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赤い首輪の飼い主は誰?

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「あれ? 花ちゃん、これ何?」

 勇太君が少しかがんで、ローテーブルの下から拾ったのは、赤い皮のチョーカー。

 あ、さっき片付けた時に、入れ損ねちゃったんだ。

「それ、今回のモニターの商品なんです。チョーカーですね」
「へぇ……、チョーカー、ねぇ」

 勇太君は興味深そうに赤いチョーカーを指で摘まんでぶら下げて、眺めている。

「花ちゃん、ちょっと着けてるところ見たいから後ろ向いて」
「え? は、はい」

 ソファに座ったまま、勇太君に背中を見せるように向きを変えた。
 勇太君が私の首に赤い皮のチョーカーを捲く。

「絡まないように、髪の毛持っててね」

 髪の毛をポニーテールでひとつにまとめるようにして両手で持った。

 その瞬間、チュニックの後ろ襟が少し引っ張られて背中にヂュッと痛みが走る。

「痛ッ」
「ごめんごめん、ちょっと引っ掻いちゃった」

 「ちゃんと付いたよ」と言って、勇太君は満足そうな笑顔。

「花ちゃん、よく似合ってるね。まるで猫みたいで可愛い」



 その直後、ガチャ、とドアが開いて創一郎さんが入ってきた。
 入ってくるなり、なんだか不機嫌そうな顔。

「勇太、なんでお前がここにいるんだ」

 声まで不機嫌そうな創一郎さん。
 ちら、と私の方を見て、ピクリと眉が動いた。

「俺がいない間に人を家に入れたらダメだろ。それに花、どうしてそんな格好でいるんだ。下にズボンを穿いてきなさい」

 家だからいつもの癖でチュニックの下にスキニーは穿いていない。

「いいんじゃないの、ワンピースとしても着られるタイプでしょ、このチュニック。可愛くて花ちゃんによく似合ってるよ。普段からワンピースとして着ればいいのに」
「ワンピースにしては少し丈が短い。それに花はお腹が冷えやすいから、なるべくズボンを穿いていないとダメだ」

 ? あれ? そうでしたっけ??

「創一郎君は心配性だねぇ。それにしても花ちゃん、子猫みたいで本当に可愛いなぁ。連れて帰って飼いたくなっちゃう」

 首につけている真っ赤なチョーカーの辺りを指で擽られて、ピクッと身体が反応する。

「花、首の、外したら」
「え? は、はい」

 チョーカーを外してローテーブルに置こうとしたら、指が引っかかって下に落ちてしまった。
 しかも運悪くチョーカーの飾りの石がローテーブルの脚に当たって勢いがつき、ローテーブルの少し奥の方に入ってしまう。

 ソファから下りて、ローテーブルの下を覗き込むために頭を低くして四つん這いになろうと身体をかがめたら、慌てた様子で創一郎さんが駆け寄りブランケットを掴む。
 そしてバサッと私の下半身にブランケットをかけた。

「花、スカートなのに人前でそんな格好するな」
「本当に、心配性だねぇ」

 勇太君が、楽しそうに笑ってる。



 勇太君も朝食がまだだと言うので、みんなで外に行ってブランチをした。

 家に帰って少しのんびりしてから、勇太君が持ってきてくれたプリンを三人で食べる。
 勇太君用のティーカップと、創一郎さんと私のマグカップを用意して紅茶を淹れると、ダイニングテーブルに並べるのを勇太君が手伝ってくれた。
 勇太君が置いてくれたカップの配置的に、勇太君の隣が私、私の正面に創一郎さんが座る。

 うわぁ、このプリン、美味しいッ!

 一口食べただけで、とろりと甘く蕩けるこのプリンの大ファンになってしまった。
 「花ちゃん、プリン美味しい?」と聞かれたので、「はい」と答えながら勇太君の方を向く。

「花ちゃん、ほっぺにカラメル付いてるよ」

 勇太君にグイッと肩を抱き寄せられ、頬をペロリと舐められた。
 ガタッと創一郎さんが立ち上がった拍子に、彼の紅茶がこぼれたので慌てて台拭きを探す。

 プリンも食べ終わって落ち着くと、勇太君が創一郎さんに出張の報告を始めたので、その間私はリビングでハナコと遊ぶ。
 出張報告を終えた勇太君はリビングに来て、一緒にハナコと遊びながら今度ランチで行きたいお店や最近読んだ本のことを話してくれた。

「花ちゃんは聞き上手だから、話していて楽しいよ」

 勇太君が人懐っこい表情で笑う。
 
 いやいや、勇太君が話し上手なんだと思います。


 いつの間にか勇太君が予約してくれていたので、夕飯も外で食べることになった。
 「まだいるのかよ」と不満顔の創一郎さんを「まあまあ、たまにはいいじゃないの」と勇太君が宥める。

 案内されたのは、料亭が少しカジュアルになったような雰囲気のお店。
 広めの個室だから、周りを気にせずのんびりと過ごしながら食事ができそう。

 勇太君のエスコートで、プリンを食べた時と同じ席の配置で座る。
 今度の話題は、私の仕事の事。

「たまに仕事の様子を見に行くと、子どもたちが花ちゃんのこと好きだっていうのがすごくよく伝わってくる。親への報告連絡もちゃんとできて信頼関係も築けてきてるし、本当に助かってるよ」

 たくさん褒めてくれて、嬉しい。月曜日からまた頑張ろう。

「いつもありがとうね」

 勇太君は隣に座る私の頭をポンポンとしながら、人懐っこい笑顔を私に向ける。


 勇太君がお手洗いに行って個室にふたりきりになると、創一郎さんは席を立って隣に座り、私のことをギュッと抱きしめ頭をわしゃわしゃと撫でた。
 そしてなぜか自分のシャツの袖で私の頬を拭く。プリンを食べた時勇太君にペロリとされたあたりを。

 そのまま頬にキスをして、首にキスをして、唇にキスの場所を移す。
 創一郎さんの舌が唇に触れた瞬間、勇太君の言葉を思い出した。

 『創一郎君は純情可憐な子が好み』

 お店で蕩けるようなキスをする子なんて、創一郎さんに本気で好きになってもらうことできない、よね。

 創一郎さんの胸に手をあてて、彼の身体を少し押しながら唇を離す。

「ダメ、です」
「あ……ごめん」

 戸惑うような創一郎さんの声が、耳に残った。

 いつの間にか支払いは勇太君が済ませていたらしい。
 帰り際、不満そうな表情の創一郎さんを「まあまあ、たまにはいいじゃないの」と勇太君が宥めていた。



 勇太君と別れて家に着くと、時計は9時半を過ぎたところだった。

「花、お風呂先に入っ…………
 ……、一緒に……入る……か?」

 勇太君の言葉が、頭に浮かぶ。
 『創一郎君は純情可憐な子が好み』
 付き合ってもいないのに、何度も一緒にお風呂に入るような女の子なんて、きっとすぐに嫌われちゃう。

「……今日は別々に入りたいです」

 あ、創一郎さんの目、捨てられた子犬みたい……
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