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しおりを挟む「今日はヴェルクと一緒じゃないんだね、マミィ?」
質素な黒の魔王城と違い、豪奢に飾り付けられた王の間。
その煌びやかな雰囲気は、クルーティス城とよく似ている。
玉座に座る大人版金の魔王レオンは、足を組み肘掛けに肘をついた方の手で頬杖をついていた。
こうしてじっくり眺めてみると、金の魔王の容貌は金色の短髪が美しくどこか肉食獣を感じさせ、人を魅了する精悍さを持っている。
美形という形容詞が相応しいのはヴェルク様と同じなのに、纏っている雰囲気はヴェルク様とかなり違うから不思議。
ここまで案内してくれたプルプルうさぎのラパンさんにお土産のクッキーを渡し、玉座から階段を挟みさらに少し離れたところで跪いて、神に祈るように両手を胸の前で握り金の魔王を見上げる。
「今日はレオン様にお願いがあって参りました。私をクルーティス城へ連れていっていただきたいのです。どうか、どうかお願いいたします」
金の魔王の眉が片方ピクリと動いた。
「それならまた今度ヴェルクと一緒においで。マミィがここにいること、ヴェルクは知らないんだろう?」
それはできない。
ヴェルク様には内緒で行きたいのだから。
運命の相手という理由で、ヴェルク様は私に対し愛情を込めて大切にしてくれている。
私を魔の森に捨てたクルーティス王国へ行きたいなんて知られたら、心配されるし反対されてしまうと思う。
「マミィにそんな格好させて、ヴェルクがそこまで独占欲の塊だったとは知らなかったよ。マミィがここに来た後でいなくなったと知ったら、それこそヴェルクが暴れて俺様の城を壊してまで捜しだそうとするだろう」
独占欲?
キョトンとして自分の格好を確認する。
あ、いえいえ、確かにぶかぶかなヴェルク様の服を借りていますが、これは単に服が無かっただけだと思います。
昨日の夜廊下でファロスの声が聞こえ、ヴェルク様はサラシのように長くて黒い布を私の胸にクルクルと巻いた後、ご自分の白いシャツを脱いで私に着させてくれた。
ヴェルク様はぶかぶかなシャツを着た私を眺め、ひとり納得するような表情を浮かべていて。
悪くない……いや、むしろ良いな……と呟いたあと、私のことをギュッと抱きしめたヴェルク様。
着させてもらった服はぶかぶかだったけれど、良いって言ってくれたヴェルク様の様子からすると見た目はそれほど変ではないようで、私もホッと一安心。
ファロスが大声を上げながらドンドンとドアを叩くと、ヴェルク様は先ほどベッドの下に落としたズボンを私に穿かせシャツの袖とズボンの裾をクルクルと捲って長さを調節してくれた。
「俺様はヴェルクが悔しがったり悲しんだりして苦しむところは見たいけど、怒っているところは別に見たくないんだ。だからマミィ、今日は帰りな」
「いえ、すぐに行かないと間に合わないかもしれません」
ノワール王国ではすでに暴動が起きている。
しかもその原因がクルーティス王国の王族の者に関係しているかもしれない。場合によっては国家間の大問題になる。
詳しい人名は省き、現在の差し迫った状況を金の魔王に伝えた。
「クルーティス王国とノワール王国を守りたいのです。そのためには早くクルーティス城へ行かないと」
金の魔王は、はぁ、とため息をついて首を横に振った。
「そうか分かった。そこまで言うのなら行かせてあげる。でもね、ヴェルクがここに来たら、マミィがクルーティス城に行ったと伝えるよ。俺様の所にいると誤解されて城を壊されるのは御免だからね」
私がクルーティス城に行ったあとでなら、ヴェルク様に伝えても差し支えないと思う。ノワール王国からもまだしばらく戻らないだろうし。
コクン、と頷いた。
「伝えたうえで、ヴェルクに選ばせる。ヴェルクが俺様の結界を無理矢理破ってクルーティス城へ行こうとするなら、マミィが守りたいと言っているクルーティス王国を俺様が丸ごと燃やす」
燃やす!? クルーティス王国を!?
魔王なのに心優しいヴェルク様は、きっとそんなこと望まない。
国を丸ごと燃やすなんて言われたら、無理矢理結界を破るような真似はなさらないでしょう。
「もしすぐにマミィを連れ戻してほしいなら、俺様に跪き靴を舐めて懇願する。そのどちらかの選択肢を」
昨日のヴェルク様の金の魔王に対する態度からすると、跪くことはきっとなさらないと思う。
どちらの選択肢も選ばなかったら、果たしてどうするつもりなのだろう。
「ま、ヴェルクはどちらも選べないだろうな。だからマミィ、早めに帰ってきてあげて」
口の端を片方上げて金の魔王が笑う。
その顔を見たら、何故かわからないけれど、金の魔王ってヴェルク様のことが好きなのかなって思った。
弟みたいに。可愛いけどついつい苛めちゃう感じの、歪んだ愛情表現がそこにある気がする。
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