は殿下の気絶するベッドの方へ向かって、フーっと息を吐いた。
ベッドの上に、キラキラと輝く光の粒が現れる。
その光はどんどん広がっていって、デセーオ王太子殿下の身体もすっかり覆ってしまった。
光の粒が少しずつ消えていくと、先ほどの光景が夢だったかのように綺麗になったシーツに横たわる殿下の姿。
ラパンさんに協力してもらって、殿下に下着とズボンを穿かせる。
でも殿下が起きた時にすべてが夢だったと思われては大変なので、机の上の紙とペンを拝借して『聖女のお守りの件、よろしくお願いします』と手紙を書いた。
プルプルうさぎのラパンさんが手紙のすぐそばに置いてくれたのは、空になったローションの瓶。なるほど、これならきっと夢だったとは思わない。
落ち着いたところで、今更ながらふと頭に疑問が浮かぶ。
「そういえばレオン様は、どうしてここに……?」
私が金の魔王城を出てから姿を現すまで、おそらく10分くらいしか経っていなかったのでは?
どうしてこんなに早く来てくれたのだろう?
金の魔王が、私の左手を指差した。
指差した先にあるのは、ヴェルク様がつけてくれた薬指の指輪。
「ヴェルクが俺様の所に来た。まさかこんなに早く来るなんて思わなかったよ。予め指輪に魔法をかけて、マミィの動きを常に感じとっていたんだろうな」
ヴェルク様が……?
大切なノワール王国を守るために、出かけていたはずなのに。
もしかして、私を心配してわざわざ金の魔王城に来てくれたのだろうか?
こんなにも、すぐに。
金の魔王は自分がつけていたマントを外し、上半身サラシだけの姿だった私にふわりとかけてくれた。
上質な赤い生地に、金の縁がついたマント。
クルーティス王が正装時に纏うマントとよく似ている。
私が着ていたヴェルク様のシャツは、いつの間にかラパンさんが持っていてくれた。
「しかも、マミィを連れ戻してほしければ俺様に跪き靴を舐めろって言ったら、全く躊躇わずにしやがった。ヴェルクの嫌がる顔が見たかったのに」
「ヴェヴェヴェヴェヴェルク様が片膝をつきレオン様の足を手にとって口付ける姿は、ほほほほ本当に美しいワンシーンでございました」
え……?
少しの間呼吸をするのを忘れてしまった。
ヴェルク様が、金の魔王に跪き……?
私、なんて事を……。
ヴェルク様に、そんなマネをさせてしまうなんて。
私が、勝手な行動をしたせいで。
ヴェルク様は、私の事を心配してくれていた。
サティ様のそばを離れないように、と何度も何度も言われていたのに。
金の魔王にヴェルク様は跪かないだろうなんて、どうして勝手に考えてしまったのだろう。
ヴェルク様は魔王なのに優しすぎると、知っていたのに。
私を連れ戻すために頭まで下げてくださったなんてヴェルク様に申し訳なくて、ポロポロポロポロ涙が零れ落ちるのを止められなかった。
金の魔王が、眉を寄せ少し困ったように笑う。
「俺様が見たいのはマミィが泣くところじゃなくて、ヴェルクが泣くところなんだけどな」
そう言って手を伸ばし、シャツの袖で私の涙を拭った。
「さっさと帰ろう。ヴェルクが待ってる」
ヴェルク様の顔が頭に浮かび、拭いてもらったのにまた目が潤んできてしまう。
金の魔王に優しく頭をポンポンとされ、頷くことしかできなかった。
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