上 下
9 / 12

9

しおりを挟む


 馬車までの道。

 媚薬を飲み火照った顔をした騎士様は、苦しそうに荒い呼吸をしながら歩いていた。
 おそらく歩いているだけで、相当つらいと思う。
 普通の人ならきっと、性欲を解放する事しか考えられなくなり歩く事すらできない。

「っぃたぞっ、では我々はこれでッ」
「お前はこのあと部屋へ戻れよっ……」

 馬車のだいぶ手前でそう言うと、逃げるようにして城の方へ戻っていく見張りの騎士ふたり。
 先日ユニコーンに襲われそうになったからだろう。
 ユニコーンの方としては襲うつもりは無く、脅かしただけだけど。

 奴隷の騎士様はつらそうにしながらも、馬車の所まで一緒に来てくれた。
 そして私に一礼するとすぐに、来た道を戻ろうとしたので慌てて声をかける。

「ぁのっ、馬車に置いてある素材で媚薬を無効化する薬を作る事ができます。用意しますので中で座って待っていてください」

 嘘をついてしまった。ごめんなさい。
 これから作るというのは、嘘。

 実は念のため、媚薬の効き目を無効化する薬を一回分だけ用意して持ってきてある。

 だけど無効化の薬を飲ませてすぐにさよならだと心配だから。
 状態が落ち着くまでは、座っていて欲しくて嘘をついた。

 媚薬が効いていて身体が相当つらいのだろう。
 素直に私の言葉に従い、馬車へ乗ってくれた騎士様。

 マントの隠しポケットから、小さな瓶を取り出す。

 事前に摂取しておいても無効化できるから、王が飲んだあとの余った媚薬を飲まされても大丈夫なように見送りの時に飲んでもらおうと思い用意した無効薬。
 持ってきて、本当によかった。
 ……愚かな王のせいで、騎士様が媚薬を飲む前ではなく飲んでから使う事になってしまったけれど。

「こちらです、液状で飲みにくくて申し訳ないのですが」

 騎士様の腕を拘束している縄を解こうと試みたけれど、刃物を持ってきておらず私の力では無理だった。

 薄紫色の液体が入った小瓶の蓋を開け、騎士様の口元へ持っていく。

 少しずつ飲ませていくが、媚薬の影響なのか騎士様の唇が薄く開いていて口の端からこぼれてしまい、上手く飲ませることができない。
 
 仕方がないので自分の口に薬を含み、騎士様に口付け瞳を閉じゆっくりゆっくり口内へ流し込んでいく。

 人と唇を重ねたのは初めて。
 閉じていた瞼を途中で開けたら騎士様と目が合ってしまい、心臓が爆発しそうなくらいドキドキした。

 唇を離すと、柔らかく微笑んだ騎士様。

 よかった、呼吸も落ち着いてきている。

「……俺の名はアルソス。貴女の名前を、教えてもらえないだろうか」

 私の名前を知っているのは、母とユニコーンと、先代の薬屋店主だけ。
 名前を聞かれるのなんて、初めての経験。

「……ローシャ、です」
「ありがとう、ローシャ」

 後ろ手に縛られたまま、アルソス様は身体を傾けると私の頬に触れるだけのキスをした。

 媚薬を飲んだわけでもないのに、顔が火照ってしまいなんだか凄く熱い。





しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

王妃となったアンゼリカ

わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。 そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。 彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。 「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」 ※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。 これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される

中山紡希
恋愛
父の再婚後、絶世の美女と名高きアイリーンは意地悪な継母と義妹に虐げられる日々を送っていた。 実は、彼女の目元にはある事件をキッカケに痛々しい傷ができてしまった。 それ以来「傷モノ」として扱われ、屋敷に軟禁されて過ごしてきた。 ある日、ひょんなことから仮面舞踏会に参加することに。 目元の傷を隠して参加するアイリーンだが、義妹のソニアによって仮面が剥がされてしまう。 すると、なぜか冷徹辺境伯と呼ばれているエドガーが跪まずき、アイリーンに「結婚してください」と求婚する。 抜群の容姿の良さで社交界で人気のあるエドガーだが、実はある重要な秘密を抱えていて……? 傷モノになったアイリーンが冷徹辺境伯のエドガーに たっぷり愛され甘やかされるお話。 このお話は書き終えていますので、最後までお楽しみ頂けます。 修正をしながら順次更新していきます。 また、この作品は全年齢ですが、私の他の作品はRシーンありのものがあります。 もし御覧頂けた際にはご注意ください。 ※注意※他サイトにも別名義で投稿しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です

灰銀猫
恋愛
両親と妹にはいない者として扱われながらも、王子の婚約者の肩書のお陰で何とか暮らしていたアレクシア。 顔だけの婚約者を実妹に奪われ、顔も性格も醜いと噂の辺境伯との結婚を命じられる。 辺境に追いやられ、婚約者からは白い結婚を打診されるも、婚約も結婚もこりごりと思っていたアレクシアには好都合で、しかも婚約者の義父は初恋の相手だった。 王都にいた時よりも好待遇で意外にも快適な日々を送る事に…でも、厄介事は向こうからやってきて… 婚約破棄物を書いてみたくなったので、書いてみました。 ありがちな内容ですが、よろしくお願いします。 設定は緩いしご都合主義です。難しく考えずにお読みいただけると嬉しいです。 他サイトでも掲載しています。 コミカライズ決定しました。申し訳ございませんが配信開始後は削除いたします。

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

処理中です...