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しおりを挟む――走れッ
パキッパキッと足元で折れた小枝の音があっという間に後ろへ遠ざかる。
――もっと、もっと、速くッ
靴は早々に脱げ、折れた小枝の先が薄い靴下を突き抜け足裏に刺さるが、そんなことはどうでもいい。
男たちの下卑た笑い声が、少しずつ近付いてくる恐怖に比べれば。
――お願いッ、足、もっと前に、動いてッ
無駄に長い夜会用のドレスが恨めしい、
裾を抱えて走るだけで息が、切れて、
でも、もう少し魔の森の奥へ、行けば、
魔力のない彼らなら、怯んで馬車へとひき返すはず。
――落ち着いて呪文を唱えられれば
こんな男たち吹き飛ばして
城に送り返してやるのにッ
ハッ、ハッ、と浅くしか呼吸ができなくて苦しい。
それでも、足を止めることはできない。
止めたら、男ふたりに捕らえられ、
凌辱されることが分かっているから。
――逃げてるだけじゃ、捕まってしまう
走りながらドレスの裾から右手を離し、前を向いたまま手の甲に口づけをして、ごく短い呪文を詠唱し後ろに魔法を投げる。
「「うわっ」」
慌てた様子の男たちの声が背後で聞こえた。
振り返る余裕はないけれど、弱い竜巻魔法でもきっと彼らとの距離を広げてくれたはずだ。
足は止めることなく、ほぅッと安堵の息を吐く。
唾液使用でごく短い呪文詠唱とはいえ、それなりの威力はあったと思う。
まがりなりにもクルーティス王国一の魔力を持つ聖女が放った魔法なのだから。
……追放された今は『元』クルーティス王国一、か。
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