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 ――大丈夫かな、怪我してないといいけど



 ドレスの裾を抱えて走りながら、竜巻を受けたふたりの身を案じる。
 王太子殿下デセーオ様のご学友だった、そして今では臣下という名の下僕となったふたり。
 いろいろと我慢していたのでしょう。だからといって許せる事ではないけれど。





 思ったよりも、森の奥へと入ってしまった気がする。
 足の裏が痛くて仕方ないけれど、捕まるのが怖くて足を止めることができない。

 ふたりとも、そろそろ諦めて馬車へ戻ってくれないかしら。
 それとも、もうすでに後ろには、いないの……?

 今夜は、やけに空が暗い。
 まるで、闇に包まれているようで。
 魔物が出ないうちに帰った方が、彼らの身のためだと思う。

 彼らがいなくなった後、私は――
 自分の身体に結界を張りながら魔の森を越えて、ノワール王国に行くのもいいかもしれない。
 私のことをよく知ろうとしなかった殿下は、私に森を抜ける魔力があるとは思ってもいないでしょう。
 
 王太子妃教育で学んだ聖女不在の隣国ノワール王国。
 そこに行けば、ほそぼそと聖女のお守りを作って暮らしていけるのでは。

 あ、でも……、以前デセーオ様主導の外交事業に協力した時、たくさん聖女のお守りを作ってノワール王国へ安価で提供してからまだ間もない。
 供給過剰でしばらくみんな買ってくれなかったらどうしよう。

 ほぼ慈善事業に近い価格で聖女のお守りを提供するなんて、デセーオ様にしては珍しく善い行いだったからあの時は私も嬉しかった。
 聖女がいなくてノワール王国も困っていただろうし。

 そういえば、これから聖女のお守りは誰が作るのかしら。
 クルーティス王国もうひとりの聖女、テータ様?
 でも、彼女の魔力では、お守りの効力も、彼女の身体への影響も――





 あぁ、走りながら考え事なんかしちゃいけない。

 前世でも、歩きスマホはやめましょうって、どの駅でもホームにポスターが貼ってあったではないか。
 ながら歩きをすると、足元が疎かになるから危ないってことなのに。
 どうして油断しちゃったのよ、私は。



 ――後悔先に立たずとは、この事か、私の、バカッ



 自分を叱責するのと同じタイミングで、うねうねと地面を這う太い木の根に躓き落ち葉へと見事なスライディング。

 しかも足首をひねって激痛が走るというおまけ付き。

 魔力攻撃はするのも防ぐのも得意だけれど、物理攻撃にはめっぽう弱い。

 イタタタタ……と思わず足首を押さえうずくまる。

 乱れた息を整えて、手のひらに口づけしてから治癒魔法を詠唱し――






 その手を掴まれ、ぐぃっと上にひねりあげられた。







 ……ゆっくりと後ろを振り返りながら、掴まれた腕を見上げる。

 下品にニヤリと口角を歪めて笑う男の顔が、漆黒の闇を背景に二つ。



「鬼ごっこは終わりだ、聖女様」

 私の手を掴んだ男が、呼吸を乱しながら告げた。

 額から汗を流すもうひとりの男がぎゅっと握ったこぶしを私の目の前にさしだし、手の中に握っていた物を見せつけるようにこぶしを開いた。

「先ほどの竜巻には驚きましたが、あなたの作ったお守りのおかげで助かりましたよ」

 ククッと意地悪く笑う声が耳に刺さる。
 彼の手のひらには、馬車の中で奪われた私の聖女のお守りがのせられていた。

「さあ、今度は違う遊びをしようか」

「どうせあなたはこの森で行方不明になる予定ですから、その前に私たちの慰み者になっても誰も困りません」

 ――私が困るっつーの!!
 
 自由になっている方の手に口づけをし、呪文詠唱を始――

「むぐぅ、んんー、ムんんー!!!」

 口を塞がれながら身体を押し倒され、足をバタバタさせて抵抗する。

 彼らは口元をさらに歪めて笑った。

「なあ、聖女様の体液には加護があるんだろう? それも粘度が高ければ高いほど強い加護が。聖女様の穴から出る体液で、俺の肉棒に加護をくれよ」

「私はこの身体に興味がありますね。ドレスを取り去った女性の裸はどうなっているのでしょう。あぁ、早く見たい」

 ふたりとも可愛らしい婚約者がいるのに、私と殿下の結婚が延びに延びたせいで、臣下である彼らの結婚もお預け状態。
 この国の貴族は結婚まで純潔を守るのが良しとされているから、20歳となった彼らの性欲は溜まりに溜まってしまったということか。

 でもそれをこの国から追放されいなくなる私で解消しようだなんて、この卑怯者!!
 こうなったら、とことん抵抗してやる!!!

「ムムー!! んんんー!!! ッ!?」



 ピタ、と喉元に小刀があてられた。

「暴れると危ないですよ。手荒なマネはしたくありません」

 ――もうすでに、手荒なことしてますけどッ

 ああ、本当に、物理攻撃にはめっぽう弱い。



 悔しくて、情けなくて、堪えたいのに鼻がツンとして涙が溢れてくる。







 小刀が喉元から胸元へと下ろされ、勢いよくビリィッッッ、とドレスの前面が下着ごと切り裂かれた。




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