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「リリィ・ビエントゥス! クルーティス王国王太子デセーオの名において、お前との婚約を破棄する!!」

 ……この人の頭の中はどこまでお花畑なんだろう。

 ふわりとした栗色の髪、キラリと光る青い瞳、まさに王子様といった素晴らしい美形でいらっしゃるのに本当にもったいない。

 口元を隠すように広げた扇の下で、ハァ、と小さくため息を漏らす。

 殿下と私の婚約は、国王陛下が取り決めてくださったもの。
 このような公式でない場で、勝手に取りやめられるとでも思っているのですか?

 今宵は初めて殿下が主催した夜会。
 王太子殿下主催ではありますが、王家が行う公式なものではございません。
 殿下と同じ学園を一緒に卒業した貴族のご令息ご令嬢が集う、同窓会のようなもの。

 お忙しい陛下は最初のご挨拶だけ述べられて、すでにこの場にはいらっしゃらない。

 婚約破棄したら陛下に怒られる……というよりも相手にもされないと分かっているから、公式の場や陛下がいらっしゃるタイミングを避けましたね。

 一応、理由は聞いておいた方がいいのかしら?

 だいぶ前、この世界に来る前だから20年前、日本に住んでいた20歳の時、友達に借りた小説にこんなシーンが載っていた記憶がある。

 どの小説でもだいたい理由を聞いていた。こういう時、理由を聞くのがマナーになっているのかしら?

 おそらく……というか確実に、殿下に腕を絡ませていらっしゃる、殿下の瞳の色と同じ青いドレスを着た方が原因だと思いますが。
 きっと彼女にそそのかされて、このような事になってしまったのでしょう。

 扇の下で、ハァ、ともう一度息を吐く。

「殿下がなぜそのような事をおっしゃるのか分かりかね……ます?」

 しまった、つい語尾が疑問形になってしまったわ。
 だって理由なんて、火を見るよりも明らかなんですもの。

「なぜ? そんなことはお前がよく知っているだろう。自分がテータにしたことをよく思い出してみるがいい。俺の可愛いテータを虐め、侮辱しておいて! お前の性格の悪さには呆れるばかりだ!!」

 俺の可愛いテータ、ですって!?
 私はふたりの関係をよく知っているけれど、何も知らない方がいる前でよくそんな風に言えますね。
 婚約者がいるのに浮気していたと公言しているようなものじゃないですか。
 ほら、みなさんチラチラこちらを見てますよ。
 私も殿下の言動には呆れるばかりです。

 本日三度目のため息を吐く。

「テータ様を虐めて侮辱した憶えはないのですが?」

「はッ、しらばっくれるつもりか! テータが捧げた聖女の祈りに対して、お前はもっと真面目にやれと叱責したと聞いているぞ!!」

 ……殿下、それは貴方にも責任があると思いますよ。

 祈りの間で、おふたりは何をされていましたか?

 テータ様が祈りを捧げるはずの時間に、この国を護る結界の力が弱くなっているのを感じ様子を見にいって私、見てしまいました。

 王族と聖女しか入室しない場所だからといって、して良いことと悪いことがありますからね。

 この国の貴族は、婚姻するまで純潔を守るべしと教えられているでしょう?

 それを王太子自ら蔑ろにしてよいのですか?

 私の口から申し上げるのが憚られるような事はなさらないでください。



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