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しおりを挟む「リリィが、よいのであれば……」
ようやく顔を上げてこちらを向いてくれたヴェルク様。
瞳が熱っぽく僅かに潤んでいる。
お顔も耳も真っ赤で、先ほどまでアエルのおねしょで濡れた服のままだったし、実際に熱もあるのかもしれない。
早く体力を回復させて差し上げたい。
『私は構いません』という意思を伝えるため、ヴェルク様の目を見つめてコクリと頷いた。
するとそっと肩を抱き寄せられ、ヴェルク様の手が私の太腿にのったと思ったらスルリと内側に滑っていく。
!? ヴェルク様、いったい何を――?
ヴェルク様の突然の行動に一瞬訳がわからず驚いたけれど、すぐに自分のやるべき事を思い出しヴェルク様の肩を摑んで押した。
「ヴェルク様、湯に肩まで浸かって、向こうを向いていてください」
「え? リリィ? なぜ……?」
「なぜって、まだ準備ができていないからです」
ヴェルク様が、まるで豆鉄砲を食ったような表情をした。
そんな驚いた表情でも、秀麗さが損なわれないヴェルク様って凄い。
「リリィ、準備とは?」
「擦れば出てくると思いますので、体液が出るまで向こうを向いてお待ちください」
前世も含めてお風呂で洗う以外に触る機会は無かったけれど、秘所を指で弄れば体液が出てくるということくらい知っている。
「擦れば出てくるなんて、我が子どもの頃にいたランプの魔人じゃあるまいし」
「ヴェルク様、向こうを向いていただけないのなら、私はあそこの木の陰で準備をしてまいります」
立ち上がり風呂から出て行こうとしたら、ヴェルク様に手をぎゅっと握られた。
「わかった、向こうを向くから行くな。我から離れてはダメだ」
湯に再び膝下を入れ私が元いた場所に座ると、ヴェルク様は乳白色の湯に肩まで浸かり、私と反対の方を向く。
「こちらを向いては、いけませんよ」
わかった、というヴェルク様の返事を聞いて、自分の秘所に指を伸ばした。
洗う目的以外で初めて触れる場所に指を添え、サワサワと擦ってみる。
……少し、痛い。
試しに力をなるべく弱めて触ってみた。
痛くはないけれど、特に身体から体液が出てくる様子はない。
「リリィ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですっ。もう少しお待ちください」
今度は少し力を入れて擦ってみる。
……やっぱり、痛い。
しかも体液が出るどころか、触っているところがカラカラに乾いてしまっている気がする。
……濡れないなら、濡らしてみる?
乳白色の湯にちゃぷん、と指を入れ、濡れた指で先ほど擦った場所にもう一度指を近づけた。
「痛ッ!」
温泉が沁みたのかもしれない。
触ったところがヒリヒリして、痛い……。
痛くて股のところを両手で押さえていたら、その手に大きな手が重ねられた。
「ここが痛いのか、リリィ?」
「ヴェルク様!? 向こうを向いていてくださいとお願いしていたはずですが!?」
「リリィの口から痛いと聞こえては、じっと待っているわけにもいくまい」
ぽすり、とヴェルク様の頬が私の太腿にのせられる。
まるで膝枕のような状況に、太腿から脳までビリリと電流のような衝撃が走った。
ん……? なんか、違和感??
股のところを押さえた指を少し動かしてみる。
あれ? ちょっとだけ、濡れて、る?
「ヴェルク様、初めてで少し痛くなるハプニングはありましたが、もうそろそろ準備できそうです」
「初めてで少し痛く? ああ、そういえば」
何かを思い出したようにヴェルク様が顔を上げた。
太腿の温もりが消えてしまい、なんだか寂しい。
手のひらを上に向けて、私の前に差しだしたヴェルク様。
キラキラとヴェルク様の手のひらの上が煌めいたかと思うと、少しずつ光の粒が消えていく。
光が消えたあとのヴェルク様の手のひらには、小さな木箱がのっていた。
まるで手品のよう。今のって、転移魔法の一種でしょうか。
「前にファロスが言っていた。初めてで痛いと言われた時にこれを使うといいと」
『ギョーギョッギョッギョッギョッッ!! 初めてで痛いと言われたら、これを使うのですぞヴェルク様!!』と羽をバタバタさせているファロスの姿が頭に浮かぶ。
「箱の中に何が入っているのですか、ヴェルク様?」
「我も開けたことはないから知らぬ。ファロスの書いた本の付録らしいのだが」
ファロスの書いた本?
『初めてでも大丈夫! 雌を閨で野獣にするための100のテクニック♡』略して『はじやじゅ♡』とかファロスが言ってた本のこと??
「確か開発段階でゾマとサティが協力したと言っていたな」
サティ様……ヴェルク様の妹君でアエルとアリアのお母様。
彼女が開発にたずさわったのなら、信頼できる物ですよね。
痛い時に使う……痛み止めとか、薬の類かしら?
「ヴェルク様、箱を開けてみてもよろしいですか?」
「ああ、かまわない」
ヴェルク様の手から木箱を受け取り、カパ、と蓋を取る。
その途端、箱からにゅるぅ~ん、と薄紫色をしたゼリー状の物が零れ、私の太腿にポニュンと落ちた。
「スライム、か?」
虚を突かれたようなヴェルク様の声。
私の頭の中にも疑問符が浮かぶ。
これがなぜ、付録だったのかしら。
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