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しおりを挟む馬車までの道。
媚薬を飲み火照った顔をした騎士様は、苦しそうに荒い呼吸をしながら歩いていた。
おそらく歩いているだけで、相当つらいと思う。
普通の人ならきっと、性欲を解放する事しか考えられなくなり歩く事すらできない。
「っぃたぞっ、では我々はこれでッ」
「お前はこのあと部屋へ戻れよっ……」
馬車のだいぶ手前でそう言うと、逃げるようにして城の方へ戻っていく見張りの騎士ふたり。
先日ユニコーンに襲われそうになったからだろう。
ユニコーンの方としては襲うつもりは無く、脅かしただけだけど。
奴隷の騎士様はつらそうにしながらも、馬車の所まで一緒に来てくれた。
そして私に一礼するとすぐに、来た道を戻ろうとしたので慌てて声をかける。
「ぁのっ、馬車に置いてある素材で媚薬を無効化する薬を作る事ができます。用意しますので中で座って待っていてください」
嘘をついてしまった。ごめんなさい。
これから作るというのは、嘘。
実は念のため、媚薬の効き目を無効化する薬を一回分だけ用意して持ってきてある。
だけど無効化の薬を飲ませてすぐにさよならだと心配だから。
状態が落ち着くまでは、座っていて欲しくて嘘をついた。
媚薬が効いていて身体が相当つらいのだろう。
素直に私の言葉に従い、馬車へ乗ってくれた騎士様。
マントの隠しポケットから、小さな瓶を取り出す。
事前に摂取しておいても無効化できるから、王が飲んだあとの余った媚薬を飲まされても大丈夫なように見送りの時に飲んでもらおうと思い用意した無効薬。
持ってきて、本当によかった。
……愚かな王のせいで、騎士様が媚薬を飲む前ではなく飲んでから使う事になってしまったけれど。
「こちらです、液状で飲みにくくて申し訳ないのですが」
騎士様の腕を拘束している縄を解こうと試みたけれど、刃物を持ってきておらず私の力では無理だった。
薄紫色の液体が入った小瓶の蓋を開け、騎士様の口元へ持っていく。
少しずつ飲ませていくが、媚薬の影響なのか騎士様の唇が薄く開いていて口の端からこぼれてしまい、上手く飲ませることができない。
仕方がないので自分の口に薬を含み、騎士様に口付け瞳を閉じゆっくりゆっくり口内へ流し込んでいく。
人と唇を重ねたのは初めて。
閉じていた瞼を途中で開けたら騎士様と目が合ってしまい、心臓が爆発しそうなくらいドキドキした。
唇を離すと、柔らかく微笑んだ騎士様。
よかった、呼吸も落ち着いてきている。
「……俺の名はアルソス。貴女の名前を、教えてもらえないだろうか」
私の名前を知っているのは、母とユニコーンと、先代の薬屋店主だけ。
名前を聞かれるのなんて、初めての経験。
「……ローシャ、です」
「ありがとう、ローシャ」
後ろ手に縛られたまま、アルソス様は身体を傾けると私の頬に触れるだけのキスをした。
媚薬を飲んだわけでもないのに、顔が火照ってしまいなんだか凄く熱い。
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