【R18】婚約破棄された転生聖女は魔の森に捨てられる~ヤンデレ黒の魔王が溺愛してくるけどどうしたらいいですかッ!?~

弓はあと

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 暗い廊下をゆっくりと進んでいくと、前へ伸ばした手に壁が触れる。

 行き止まり? 左右に首を向けると左へと続く廊下の奥にあるドアの下から、僅かに光が漏れていた。

 声もそちらの方から聞こえてくる気がする。

 足音を忍ばせてゆっくりと近づき、ドアの前で、耳を澄ます。


 赤ちゃんと、子ども? それに、女の人? の、泣き声??


 そーっとドアノブを回し、薄く開けたドアから、部屋の中を覗き見る。


 ベッドの上で座り込む、長い髪の人物。
 一見ヴェルク様かと思ってしまうような髪型。

 ただ体格はヴェルク様と違う。背とか私と同じくらい、かな?


 長い髪の人の隣にも誰かいる……小さな子……ん……もしかして、アエル?


 薄暗くてぼんやりとしか見えないけれど、泣いているの、たぶんアエルだ。
 長い髪の人は、赤ちゃんを抱っこしているようにも見える。


「どうして……ヒクッ、どうして……ゥクッ」


 女性、かな? 小さくしゃくり上げながら呟いているのが辛うじて聞こえた。
 赤ちゃんと、アエルらしき子の泣き声は、だいぶ大きい。


 そーっとドアを閉め、改めてドアをコンコンコンとノックする。

 返事は、ない。

 無いけど放っておくわけにもいかず、「失礼しまぁす」と言いながらおずおずとドアを開けた。


「あ、あのう、大丈夫、ですか?」

「誰ッ?」


 ばッと顔を上げた髪の長い人と目が合った。


 うわ、綺麗な人。


 女性版ヴェルク様のような雰囲気の、麗しいお顔。

 『城内に女も雌もいない』ってヴェルク様おっしゃっていたのに、こんなに素敵な女性がいらっしゃるじゃないですか。

 なんだか胸のあたりが、もやもやチクチクしてくる。

 しかもこの女性が抱いている赤ちゃんとアエルって、もしかしてヴェルク様のお子では。


 もう、もう、もうッ。


 なぜか、もう、しか言葉が出てこない。


「リ、リ、おね、ぢゃん」


 しゃくり上げて泣いているアエルに呼ばれて、ハッとした。

 今は自分のよく分からない感情は脇に置いといて、泣いている三人をどうにかしないと。

 入室を許可されていないのに失礼かもしれないけれど。

 部屋へ入りベッドへと進み、アエルを抱き上げ頭を撫でる。
 するとアエルが甘えるように首にしがみついてきた。


「アエルの、お母様ですか?」


 私の問いかけには答えずに、私とアエルを見つめる女性。


「その、指輪は……?」


 指輪? ああ、ヴェルク様がつけてくれた指輪のことかな?


「ヴェルクから、もらったの?」


 正直に、コクリと頷く。

 ヴェルク様のこと、呼び捨てなさるのですね。やはりご夫婦だったりするのでしょうか。


「そう……」

「どうして、と言いながら泣いていましたね。何があったのですか?」


 聞いてから、この質問はしない方が良かったのかな、と後悔した。

 どうして側室を娶ろうとしているの、とか
 どうして浮気したの、とか思われていたらどうしよう。

 私とヴェルク様、そういう関係ではありませんよ、と心の中で伝える。

 優しくしてくれるのも、愛すると言ってくれたのも、たまたま私が転生者だったから。
 私自身を愛してくれている、と勘違いして自惚れてしまうところでした。


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