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しおりを挟むむ、娘の穴にぶっ挿す、なんて子どもの前で言わないでくださいよ!!
おそらくファロスという名前で、見た目がハシビロコウの魔物を咎めるように睨みつける。
ファロスの隣に立つ黒の魔王に目をやると、自分の鼓動を聞かせるような感じで包み込むようにアエルを抱っこして、小さな耳を塞いでいた。
!! 魔王、が……小さな子どもに聞かせたくないと気にしてくれている……!?
魔物の最高支配者である魔王は、恐怖の象徴で残虐な存在じゃないの!?
よく知ろうともしないで、暴虐非道な王だと勝手に思い込んでいたってこと!?
……もしかして魔王、優しかったりするのでしょうか。
魔王の姿を実際に見たことがあるのは、少なくともクルーティス王国では国王陛下だけ。
魔物を金の魔王城の敷地及び魔の森から出さないために、金の魔王と話し合い妥協点を探る交渉を行ってくださる。
でも国王陛下も顔をご存知なのは金の魔王レオンだけで、ノワール王国を支配している黒の魔王と、セルヴィル王国を支配下におく銀の魔王とは会ったことがないのでは。
他の2国もそれぞれの国の王が、それぞれの魔王と何かしらの交渉を行っているはず。
魔物側に提供する食糧の量を決めるのは、特に重要課題。
少なすぎて魔物が暴動を起こしてもいけないし、多すぎて人間が飢えてもいけない。
国王陛下の交渉力と、時々迷い込んでくる魔物を防ぐための結界で、クルーティス王国は魔物から守られている。
「ギョーギョッギョッギョッギョッッ! ヴェルク様! 吾輩の著書でもあり貴方様のような童貞のバイブル『初めてでも大丈夫! 雌を閨で野獣にするための100のテクニック♡』略して『はじやじゅ♡』のとおりにすれば大丈夫ですぞ!」
どッ、童……
な、なるほど……そうなんですね、魔王さん
どうやら童貞らしい黒の魔王は、やれやれ、といった感じで小さくため息をついた。
「ファロス、アエルを背中に乗せて飛んで遊んであげて。我がよいと言うまで、戻ってきてはいけないよ」
魔王の言葉にファロスは目をまん丸くして、翼をぶんぶん羽ばたかせながら叫ぶ。
こちらの世界のハシビロコウは、よく喋ってよく動くらしい。
「ギョギョーッッ! アエル坊ちゃん、今日は吾輩の羽を抜かないでくださいよ! この前108本抜かれたところ、まだ生えてきてないんですぞ!」
キャッキャッとはしゃぐアエルを背中に乗せると、ファロスは真っ暗な夜空に向かって羽ばたいていった。
ビクッと身体が揺れる。
魔王の足が、こちらへと向かってきたから。
思わず現実逃避して、あぁ、黒の魔王は眉目秀麗なんだなー、とか、ツノは生えてないんだなー、なんて考えてしまった。
近付いてくるにつれ、その美しさを見つめているのが恥ずかしくなってきて徐々に視線を下げていく。
魔王の足が、私のすぐ前で、止まった。
顔を上げてはいけないような気がして、魔王の黒いブーツの先を見つめる。
アエルが空を飛んでいる間に、ぶっ挿すつもりなのかな。
何が書いてあるのか知らないけど、『はじやじゅ♡』に載っているような事をしようと思っているのでしょうか。
こめかみからタラリと冷たい汗が落ちた。
「其方の、名は?」
頭の上から声が降ってくる。
教えても、大丈夫だろうか。
魔王に名前を知られたら呪われるとか、そういうこと、あったりする?
黙り込んでいると、質問が変わった。
「なぜ、アエルの事を助けた」
どうしてそんな事を聞くんだろう?
顔を上げて、魔王の顔を見る。
「子どもを助けるのに、理由が必要ですか?」
魔王はほんの少しだけ目を見開いたあと、フッと穏やかな目になって笑った。
先ほども見せた慈しむような眼差し。なんか、この表情されると、胸の奥の方がくすぐったい。
私と目線を合わせるためか、目の前で魔王が片膝をついて座った。
元々の背が高いから、それでも少し見上げる感じにはなるけれど。
私の顔を覗き込むように、ちょこっとだけ首を傾けている。
「我の名はヴェルク。其方の名を教えてもらってもよいだろうか」
首を傾げたまま、魔王が柔らかく微笑む。
こ、この人、魔王なのに天使のような雰囲気で。
なんか、可愛い。
見た目は大人っぽいし、口を閉じてまっすぐ立っていれば冷酷な印象だし、絶対に年上だと思う、けど。
なんでだろう、可愛らしい人。いや、可愛らしい魔王。
「……リリィ」
「リリィ、か。良い名だ」
魔王がくしゃりと顔をほころばせて笑う。
その顔を見たら、心臓がきゅぅとなって苦しくなった。
名前を知られたから、やっぱり呪われてしまったのかしら。
「アエルのこと、助かった。感謝している」
今度は胸がほわりと温かくなる。
どうやら魔王は、胸のあたりをじわりじわりと攻撃してくるらしい、油断しないように気をつけないと。
「リリィがいたから、アエルも落ち着いていたのだろう」
アエルは小さな子どもですもの、迷子になったら泣いていないかとか怪我していないかとか心配になりますよね、お力になれてよかったです。
「もしアエルの魔力が暴走していたら、森が丸ごと吹っ飛んでいたところだ」
はぅ、そっちの心配ですか!
「本当にありがとう、リリィ」
フッと細めた目に見つめられて、心臓に矢を刺されたような衝撃が走った。油断していたつもりは無いのに。
まっすぐな視線だけで人を射抜くなんて、魔王の攻撃力は凄すぎる。
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