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しおりを挟むパリンッ!
音のした方に顔を向けると、テーブルの上の割れたお皿が目に入った。
何か、当たったの、かな?
「すぐにリリィから離れろ。それとも貴様が喰われたいのか?」
ヴェルク様、少し離れているとはいえ威圧感が凄いですっっ!
この子小さいんだから、泣いちゃいますよ。
「ふぅん、面白ッ」
膝の上に座る男の子の楽しそうな声。
え、ヴェルク様の声が怖くないの? とびっくりして目を向けた、ら、
私の膝の上で、男の子が光の粒子に包まれていた。
全身が、キラキラと煌めいている。
え? え?
戸惑っていたら身体がふわりと浮いた。
突然の浮遊感に思わず目を瞑る。
「ひぁあ!?」
目を瞑ったと思ったら胸元をジュッと何かに吸いつかれ、驚いてすぐに目を開けた。
あ、あれ?
さっきまで私は椅子に座っていて膝の上に男の子がいたはずなのに。
今は私が見知らぬ金髪男性の膝の上に、座ってる!?
しかもこの男性、私の胸元に顔をうずめ、鎖骨のすぐ下あたりを吸っているのですが!!??
それにこの人、は、裸!!!???
あ、よかった。下半身には、私の捲いてた黒のストールが掛かってる。
ピシッ、ピシッ、ピシッ、ピシッッ!
「ひぃッ!?」
何の音かと思って目線を移した先の窓ガラス全てに、大きなヒビが入っていた。
「ギョギョギョーッッ!! ヴェルク様ッ、いけませんぞ!!」
ヴェルク様の隣で、翼をバタバタさせているファロス。
「ひぅん!?」
え、舐め、て、る!?
見知らぬ金髪男性は、吸いついていたところから口を離すと、そこに長い舌の先をレロ……と這わせた。
横目でヴェルク様のいる方へ視線を向けながら。
バリン、バリン、バリン、バリン、
バリバリバリバリバリーンッッッ!!!
「ひぇええっ!?」
窓ガラスが、一斉に割れた。しかも勢いよく。
意味を成さなくなった窓ガラスに目をやり、さらなる異変に気づく。
空が、黒くなってきている??
遠くの空がインクを垂らしたようにシミになっていて、しかもじわじわと滲むようにその闇は広がっているようで。
それだけじゃない、地面にも、黒い煙のようなモヤモヤがうっすらと見える。
「はははッ! 闇の殲滅が見られるなんてラッキーだな。マミィ、もう少ししたら恐怖に狂う世界の様子を見物に行こう」
この恐ろしい光景に似つかわしくない、なんとも楽しそうな声。
胸元から顔を上げ、私に向けて悪戯っぽい笑顔を向けるこの金髪男性は、ヴェルク様とタイプは違うけれどかなりの美丈夫だった。
「レレレレレレレレレオン様!!」
すぐそばに立つプルプルうさぎのラパンさんが、今まで以上にプルプルオロオロしている。
「落ち着けラパン。滅びるのは弱い者だけだ。俺様の城は残る」
マミィ? レオン様??
この男性、ヴェルク様くらいの年齢に見えるけど、もしかしてさっきの野菜嫌いな男の子??
もしかしてもしかしたら、金の魔王のレオン??
金の魔王かもしれないツンツン金髪ヘアの男性は、大きな手を私の顎と後頭部に優しく添え、ゆっくりと顔の向きを変えさせた。
ヴェルク様の立っている方と、私の顔がまっすぐ向かい合わせになるように。
ハッと息を呑む。
ヴェルク様の目が何も見ておらず、燃えるように赤くなっていたから。
こんな状況にもかかわらず、ちゅ、と頬で可愛く響くリップ音。
「ショーが楽しみだね、マミィ」
耳元で金の魔王が囁いた。
ズンッッッ!!!!!
地の底が怒りで震えたかのように、一瞬生じた強烈な揺れ。
ヴェルク様、怒っているの?
思い出すのは闇を操る魔王の話……黒の魔王の怒りに触れたら世界は闇に覆われて滅亡すると言われている伝説。
ダメ、伝説が本当になったら、きっとヴェルク様の心まで滅びてしまう。
「ヴェルク様!!」
大きな声で叫んだけれど、今のヴェルク様の耳には届いていないようだった。
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